陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

笑いで転がすか、涙で落とすか、二次創作にはそれも問題だ

2020-05-09 | 二次創作論・オタクの位相

今回も、二次創作者の皆さんにアンケートをとって聞いてみたい案件です。
泣き落としのシリアスが得意か、ユーモアのあるコメディで攻めるか、どちらが好きですか?

私は読む側に回れば、どちらかといえば、コメディのほうが好きです。
とくに原作がそれなりのどシリアスで泣かせる話ほど、バトル物でびしばし闘う流血ものであるほど、笑いネタに走ってくれたほうがありがたい。ギャグものは、作者に独特のセンスがあれば、画力や文章がイマイチでも強引に押し切れるので、けっこう楽しめます。語彙力や言い回し、作画能力はある程度練習すれば一定の水準まで達せそうですし、技巧的には模倣もしやすいのですが、抜群にひとを笑わせるツボを心得るというのは、天性のものではないかと。

ただし、あまり極端に下品にならないようにしないと受けませんが。
原作キャラが美形である場合は、顔の変形もほどほどにしないとクレーム沙汰になりかねないので注意が必要ですね。特定のキャラを芸人のいじりのように、皮肉めいて動かすのも、なかなか難しく、かえって興ざめされる恐れもあるでしょう。そういえば、キャラの顔を少女漫画風にするのっていつからギャグ認定されはじめたのだろう…。本来がコメディタッチだと、キャラが二枚目や劇画調になったらむしろギャグなんですよね。ドラえもんが六等身のおっさん顔になったら怖いわ。

どちらかといいましたら、ヴィジュアル勝負しない字書きビギナーのほうが、お笑いに挑みやすいのかも。

シリアスものは、短編ではなくて、そこそこ構成のある中編、長編に多いのではないでしょうか。長編に断片的にボケ、ツッコミを含ませるのはいいのですが、やはり全体的にはお真面目につくっておかないと長く続きませんね。

アリストテレスの『詩学』が説いていたはずですが、悲劇にはカタルシスが必要なのです。
主人公もしくはその周辺が破綻に向かう。なにかを失ってもいいが、そこには救いがなければならない。同情させ、義憤にかられ、喜びをわかちあうものがなければならない。

原作がすばらしい悲劇であるものほど、二次創作でその悲劇性を再現するのは、簡単なように思えてなかなか難しくなります。
なぜならば、その物語を見て悲しんだ自分の感情が乗り移ってしまい、くだくだしいものになってしまいがちだからです。たいがいの思春期の女学生の恋愛ものとか、男子の青春ものとかが痛いたしいのは、そのせいです。とくに二次創作歴が長くて、表現に欲が出てくると、どんどん話を重くしたり、欝々とした展開の連続にしたりしがちで、波がないものにしてしまいます。自己紹介乙ですが(苦笑)。最近、日常系アニメでゆるいストーリーが多いのも、視聴者が現実に疲れていて、癒しを求めているからだともいわれています。

シリアスものが飽きられやすいのは、量産型でよくある展開になりやすいからかもしれません。原作ではお笑い担当でいじられキャラにスポットをあてて、輝かせたような二次ストーリーだと大受けはしないでしょうが、渋好み派には評価されるかもしれませんね。

ところで、読まれるか、読まれないかは別として。
書くのなら、シリアスか、コメディか、どちらが好みなのか。私はどちらか一方に偏らず、両方書いてみたいと思っています。テンポがよくて楽しいシーンのあるほうが、書いていておもしろいですし。泣かせようという気持ちで書くと、どうしても上から説き伏せようとする圧力のある描写になりがちですし。湿っぽいのは、長びくと相当うっとおしいものです。

さきほどお笑いネタは初心者ほど手掛けやすいと言いましたが。
じつは、かなり上質なコメディは作者が相当ジョークに長けて、エスプリが利いていないと成立しないものですよね。喜劇王とされるチャップリンしかり、モンティ・パイソンしかり、いま時分ならば、ミスター・ビーンで知られるローワン・アトキンソン氏など。高名な喜劇俳優にはわりと教養ある人が多いものですし、誰かを笑いものにするのではなく、自分が笑われていくのがうまいのです。プライドをかなぐりすてないと、できない芸当です。ですから、誰もが不快にならないほどの笑いをつくるには、相当の熟練が必要といえるのかもしれませんね。賢ぶるのは誰にでもできそうですが、道化になるには知恵が必要なのです。笑いをとろうとして滑ったときの居たたまれなさを恐れない勇気も…(苦笑)。


【二次創作者、この厄介なディレッタント(まとめ)】
趣味で二次創作をしている人間が書いた、よしなしごとの目次頁です。
二次創作には旨みもあれば、毒もあるのですね…。



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