オールディーズ・パーティー、下

2007-12-31 15:08:56 | Weblog
美香子は友達というほどの仲でもないのだが、近場であるイベントでよく顔を合わせ、
何となく近くに座る事になることが多かった。

美香子はジェスチャーで“ひとりなのか?”と訊ね、
頷くと“ここへ来い”と自分の横の席を指差して促した。

そのテーブルには他に男女がふたりずつ座っており、
『あとから友達が来る』と私が知っている女性二人の名前を挙げた。

しばらくすると一つ目のバンド演奏が始まった。

昔のユルイ系グループサウンズの曲が多く、演奏も少し荒く、耳が慣れていないせいか鼓膜がジンジンした。

そのうち“みんな”の中にいた上淵と簔口が私に気付いたらしく、近付いてきて
『ここにおったんか?』と声をかけてくれた。

私は決まりが悪く、『あ、どこにおったと?気付かんかった』と言って、握手した。

上淵はいろんなイベントをやるのが好きで、このパーティーも主催しているのでは?と思っていたが、
今回はどうやら違うようだ。

やがて耳も慣れて来、ステージ前に設けられたホールにも2,3、ジルバを踊っているカップルが出現した。

一時間ほどするとバンドが替わった。

美香子が言うには、このSホテルのオーナーで、
このパーティーの主宰者自らが率いるバンドらしい。

これはまずベンチャーズの曲から始めたが、音の切れが素晴らしく良い。

早弾きでテクニカルな曲を、音程もリズムも完璧に気持ち良く演奏していく。

ダンスをする人々も急激に増え始め、
美香子やいつの間にか来ていた女友達も、座ったままではあるが肩を揺らし指でビートを弾いている。

女友達のひとりが『美香子、次のバンドになったら行くよ!』と興奮した声を上げた。



私は立ち上がり、部屋の周りを回って客の上気した顔を観察しながら“みんな”のテーブルに近付き、
7,8人の知人たちに挨拶をした。

皆、楽しそうに歌ったり叫んだりしていた。

そのまま客の間を縫うように歩き、私はホールに近付いて踊っている人々を間近に視た。

彼らは圧倒的に年配者が多く平均すると60歳くらい、
ダンスもジルバかマンボがほとんどであった。


自分のテーブルに戻るとすぐに最後のバンドになった。

このグループは、梅兼をはじめ私の同級生を中心としたバンドで、
ビートルズナンバーをこよなく愛する。



すると女友達が『美香子!』と叫び、
他の女性や男性たちも一斉に立ち上がってホールに向かった。


私は再び立ち上がり、梅兼たちが演奏するステージのすぐ右サイドに立ち、
水割りのグラスを持ったまま、梅兼たちの目線で、
ホールに入り切れないで揉まれるようにして踊る人々を見続けた。


梅兼たちの演奏は、強烈な興奮光線をそのサウンドに乗せて客たちに浴びせかけた。

この時点では、見渡したところ約8割の客が狂ったように踊っており、
年齢層も40くらいから60代まで、
ダンスはもうジルバを踊るスペースは無く、モンキーダンスやゴーゴーなどてんでバラバラになっていった。



今私の前で繰り広げられている光景は、
団塊世代を中心とした現代日本の経済も風俗も文化も、
まさにその真っ只中を投影している縮図でもあった。

そしてそれは又、その狂乱にお別れを告げる儀式のようでもあった。



私は努めて冷静にこの状況を観察しようと思っていた。

しかし無駄であった。

梅兼たちのど迫力のサウンドは私の体をも蝕み、

その音は私の神経をサソリの毒のように痺れさせ、

私の皮膚という皮膚の毛穴はまったくの無防備状態に開ききり、
その魔の音を鼓膜だけでなく皮膚からでさえ吸収しようとし、


私はいつの間にか空っぽになったグラスを持ったまま


白目を剥いて踊り狂っていた・・・




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