陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

映画「ゼロ時間の謎」

2024-07-05 | 映画───サスペンス・ホラー

2007年のフランス映画「ゼロ時間の謎」は、アガサ・クリスティーの『ゼロ時間へ』を映像化したもの。ゼロ時間とは、人びとを物語の結末に導く帰着点と、作中語られています。つまり、犯行がおこなわれた瞬間に、検証で立ち戻ることがゼロ時間に立つということなのでしょう。

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教養深い前妻のオード、それに美しい新妻キャロリーヌを連れてギヨームは、富豪の未亡人である伯母カミーラの別荘を訪ねます。その館には、使用人のマリ=アドリーヌや、オードの古い友人で親戚筋のトマも参加。そして、老弁護士トレヴォーズ。新妻には金づるの浮気相手フレッドまで。楽しいバカンスを過ごすはずの一同、しかし、ある日、二つの他殺体が発見されて…。

女性が多いせいかもしれませんが、登場人物のほとんどが殺気立っています。
まず、ヒステリックなキャロリーヌは前妻のオードと反りが合わない。キャロリーヌはオードが夫のギヨームによからぬ思惑を抱いていると嗅ぎ取り、邸を離れたくてたまりません。しかし、ギヨームのこころはオードへと傾いていく。いっぽう、オードはトマの想い人。ふたりが逢引しているところを見咎めて、マリ=アドリーヌも心中穏やかならざるものがあります。しかし、実はアドリーヌはフレッドとも通じていて、カミーラの財産狙いであることを伺わせる。さらには、オードと寄りを戻そうとしたギヨームは、カミーラに猛反対されてしまいます。

トレヴォーズが語る、かつてあきらかに意図的に殺人を犯しながら罪を免れた子供たちのお話がどこか謎めいていますね。その翌朝に、心臓発作で亡くなったトレヴォーズ。さらにはカミーラまでが不審死を遂げてしまいます。

全員に動機があるという不確定殺人。
証拠の多すぎる現場、しかもそのほとんどは甥で遺産相続人のギヨームに結びつく。しかし、遺産の相続権はトマを除く使用人にすらあるのですから、誰が犯人であってもおかしくはない。しかし、金銭目的というよりも怨恨かもしれない。
その真犯人は、「オリエンタル急行殺人事件」のようにとはまいりませんが、たしかに意表を衝く人であったかも。ゼロ時間とは事件の空白を二転三転する謎の始まりに戻るという意味であったのかと。

冒頭の自殺未遂の男や、バタイユ警視の娘のエピソードが意外な伏線になっていて、最後に利いてきます。恐れずに真実に立ち向かうこと、という前向きなメッセージが貰える良作だと感じました。

監督はパスカル・トマ。
出演は、フランソワ・モレル、ダニエル・ダリュー、メルヴィル・プポー、ローラ・スメット、キアラ・マストロヤンニ。


(2011年10月18日)


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