このような交渉事の場合、
いきなり高圧的な態度に出るのは時として逆効果であることもあり、リスキーである。
しかし今回、この男は今朝の家内の電話に対して『余り高ければ払わない』とか
『どちらにも非がある』というような中途半端な逃げ腰を示しており、
これが例えばヤクザであるならば、おそらく危険な牙を見せながら無視するか、
逆に『お前が急ブレーキを踏んだから追突した』などと言ってこちらから金を取ろ . . . 本文を読む
『ルソンの谷間』 江崎誠致 第37回直木賞受賞
1957年の受賞であるから、終戦から10年ほどの、
まだ戦争の生々しさが人々の脳裏にこびり付き、復興の槌音があちこちから聞こえ始め、
ようやく日本にも光の柱が真新しい建物の間から見え始めた頃の作品であろう。
物語はあの大戦の終戦間際、
400名もの大部隊がフィリピンの灼熱とスコール、飢餓、マラリア、銃傷などの最悪の戦場の中で次々と . . . 本文を読む