E-3はボーイング社が製造した早期警戒管制機(AWACS機)。愛称は歩哨・哨兵・見張りの意味をもつセントリー (Sentry)。初飛行は1975年。
アメリカ軍は、大型の航空機にレーダーを搭載した空中早期警戒に高い関心を持っており、早い時期から早期警戒機を運用していた。ベトナム戦争の時期には、早期警戒(空載レーダー)にはEC-121(英語版)(ロッキード コンステレーションの派生型)を運用していたが、EC-121の管制能力は限定されており、指揮統制用のC-130Eの運用のほか、SAGEではデータリンクを通じて地上施設が指揮統制を行なったりしていた。技術発展に伴い、早期警戒のみならず指揮統制についても、同じ機体で行えることが求められるようになり、1963年には、EC-121の後継機の検討が開始されている[2]。技術発展を鑑み、新型機のレーダーにはグランドクラッターの影響を受ける低空飛行機体をも探知できるルックダウン能力も求められた。開発にはボーイング社、マクドネル・ダグラス社、ロッキード社が候補となり、1966年7月にはロッキード社が外されている。1967年にはレーダーが並行して開発されることとなり、ウエスチングハウス社とヒューズ社が競争開発にあたることとなった。陸地上空におけるレーダー(Overland Radar Technology,ORT)の開発は、EC-121Qを改装し、搭載・試験を行っている。ボーイング社は当初、専用の機体開発を検討していたが、十分な性能を有していた707の改設計機を用いることとした。改設計案としては、前傾した垂直尾翼の先端に円盤状のレドームを設置、航続時間延長のため、エンジンはTF34を8基装備する案も検討されている。1970年7月にマクドネル・ダグラス社のDC-8改造案を破り、ボーイング社の707改造案が採用されている。まず、競争開発されている空載レーダーを比較するため、2機の試作機(EC-137D)を製造することとした。試作機は、量産型の要求である14時間の航続時間を必要としなかったため、搭載エンジン数は707と同じJT3D4基のままとなった。
試作機EC-137は1972年2月9日に初飛行している。3月から7月にかけて、2種のレーダーの搭載飛行試験を行っている。試験の結果、1972年11月にウエスチングハウス社製のレーダーが採用されることとなった。ヒューズ社もF-15搭載のAN/APG-63を開発するなど優秀な技術を有していたが、ウエスチングハウス社はデジタル・パルスドップラーレーダーを開発し、実用化させた。このレーダーは、クラッター処理に優れており、低空飛行物体の探知も可能であるほか、水平線越えモード(BTHモード)では長距離捜索のみならず船舶の探知も可能である。
1973年1月26日より全規模開発に移行し、前量産型3機の発注が行われた。コスト削減のため、航続性能要求が緩和されており、エンジンはJT3Dが4基のままとなった。これらの初飛行は1975年2月である。
量産型の完成は1976年。アメリカ空軍では1977年から就役している。アメリカ空軍のほかは、NATOの共同運用のほか、エンジンをゼネラル・エレクトリックとスネクマ共同開発による新世代のCFM56に換装した機体がイギリス空軍、フランス空軍、サウジアラビア空軍で使用されている。このほか、パーレビ体制下のイランが1977年にE-3を7機発注し、1981年までに配備を完了させる計画だったが、1979年のイラン革命によってパーレビ体制が崩壊したため、契約は全てキャンセルされた。
改造母機として利用しているボーイング707の生産数にはこのE-3として製造されたものも含まれており、1981年以降はアメリカ海軍向けのE-6と共に軍用型しか生産されなくなっていたが、同機は1991年をもって生産終了となった。そのため1991年にE-3導入を検討していた日本の航空自衛隊はAWACS導入に別の母機が必要になり、翌1992年ボーイング社が提案したボーイング767を採用し、E-767として4機製造された。
機体
機体は、ボーイング707-320Bを母体として利用している。強力な電磁波を発生させるレーダーを装備する特性上機体には窓がほとんどなく、数少ない開口部である操縦席の前面風防には対電磁波防護を施したものが使用され、機体外壁や乗降ハッチ(ドア)等も対電磁波防護の施された分厚いものになっている。その他には、空中給油装置の付加や発電機の能力向上が行われている。後部胴体の上に二本の支柱に支持された円盤状のレーダードーム(レドーム。直径9.1m、厚さ1.8m)を搭載していることが外見上の大きな特徴である。大きなレーダードームを追加しながら、特に垂直尾翼の形状変更などの飛行安定性向上策は特に取られておらず、実際に飛行特性への影響もほとんどないといわれる。支柱の高さは3.4mあり、また、空気抵抗軽減のため、離陸時にはレーダードームは前下方に6度傾けられる。
