2024年01月08日
北海道機船漁業協同組合連合会内 一般社団法人北洋開発協会 原口聖二
[洋上風力発電と漁業 日本の経験#61 漁業影響調査を行っていない石狩湾洋上風力発電事業 地元にも特需なし]
2024年1月1日、北海道 石狩湾において国内最大級の洋上風力発電所が商業運転を開始された。
稼働が開始された石狩湾でのプロジェクトについて、2023年11月13日、国土交通省港湾局海洋・環境課海洋利用調査センター(所長:榊原基生様)は、把握している限り、漁業影響調査に関する論議に至らなかったと語り、調べた限り漁業影響調査を行っていないと明らかにしている。
漁業への影響について、所謂“ベースライン調査”なしに当該商業運転が開始されたことになる。
この経緯の中、2024年1月6日付日本経済新聞(岡本康輝様/魚山裕慈様)が、地元は、経済効果に期待を膨らませたが、建設作業員の宿泊や飲食などで、現地企業への事業発注はわずかであり「恩恵は限定的だった」と関係者の指摘を伝えた。
2024年01月06日 日本経済新聞(岡本康輝様/魚山裕慈様)から転載
北海道で大規模洋上風力が稼働 地元に吹かぬ特需の風
「洋上風力の作業員が泊まってくれた。秋まで半年間滞在した人もいた」。昨年12月、記者が石狩市を訪れると、宿泊関係者はこう語った。
石狩市沿岸から約2キロメートルの海上に、国内最大級の8000キロワットの風力発電機14基が立ち並ぶ。グリーンパワーインベストメント(GPI、東京・港)が事業主体で、人口減少下を生き抜くために石狩市や北海道が中心となって誘致した。
地元の恩恵は限定的
総事業費は約800億円に上り、地元は経済効果に期待を膨らませた。だが、関係者は「恩恵は限定的だった」と肩を落とす。建設作業員の宿泊や飲食などはあったが、現地企業への事業発注はわずかだったからだ。
国は再生可能エネルギーの主力電源化を目指している。本命とされる洋上風力のサプライチェーン(供給網)の形成はエネルギーの安全保障につながるため、40年に関連部品など国内調達率6割の達成を掲げてきた。
GPIは洋上風力のサプライチェーンの形成につなげるため、できるだけ国内企業の参加を呼び掛けた。
清水建設は洋上風車の施工に使うSEP船、日鉄エンジニアリングは洋上風力の土台……。今回は成長が見込める風力事業に足場を築こうと大手企業が次々と手を挙げ、国内2例目ながら目標を上回った。
GPIは地元企業にも積極的に関わるように声を掛けたが、色よい返事は少なかった。洋上風力への参入は、多額の投資が必要となる。幸村展人副社長は「中小企業ができることに限界がある」と漏らす。
加藤市長「再生エネは人口減少を食い止める」
それでも、石狩市は地域再生へ洋上風力に懸ける。国の洋上風力の有望な区域に選ばれており、石狩市沖では最大114万キロワットの発電容量の洋上風力ができる可能性がある。
実現すれば、単純換算で総事業費は数千億円規模になる。加藤龍幸市長は「再生エネを活用したまちづくりは、人口減少を食い止める最大の施策だ」と強調する。
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経済への波及効果をどう高めるか。市は今回の反省を生かし、企業誘致に向けて調査に動き出した。
市企業連携推進課の池内直人課長は「部品供給やメンテナンスの拠点にしたい」と展望を描く。国内から関連部品の生産拠点を誘致できれば、雇用が生まれる。
洋上風力の電気を生かし、データセンターも呼び込む。「風が強いことが企業誘致に不利とされたが、これからは有利に働く」(石狩商工会議所の長木恭吾事務局長)
中小企業の不安は消えない。石狩市に橋の金属部品などの製造工場を持つマルキン工業(札幌市)の佐藤眞彰社長は「洋上風力に関わるには相当な覚悟がいる」と、市による政策支援を要望する。
動く巨額投資
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日本は30年に洋上風力で1000万キロワットの導入を目指している。今後は各地で大規模な洋上風力の開発が動き出す。
三菱商事は秋田県と千葉県の3海域で開発し、総事業費は約1兆5000億円に上るとみられる。23年12月には公募第2弾で秋田県、新潟県、長崎県の3海域で三井物産などの落札企業が決まった。総事業費は2兆円規模になる見通しだ。
地元関係者は「巨額投資の恩恵にあやかる千載一遇の機会だ」と指摘する。三菱商事に発電設備を納入予定の東芝は既に秋田の企業から部品供給元を選ぶ作業に入っている。
洋上風力の街に生まれ変われるか――。いかに追い風を捉えられるかが、脱炭素時代の地方の行く末を左右する。