陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

神無月の巫女の雑誌切り抜きについて語る(後)

2023-10-29 | 感想・二次創作──神無月の巫女・京四郎と永遠の空・姫神の巫女
(漫画「神無月の巫女」第十四話 少年エース誌2005年6月号365頁)


2005年の掲載雑誌版の原作漫画神無月の巫女を分析しながら、好き放題に想い出語りをする企画。展開がやや拙速気味ではあるものの、最終二話分では、アニメにはなかった味わいが残る場面があります。

第十三話、アニメにはなかった裏設定が明らかになります。
じつはオロチを掌握するためだけに存在する村と学園。姫宮家の陰謀、千歌音の祖父・姫宮翁(聖闘士星矢の城戸沙織の祖父がモデルか?)の計画。ただし詳しくは説明台詞のみで、もう少し連載に余裕があればこのあたりは掘り下げがあったのかも。千歌音は最初から月の巫女として定められていたものの、贄となる陽の巫女が姫子だとは知らされておらず。親の言いつけよりも、自分の愛情を選んだ千歌音。その愛は前世から姫子が包んでくれた心の温もりによるものだった。




生まれ変わってまでその魂を救い、姫子に幸福な人生を与えたいと願った千歌音。
彼女にそこまで決意させるほどに、おそらく前世では明るく大人びていたという姫子が蒲柳の質の千歌音を慈しんで愛し尽くしたのでしょう。このふたりにどんなドラマがあったのか、ぜひとも読んでみたいものですよね。このふたりは百年も千年も愛憎劇を募らせながら生まれ変わっていたなんて設定、ほんと強すぎます。

地球は壊滅寸前状態、ソウマのヤマタノオロチ食い止めでからだを張って戦闘中。
なのに、姫子と千歌音ときたら、あらあらまあまあウフフな展開がはじまります。姫子を生き残らせるためには「何をしてでも」と決意を語る千歌音ちゃんですが、やってることが、欲望大全開でもうやりたい放題です! 当時の何気なく雑誌をめくっていた他作品の読者さん、そうとうびっくりしただろうな! 編集さんもよく許したもんだ! そしてイロイロされているのにしっかり千歌音ちゃんを説得する姫子も姫子で強いのだか、千歌音ちゃんの初動で慣れちまったのか、なんだか…(笑)。なお、アニメ版ではいわゆる剣の舞踏会で、千歌音ちゃんの伝説のハァハァ斬りといわれているあの場面です、ココ。千歌音ちゃんは、コレをすると、姫子に泣いて嫌がられると思ってあえてやっているんですね。読者はいいぞもっとやれと言いたくなりますが(殴) この濃厚接触部分、50頁ぐらいの同人誌にしたら絶対ファンが食いつきそう!!



(漫画「神無月の巫女」第十三話 少年エース誌2005年5月号396頁)


でもですね、いちおう、千歌音ちゃんは「私のこと好き?」と確認はとっていますので。
姫子もうっかり頷いてしまっていますので。この場面、判断が難しいですが、合意があったとみなしていいのかも(いいのか?)。この後の流れをみたらわかりますが、姫子はコトを嫌がっているわけではなくて。ただ千歌音が「オロチ化したうえで」やっているのが怖かったふしが伺えます。本質的には千歌音ちゃんが大好き、でも、その時点では「仲のいいお友だち」で手をつなぐ程度の、きれいなお嬢さまでみんなの憧れの宮様。そんな千歌音ちゃんがまさか自分にそんなイケナイコトに及ぶはずがないと。だから、恥ずかしくて、「好き」もストレートに言えなかったわけですね、ここは。でも、千歌音ちゃんの本気は、自分の好きを男女の本能に近いものだと知らしめて、姫子の体にたたきつけてしまうわけです。

