
2008年のアメリカ映画「イーグル・アイ」(原題:)は、突然、一本の電話から運命を牛耳られてしまう男女を中心とする白熱のサスペンスアクション。製作総指揮は、あのスティーヴン・スピルバーグです。
イーグル・アイ スペシャル・エディション (2枚組) [DVD] | |
![]() | 角川エンタテインメント 2009-02-13売り上げランキング : 32854Amazonで詳しく見る by G-Tools |
シカゴのコピーショップで働くジェリー・ショウは、双子の兄イーサンが急死した矢先、自宅に大量の武器を送りつけられる。
無実の嫌疑でFBIによって拘束されてしまったジェリーは、携帯電話にかかってきた謎の女の指示にしたがって逃亡。
謎の女の声に導かれるままに乗り込んだ車には、シングルマザーで法律事務所の補助員レイチェルが待っていた。息子のサムの命をかけて女の命令に従わざるを得ないレイチェルとともに、ジェリーは秒単位で行動を監視されたまま、目的地へと急ぐが…。
二人を追いかけるのが、ジェリーを取り調べたFBI捜査官のモーガン、そして空軍から派遣された女性捜査官のゾーイ・ペリス。とうしょ、このペリスが怪しいのかと睨んでいたのですが、謎の女の正体は米国の国防総省にある地下組織イーグル・アイに置かれたコンピューター「アリア」でした。この「アリア」こそは、あの「2001年宇宙の旅」のコンピューター・ハルと同じような経緯で人間に脅威をもたらす存在ではありますが、けっして機械が人間に害をなす古典的なSFの筋書きにのっとったとはいえないほど、本作ではたくみな人間の描写があります。
かけがえのない我が子のために奔走する母親、そして優秀な兄に劣等感を抱いてきた弟。車中ではお互いの生活感の違いから対立し、謎の女に操られる恐怖から逃げ出そうとしては片方ずつの手を手錠をかけられた者どうし引き寄せあってしまう彼らは、終盤、我が子ひとりのためだけではなく、また兄の名誉を守るためだけでもなく、アメリカ国民を救うための行動を開始します。
いっぽう、「アリア」の真の目的に勘づいたモーガンやペリスたちも活躍することに。
ひじょうにハイスピードで進み、先がまったく読めない展開の連続。
ふつうならここで終わるのではないかというところで、暗転してしまうので、並みの映画を二、三本凝縮して取り込んだ質の高さがあります。監視社会やネットワーク暴走の恐怖などを描いた作品はあげればきりがありませんが、とりたてて特殊な能力をもつわけでもない民間人が、自分のなすべきことを前に逃げ出さないという勇気と行動力を描いたという点が狙い目であったのでしょう。無気力で弱腰な男性がヒロイズムを負うという王道展開もそのためにありきたりには見えませんし、ラストで恋仲になるであろうレイチェルとの親密ぶりもよけいなラブシーンなどはないので陳腐に思われない。
なにより秀逸なのが、アメリカのテロ撲滅の裏で過激になる反イスラム組織への敵意や凝り固まった政府への痛烈な批判が含まれていることでしょう。オサマ・ビンラディン暗殺の後にこれを見た者としては、暗殺の報を聞いて歓喜に湧いた市民の映像に冷めた目線を感じざるをえませんね。
主演はシャイア・ラブーフとミシェル・モナハン。
監督はD. J. カルーソ。
(2011年6月18日)