陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

部下や同僚を道連れに転職・独立はアウトなのか問題

2020-11-17 | 仕事・雇用・会社・労働衛生

私はかつて県外のとある業界で企画編集職だったことがあります。
これは、はじめての正社員職でした。その企業は地域の老舗企業A社で現社長は4代目。のんびりとした人柄で、給与は少なくサビ残も多かったものの、好きな職種でもありました。

そこを退社して1年ぐらいのちのこと。
何気なくネット検索してみたら…、なんとその会社が訴訟で負けたという。辣腕の営業マン数名が独立し、同業界で法人B社を設立。A社は会社法にある「競業避止義務」違反として訴えたのですが、B社に地裁の判決で敗訴してしまったのです。

競業避止義務とは、何か?
「一定の者が、自己または第三者のために、その地位を私的に利用して、営業者の営業と競争的な性質の取引をしてはならない義務」のこと。商法や会社法に規定がありますし、就業規則について定めた労基法も関わってきます。

近年は会社が従業員の副業を後押しする機運があります。
しかし、雇用先の得意先に営業を持ち掛けたり、重大な社内機密を利用して、従業員が自己および第三者の利益を図ることは問題です。在職中のみならず、就業規則などで、退職者が同業他社への再就職するのを禁じる一文もあります。私の過去の勤務先A社の場合は、これを争ったものでした。しかし、退職者にも職業選択の自由がありますし、競業避止義務に違反した場合の退職金の返還・減額請求や、損害賠償請求についても、その有効性がたびたび問題になっています。

なぜ、この事実を思い出したかといいますと。
9月13日付け読売新聞朝刊に、「部下連れ転職、違法?」と題する記事があったからです。
新聞が報じるところによれば、不動産会社勤務の管理職だった男性2名が部下数名を引き抜いて、同業他社へ転職をもくろんだので、勤務先が懲戒解雇にした。その解雇取消し訴訟と損害賠償請求したという。判決では、部下にあからさまに好条件を示して引き抜きを提案した事実が、企業経営に損害を与える違法なものと判断され、請求を退けられました。

なお、この記事では、過去の引き抜きをめぐる判決例にも触れており。

「引き抜かれた側が」そもそも自らの意思で転職した場合、職場の労働条件に不平不満を抱いた事実が認められるときは、賠償責任を問われないと。引き抜き側が、会社の経営難を匂わす嘘の情報を与えて、かどわかしたなどは背信性が高いとされています。


同業他社への就業やあるいは独立については、個々の人生設計ですので、一概に善悪を問うことはできないでしょう。しかし、会社を辞めて独立する場合は、やはりその後の取引先にもなりかねないので、円満に辞した方がいいです。また、嫌な思いをしてまで退職したならば、なるべく同業界にはいかない方がいいのではないでしょうか。私は転職が多い人間ですが、資格や特定の事務経験があるために、すべて違った業界を渡り歩いています。というか、田舎ですから選択肢がないだけですが。

前述のA社とB社はその後、どうなったと思いますか?
敗訴したA社は、その後も業界ナンバーワンではないですが手堅く生き残っています。B社は資本金1円で起業した、アニメみたいな社名でびっくりしたのですが、その後、どうなったかネット上で出てきません。おそらく廃業したのではと思われます。このB社を設立した若手営業マンは、私が就業時も営業事務ではないのに仕事を押し付けてくる人物で、仕事はできて契約はとってくるのですが品位がない方でした。穏やかな気質の社長に嫌われたのは当然といえますが、こうした従業員をうまく報酬を与えて活かさなかった会社に落ち度がないともいえません。私もその会社では、サビ残の嵐でしたので。そして、賢明な私の旧上司はやはりA社側に残り、社長の片腕として活躍されているようです。

なお、私も士業有資格者ですので。
自社の顧客に営業を掛けないか、取引先データを持ち出さないか、警戒されているなという目線をひしひしと感じます。直接、資格を活かした業務をさせてもらえるわけではなく、わざと別の部署へ配属させて、遠回りなキャリアを積ませることもあります。こうした不満から、資格者は独立したいと考えがちなのですが、基本的な営業経験や経理知識が備わってないうちは、独立すべきではないのかもしれませんね…。行政書士の資格を取得したり、税理士や司法書士などの専門家と交流があるので会社設立の知識も決算書作成の実務もありますが、リスクを考えてみれば二の足を踏んでしまいます。

そもそも、社内政治に関わりたくはないので。
自分の上司や同僚が、経営者や役員幹部の悪口をこぼしていても絶対に乗らないようにしています。だって、いつなんどき、立場の弱い自分の発言にすり替えられるかわかりませんし。会社というのは、意思の複合体。リヴァイアサンというべき得体のしれない魔境ですので(苦笑)

会社は結婚と同じで、つくるのは簡単、名乗るのもたやすい、けれども継続するのは並大抵ではなく、畳むときが一番苦労する…というのは、かつて友人と共同経営していた有限会社をやめて、気楽な個人事業主になった実父のすがたから学んだことです。30年以上続いた会社の信用というのは意外と大きく、IT業界ならまだしも、古い体質の業界で個人が乗り越えるのは難しいというのが、私の見解です。

(2020/09/13)






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