ぼんやりほんわか濃度が高い原作版の姫子でしたが、巫女服の袷から千歌音の死の覚悟に気づいてしまいます。
姫子、果たしてその知識どっから仕入れたのか? 前世の記憶が開花したから? それはともかく、急に千歌音のまっすぐすぎてあまりに深いその想いから逃げなくなった姫子の逞しさ。男には恋愛感情を持てなかったしときめきがないけれども、こんな美女ならいいかとか、女どうしならお試しの、しがらみがないからといった、そんなヤワな覚悟じゃないのよ。女は恋をすると強くなるものか。千歌音の影になった落涙もワンカットありますが、これは前世の千歌音の像なのか、内面イメージなのか。思わずほだされそうな千歌音。しかし、千歌音は顔を鬼にして、ついにソウマを引導を下して…!! 姫子が自分に抱いてくれた憐憫の情すらも立ち切ろうとする。
姫子を殺すのだと刃を向けても戦ってはくれないのだから。




(漫画「神無月の巫女」第十三話 少年エース誌2005年6月号扉絵)


最終話、2005年の6月号なので5月発売分。
この回の柱の前回までのあらすじが、なんと前話と全く同じなのですが? いやいや、前回けっこうは話進んだけれども、ひめちかのアレやソレは少年誌だからざっくりカットした模様(爆)なお、雑誌版では文字で隠されていたのですが、コミックスの扉では思いっきり千歌音ちゃんがはだけてます、脱いでます! シリアスなのにこのサービス精神、さすが世界のカドカワです(艶笑)。

アメノムラクモと合体神ヤマタノオロチとが相討ちで滅び、ソウマくんも巻き添えに。
そう千歌音ちゃん、あからさまに大神くんを滅ぼしているんですね。つか、前にも血祭りにしてたじゃん。介錯漫画では男の子、けっこう痛い目に遭います。だって、少年漫画なんだもん。でも、被害者ソウマくんなぜか今わの際に姫宮さんの目的には気づいてしまった模様。ソウマくん、やっぱ、あんた常識人すぎるよ! こんな百合世界の名誉男性でしかもヒーローな彼が、可哀そう認定されていいはずがありません! アメノムラクモも同時に抹消させれば、巫女がむざむざどちらかの命を奪い合いして封印の儀式を行わなくていい、ということか、と。そう、この場面、長年、読み解くのに時間がかかったのです。

そして、アニメ版と違って世界を破滅に導いても、姫子は我を忘れて斬りかかったりはしない! 刀もうどっかにやっていますよね?
だから千歌音は目前で大神くん殺害を見せつけて、姫子から奪った数々のものを口にして、真犯人として自死を選ぼうとせねばならない。ところが! 姫子はそんな過ちの千歌音をも救おうとする! その罪すら許そうと。少女革命ウテナのアンシーの手を離さないウテナと同じに。以前の姫子だったら、泣き叫んで呆然としていたはずであろうに、この敏捷なとっさの行動! さすが姫子、主人公の本領発揮です! 

千歌音が語ったのは、ソウマがオロチに、すなわち兄の側につけばオロチは地球滅亡まではしなかった。であれば、ふたりは巫女の運命に飲み込まれなかったはずだったという、もしも。じゃあ、もしも、ソウマが七の首としてオロチにいたら、どうなっていたの? タケノヤミカヅチは使えないから、すぐにふたりでムラクモ召喚できていたのか。それとも、ムラクモがいないままで大丈夫なオロチを抑える対策があったのか。ソウマが姫子を好きでなかったらなんてのは、千歌音のやや独りよがりな思い込みにすぎないようにも思えます。ただし、たしかにソウマもどきが姫子か千歌音かに強い愛着を抱いてはいなかった世界(「姫神の巫女」「京四郎と永遠の空」)ではふたりの巫女は死に別れてはいないので、やはり大神ソウマは巫女の運命にとってのトリガーなのかもしれませんが。

しかし、姫子が聞きたかった真実はそれではない。
もちろん直前まで大神の死を嘆いてはいた。けれども、そこで千歌音までいなくなってほしくはない。なぜ千歌音の方が犠牲にならないといけないのかという問い。その問いの裏側には、わたしでもいいのに、というニュアンスが含まれている。だからこそ、千歌音はひとりですべてを仕組んでしまうしかなかった。

