「病人の枕元に行きなさい。
そこでしか病気は学べない」
トマス・シデナム(Thomas Sydenham、以下、シデナム)は、そう言い、
理論より経験によって知識を習得するアプローチを発達させ、
17世紀、クロムウェル治下の英国が、
啓蒙時代の夜明けを迎えつつあるころを生きた。
シデナムは、迷信や悪魔や教義、そして、残酷な荒療治から、患者たちを解放し、
友人で哲学者のジョン・ロックとともに、
病気を学ぶのは患者からであり、
理論、哲学、宗教の教えからではない、と説いた実用的医学の第一人者である。
シデナムは、
観察し、分析し、比較した。
それに拠って、いつも共通して生じる症状を突き止め、
その経過と予後を研究した。
シデナムは、疾病のパターンを理解することが、原因を明らかにして治療法を見出すのに役立つことを発見していたから、
観察し、分析し、比較したのである。
現代医療にもこのような姿勢は健在だろうか?
そのような姿勢で、シデナムが、研究して明らかにした病気たちのなかに、
ヒステリーと心気症
がある。
シデナムは(約200年後のジークムント・フロイトやジャン=マルタン・シャルコーよりも深く)考え、認識していたことがある。それは、
「心理的苦痛が肉体的症状にまで現れている患者に対して、
過剰な治療を施したら、
症状が悪化しかねないため、
行き過ぎた治療は止めて、
かわりに心理学の技術を用いた方が、
患者の回復に役立つことも多く在る」ということである。
シデナムには先見性がある。
「ときどき私は何もしないことで、患者の安全と自分自身の評判に最善の配慮をしている」とシデナムは言う。
自身の立ち位置を正確に理解し、的確に行動する素晴らしい姿勢である。
現代医療にもこのような姿勢は健在だろうか?
シデナムの功績で忘れてはならないのが、舞踏病(→患者本人にはコントロール出来ない、手足や胴体の収縮を症状とする)の原因は、当時信じられていた悪魔などではなく、
連鎖球菌性咽頭炎を起こしたあとに発症する脳の炎症が引き起こした運動である
、と、説明し迷信に支配された世界の、蒙を啓いた。
また、シデナムは病気の薬物療法を確立しながら、処方薬依存への警戒・警告を怠らなかった。
事実、シデナムはアヘンを薬として高く評価したが、処方薬依存を警告・警戒していて、同業者の多くが過剰投与と思われる荒療治をすることに常に疑いの目を向けていたようである。
現代医療にもこのような姿勢は健在だろうか?
ここまで、読んでくださり、ありがとうございます。
シデナムは貧血の治療に鉄分が有用であるとして、鉄分の接種をすすめていたり、キナ皮の抽出物(≒キニーネ)をマラリアの治療に用いたりしていたようです。
どちらも、残暑で貧血や蚊に悩まされる私にはありがたいはなしです。
今日も、頑張りすぎず、頑張りたいですね。
では、また、次回。