goo blog サービス終了のお知らせ 

もりたもりをblog

Valuation/Accounting/Finance/USCPA
何事にも前向きに取り組みます!

コミットメントと一貫性のバイアス

2008-08-19 11:50:35 | Valuation
『影響力の武器』

カリフォルニア州の住宅地の家主に対して、ボランティアと称した社会科学者が実際に行った実験の結果を以下で引用します。

ボランティアは、家主の家の前庭に公共事業の看板を設置して欲しいと頼みました。その看板は、とても大きく下手な字で「安全運転をしよう」と書かれたもので、とてもサイズが大きいので、多くの家主の家がその看板に隠れてしまうような代物でした。当然ながら、多くの住人が前庭への看板の設置を拒否したわけですが(17%の人のみが承諾)、ある特別のグループの住民に限っては、極めて好意的な反応が見られました。なんとそのグループの住民の中では、実に 76%もの人が前庭への看板の設置を承諾したのです。

実は、このグループの人に対しては、調査の2週間前に、安全運転に関する別の小さなコミットメントを要請していました。具体的には、当該調査とは別のボランティアが彼らの家に訪れ、「安全運転をするドライバーになろう」と書かれた3インチ四方のシールを貼っておいて欲しいと頼みました。それはほとんど全ての人が同意するような小さな要請でしたが、その要請の効果は驚くべきものでした。2週間前に安全運転に関する小さな要請に何の気なしに承諾してしまったため、別の大きな要請でも承諾しようという気になったのです。(引用終わり)


人間は、ひとたび決定を下したり、ある立場を取ると、そのコミットメントと一貫した行動をとるように個人的にも対人的にも圧力がかかるようです。そのような圧力によって、私たちは前の決定を正当化するように行動しがちです。ここでは、このような人間の心理的な癖を「コミットメントと一貫性のバイアス」と呼ぶことにします。

この「コミットメントと一貫性のバイアス」を良く知っている組織・団体は、セールスやマーケティング手法などにこれを応用しています。例えば、慈善団体は、より大きな好意を求めて「段階的にコミットメントを強めていく方法」をよく用います。インタビューに応じてもらうという最初の小さなコミットメントを求めることで、骨髄や臓器の提供といった行動を引き出す「承諾のはずみ」にしようとします。

また、某百科事典販売会社は、クーリングオフによる契約破棄を減らすために、必ず販売員ではなく、顧客自身に契約書を書かせるようにしているそうです。多くの企業の営業部門で、形式上、毎月のノルマ数字を営業マン自身に決めさせ、これを記述させて発表させる方法を採るのも、この「コミットメントと一貫性のバイアス」を働かせる効果があるのでしょう。
 

株式投資においても、「コミットメントと一貫性のバイアス」が働く危険は常にあります。「銘柄に惚れるな」という投資格言がありますが、自分の判断で過去に購入を決定した銘柄については、株価が常に上昇する妄想を抱き続けたり、たとえ株価が値下がりを続けたとしても、「これは一時的なもので、この企業の本質的な価値自体が下落しているわけではないので、いずれ、株価は回復するはずだ」とか、「期待の新事業が来年には花を開くはずだから、もう少しの辛抱だ」とか、場合によっては、自分に都合よく解釈を捻じ曲げて、人間は自分の中での「一貫性」を保とうとします。(これは、行動ファイナンス理論で、「認知的不協和」と言われるバイアスです。)

私自身、銘柄に惚れて、過去に何度も痛い目にあっているので、株式投資における「コミットメントと一貫性のバイアス」には、十分に注意しなければならないと思っています。

「自分が応援したい今後成長が見込まれる企業に長期投資をしているので、半年とか1年の損益動向などは全く気にしない」という発想は、投資家として持っていて良いとは私も思いますが、これを、特に下げ相場の時に全面的に押し出すと、結果として、上げ相場となった時にも、手許に塩漬け株ばかりが残っていて身動きがとれなくなり、大きな新規投資ができなかったりして、あまり良い結果をもたらさないような気が致します。

そのようなわけで、ここ数年は、「機械的ロスカット派」に転向した私ではあります。ただこれが「機械的ロスカット派バリュー投資家」としての「一貫性のバイアス」を私に働かせるのかもしれないとも思っています。

最新の画像もっと見る