千歌音の望みは、人類の贖罪を背負ったまま消滅し、姫子が自分もオロチもいない世界を選択すること。当然ながらアメノムラクモもいない世界。しかし、それを拒むのは姫子。なんと、アメノムラクモさん、滅んだはずなのに秒速で復活ッて(爆)! この召喚もやはり陽の巫女パワーか?! 千歌音ちゃんをアニメ一話、三話並のロボットアニメお約束の華麗な手のひらキャッチで救出、そこで姫子が千歌音ちゃんに渾身の接吻を。うん、最高です、このシチュエーション!!

ここでめくるめく愛の告白大会が流れそうなのですが、なのですがぁッ! 
なんとまあ非情なムラクモさん、やはりここでふたりを引き離し(Why~ッ? YOUは何しに日本へ?)、タカラヅカの大階段よりも急勾配そうな、月の社までの階段(モデルはたぶん出雲大社にあるあの模型)が出現、ふたりの巫女に世界の再生と別離の決断を容赦なく迫ってきます。ほんっと、原作のムラクモさんは空気読まない子! しかも、月の巫女にもう輪廻しなくて永遠安息の魂の安らぎもあるよと持ちかけてしまいます。いや、それあんた、月の社で巫女が両名揃うのが嫌だからちゃうん? 敦子姐さんボイスの女神様、千歌音ちゃんだけ独占したからじゃないのか? なんて勘ぐってしまいます(大誤解)。

千歌音自身は再度同じ転生をして姫子と痛みをわかちあったとしても構わない。
だから自分からはけっして姫子の居ない世界にいることを望まない。一瞬だけでも姫子と同じ時間にいられる時間軸ならば、どんな茨の世界でも千歌音は馳せつける。だけども、姫子が千歌音のいない安らかな世界線を望むのならば、いやむしろそう望んでもよいようにヒール役に徹していた、と。姫子に選択肢をなげる千歌音はずるいのかもしれない、それでも千歌音の振る舞いはやはり悲しい。愛しの彼女が幸せならば、たとえ月の社で永久の刻を過ごしてもとつぶやく千歌音。

――だがしかし!
社の扉が閉じられるそのとき、駆け込んできたのはなんと姫子!! アニメ版にあった、生まれ変わってもあなたをひたすら待つという約束も、誓いもありません。そんなもの、すっ飛ばして、姫子はやってきたのです。悲しみも苦しみもわたしに分けてとそう千歌音ちゃんに諭した、そんな殺し文句をつらつら並べている時間すらももう惜しい。現世のすべてをかなぐり捨ててもいいから、あなたといっしょに添い遂げたいと! 今からすぐに、わたし、貴女を幸せにするからね、と。いやはや、すごくない? 一話の最初で、ベッドでお寝坊していたグズな子がですよ。この姫子の強さ、早さ、優しさ! それまでの弱虫甘ちゃんな姫子はどこに行ったのかとね。

ここの場面、じつは姫神の巫女でいうところの、神嫁の巫女としての媛子をさらいにきた千華音のすがたと対照になっているわけでしょうね。かたや、神無月の巫女の運命に逆らわずにふたりして、魂の朽ち果てるまで暗黒に閉じ込められる姫子と千歌音。かたや、御神巫女の軛から逃れ出て、命懸けの逃亡劇をつづけ、追手も払って、ついには成人して結婚までしてしまえる現代版の媛子と千華音。どちらが進んだとか遅れたとかではなしに、双方とも美しい結びではあります。戦闘能力としては千歌音の方が高めなのに、土壇場でメンタルがタフであんがい運命をひっくり返せる底力があるのは姫子のほうなんですね、どの作品でもわりあい。「京四郎と永遠の空」の原作漫画では地味なメガネっ子絵描きでいっけん目立った動きはないのですが、あの高慢な女王ミカさまが改心するぐらい「他人を赦す強さ」を発揮するひみこの懐の深さは、シリーズに共通しているのでしょうね。