アメリカとNATOのE-3は6,400kmの距離を飛行し、無給油で最大8時間滞空できる。フランス、サウジアラビア、イギリスが購入したE-3は、CFM56-2ターボファンに換装されており、8,000kmを飛行し、約11時間滞空することができる。空中給油を実施することでさらに航続距離を延長することも可能である。機内には、休憩スペースや食事スペースが設けられており、長時間の任務時に乗務員が交代で作業を実施することができる。
コックピットは、アメリカ空軍向けは707と同じだがNATOやそのほかの国へ輸出されたE-3は計器の一部がCRTディスプレイに差し替えられている。
アビオニクス
レドームは運用時は油圧により水平方向に毎分6回転し、非運用時でもロートドームの基部にある軸受けにオイルを循環させるために毎分1/4回転している。レーダーは大量の熱を発するため冷却のためにレーダードームには機器冷却用の通風孔が設けられている。
レドームの片方に搭載されるAN/APY-1レーダーは、Sバンドを使用するパッシブフェーズドアレイレーダーであり、機体の傾きを検出して走査を自動的に補正する機能を備えている。動作モードはパルス・ドップラー非高度走査、パルス・ドップラー高度走査、水平線以遠、洋上モード、インターリーブド、パッシブモードの6種類がある。探知距離は250mi(400km)以上[11]、低空を飛行している目標に対し200マイル(320km)で、同時に600個以上の目標を探知、200個以上の目標を追尾できる。ルックダウン時に、グランドクラッター(英語版)を排除しつつ低空を飛行している目標を識別、追尾するために二次レーダーも統合されている。後に、レーダーは海上監視能力を強化したAN/APY-2となった。もう片方には、AN/APX-103敵味方識別装置が装備される。なお、IFFを補完するため、レーダー自体も非協力的目標識別(NCTR)と呼ばれるレーダー反射波を解析することで目標識別が行うモードを備えている。
レーダーが収集した情報はコンピュータ処理され、11台(メイン9台と補助2台)設けられたコンソールのビデオスクリーン上にはデータがグラフィックや表形式で表示される。オペレータは、この情報をもとに監視、識別、武器制御、戦闘管理と通信を実施する。また、これらの情報はデータリンクを通じて、味方の艦船や管制所に送信することができ、緊急時には、RC-135またはタスクフォースを経由して国家指揮権限に転送することができる。これらの電子・機械設備で発生した熱は、ブレードエア(英語版)によって冷却される。
諸元
乗員:
E-3A: 操縦士4名、機器操作員13名
E-3B/C: 操縦士4名、機器操作員17名
全長: 46.62 m (152 ft 11 in)
全高: 12.73 m (41 ft 9 in)
翼幅: 44.42 m (145 ft 9 in)
翼面積: 268.7 m2 (2,892 ft2)
水平尾翼幅: 13.92 m (45 ft 8 in)
ロートドーム直径: 9.14 m (30 ft)
ロートドーム厚: 1.83 m (6 ft)
機首-ロートドーム中心間隔: 30.20 m (99 ft 1 in)
胴体上面-ロートドーム中心間隔: 4.27 m (14 ft)
胴体上面-ロートドーム下面間隔: 3.35 m (11 ft)
空虚重量: 73,480 kg (162,000 lb)
運用時重量: 147,400 kg (325,000 lb)
最大離陸重量: 156,000 kg (347,000 lb)
動力:
アメリカ空軍 / NATO
P&W TF33-PW-100A ターボファン, 93.4 kN (21,000 lbf) × 4
イギリス空軍 / フランス空軍 / サウジアラビア空軍
CFMI CFM56-2A-2/3 ターボファン, 106.8 kN (24,000 lbf) × 4
燃料容量: 22,936 U.S.gal (84,769 L)
性能
最大速度: 855 km/h=M0.70 (461 knots)
巡航速度: 940 km/h=M0.77 (506 knots)?
航続距離: 9,250 km (5,000 nm)
実用上昇限度: 9,300 m (29,000 ft)
連続警戒対空時間: 8~12時間
離陸距離: 2,420 m (7,940 ft)
離陸滑走距離: 1,945 m (6,380 ft)
着陸距離: 1,280 m (4,200 ft)
着陸滑走距離: 670 m (2,200 ft)
武装
搭載不可
チャフ・ディスペンサー 4基(エンジンパイロン部に各1基。スタンダードE-3A、E-3C)
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