敬三その弐

2007-12-16 12:46:40 | Weblog
私が入院した翌日、窓側ベッドの老人が退院したが、
私の対面の男性が直ぐ其処に転床し、相変わらず私は三方を囲まれていた。

病室での私たちの会話は食事に関することが多く、
『今朝のごぼうは硬かった』だの『昨日のスパゲッティはのびてしもうて食われんやった』だの
『おかずに味が無か』だのとたわいの無いものだった。


4日目の朝食が終わって皆それぞれに薬を飲んだりした後、医者がやって来て、
薬をもう一種類増やすと敬三に告げ去っていった。

敬三は私に『薬ばっかり増やしてから、、どうせゼンな払わんけんよかばってん、、、』と驚くような事を告白し
『もうそろそろ先月分の請求が来るばってん、、、10万しか持たんけん、、、』と心細そうに言った。


私が『高額医療の還付請求ば事前にしとけば、そげん払わんでよかはずですよ』と病院に相談するように勧めると、
彼は『こいのこつの?』と市役所から発行された高額医療認定書を私に見せた。

『あ、そうです。こればすぐ会計の窓口に持って行って、これば使うてお願いします、ち、言うてこんですか』と言うと、
敬三は2,3秒葉書大の認定書を睨んでいたが、素早くベッドを降りるとスリッパの音をペタペタさせながら病室を出て行った。


40分ほどすると敬三は上気させた赤黒い顔をして戻って来、
『だは、、あんたの言うとおりやったばい、、、、5万6千円くらいで良かったばい!』と黄黒い歯を剥いて笑った。

私も少し嬉しくなって『今年の4月から事前請求できるようになったごたるですねぇ』と一緒になって笑った。


その日の夜8時頃、少し仲良くなった敬三と話していると、彼の携帯が鳴った。


機嫌良く電話に出た敬三は次第に眉を八の字にゆがめ始め、
『うん、、わかっとる、、ばってん俺ゃ今入院しとっとぞ、、、』
『そりゃ、そうやろばってん、、苦しかとはお前だけじゃなかとぞ、、みんな苦しかったい、、』と絞るように声を出し、
『わかっとる、、わかっとる、、』と言いながら電話を切った。

そして、しばらくぼんやりと、敬三は携帯を見つめた。




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2 コメント

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敬三ファン その2 (ボチボチ)
2007-12-16 22:34:22
>黄黒い歯を剥いて笑った。

多分、敬三は、こげな歯ばしとるち
思とったやん(笑い)

タハァ~~ おもしろか!!

携帯の主は、敬三のおんなやなかろか???

続きば、早よ、早よ!
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聞けませんでした、、 (P@RAGAZZO)
2007-12-17 11:32:57
あ、いや、、ありがとうございます。

電話の相手はよく判りませんでした、、聞く訳にもいかず、、(笑)

ただ、彼は、、苦悩していました。
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