雑誌版は「月には誰も知らない社がある…そこで二人は永遠の夢を見る―― そして…」という月の社に浮かぶ巨大な地球の姿で終わっています。

この続きがあるのは単行本二巻を読めばお分かりの通り。
アニメ版Cパートでは大学生になったらしき姫子と都会で再会した千歌音。さわやかな大人の女性の出逢いという感じでトレンディドラマのように恋がはじまりそうな雰囲気。

ところが原作版で、なんとなんと、いつかはわからぬながら双子の姉妹として転生。自分の運命を生まれながらに知っていて、16年間つかず離れずで過ごすという、より密着度の高い、けれども女性愛+近親相姦という、タブーにタブーを重ねた濃密な関係性に! しかも地方の学校にありそうなブレザー制服とかね。

こんな似ていない双子、現実にいるのかとも思いますが、この姉妹設定、後継作の「絶対少女聖域アムネシアン」にも受け継がれています。双子姉妹で生まれ変わったあとの禁断めいた想いのあれやこれやを描いたとかいう原作者先生描き下ろしの同人誌もあったとか言う噂も聞きます。

この単行本巻末には、外伝小話と雑誌版最終カットのあいだに、特別な一頁があります。
アシスタントさんや、アニメ制作陣、プロヂューサーの日高功氏、柳沢テツヤ監督、シリーズ構成脚本の植竹須美男氏、キャラデザの藤井まきさん、そしてロボットデザイナーの村田護郎氏がきちんとクレジットされていました。アニメ神無月の巫女好きにも嬉しい配慮ですね。

余談ですが。
このアニメが放映されていたのはサンテレビ。私がそもそも当時関西在住で、しかも深夜勤務の当時のつらい仕事をしていなければ、この作品に出会うこともそもそもありませんでした。たぶん、その直前ぐらいに放映終了したハガレンをひきずって、その二次創作をしていたでしょうし。いったい、どういった縁でこの作品がわたしの人生に舞い降りてきたのだか、不思議です。

この作品にのめりこんでほぼ20年の歳月はいろいろありましたけども。
あの昔と違って、そこそこ自分の願ったとおりの仕事が得られ、生活も豊かではないけども安定し、健康不安はあるが生きるよすがとなる楽しみがあることで、なんとか生き延びられている。今の自分はやはり、この作品に救われていたのだとつくづく思うのです。そういったヲタクならではの、誰にも憚られずに、世間的な評価軸とは別の熱量といったものは、自分らしさを大事にするきっかけになったと言えるでしょう。

なので、毎年の独りきり神無月祭りをするのは、実はその一年を無事なんとか生き延びてきた自分をお祝いする意味もあったわけです。ひとを好きになる、好かれるのにも、憎む、嫌われるのにも、なにがしかの理由があり、二面性がある。けっして、姫宮千歌音のとった行動は褒められたものではない。なのに、とても悲しい。デカルトではないが、われ、神無月を想う、ゆえに我あり。この思考ごっこを生涯楽しむのでしょう、これからも。


神無月の巫女の雑誌切り抜きについて語る(前)
われ、神無月を想う、ゆえに我あり。2023年現在、ひめちか廃人歴19年の管理人が神無月前に禁断症状が出て、秘蔵のコレクションのなかから想い出語りをしてしまう、誰得でもない日記です。2005年初春、アニメ放映終了直後の雑誌連載分を眺めてにやにや、明日を迎えるためのこころの養分にしています。


*漫画「絶対少女聖域アムネシアン」&ウェブノベル「姫神の巫女」、そのほか関連作レヴュー一覧*
漫画「絶対少女聖域アムネシアン」および、ウェブノベル&漫画「姫神の巫女」、そのほかの漫画などに関する記事です。


神無月の巫女公式関係者リンク集
原作漫画家、アニメ関係者、関連作品に関する公式サイトおよびツイッター等のリンク集です。











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