ダンブッラで黄金寺院の観光を終えた後、僕にはやることがあった。
それはビールを飲むこと。
そしてシーギリヤでの滞在中に飲む酒をまとめて買っておくこと。
シーギリヤでは2泊する予定のため、その分の酒が必要なのだ。
昨夜飲めなかった分も飲まなければ、気が済まないのだ。
なんのために、酒が一般的に飲めるスリランカに来たと思っているんだ、まったく。
黄金寺院から町へ戻ろうとしたら、一台のトゥクトゥクが声をかけてきた。
「ハロー、ミスタル、どこ行くんだい?」
タイヤまわりにボブ・マーリーを飾る、イカしたダンブッラ・ガイだった。
町に戻ると言うと、相場の3倍くらいをふっかけてきた。
いつものことながら、このやりとりは非常に面倒くさい。
このやりとりを避けるためだけに、時間をかけてバスに乗ることもあるくらいだ。
いつもならイライラする僕も、今回の旅では違う。
スマホにPick Meをダウンロードしている。
「じゃあ、50Rs.でどうだ?」
と、こちらから提案すると、さらに金額交渉を続けようとしてくるが、そんなときはスマホをかざしてPick Meの画面を見せる。
そして今回もスムーズに交渉がまとまるのだった。
町に戻る途中、ドライバーは「次はどこに行くんだ? キャンディか? コロンボか? シーギリヤか?」と聞いてきた。
「シーギリヤだけど」と言うと、バスで行くより、「俺のトゥクトゥクで行かないか、安くしとくぜ」と言い始めた。
スリランカを旅している中で、トゥクトゥクのドライバーからこのように貸し切りしないかと言われることがよくあった。実際に数日間貸し切って一緒に旅した人もいるようだ。
彼らとしても身入りがいいんだろう。
この兄ちゃんにはダンブッラの町まで運んでもらえるだけでよかったのだが、ここから町で食事をして、酒を(多めに)購入して、さらに20km程度離れたシーギリヤまでバスに乗って、宿の最寄りで降りて、宿まで歩いて、という工程が急に面倒臭くなってきた。
今晩の宿はすでに予約しており、どうやら現地のバス停からは少々不便なところにあるらしい。
この兄ちゃんのトゥクトゥクですべてがまかなえればと思った。
「ここからダンブッラの町に戻って、数時間後に改めて俺を迎えにきて、その後シーギリヤのホテルに連れて行ってくれ」
「もちろんだ、ミスタル」
ちなみに、どうでもいいことだが、ミスタルというのは、Mr.のこと。インド発音だと「r」を「ル」って言う。
「いくらで行ってくれる?」
「1000Rs.」
600円くらいだ。
非常に安いけれど、意地悪く、もう少し絞ってやろうと思った。
「800Rs.ならいいよ。即決する」
「おー、ミスタル!」
「Pick Meで調べることもできるけど…」
「OK、わかった。800Rs.でシーギリヤまで行こう」
交渉成立だ。
ということで、まずは町で一番のスーパーマーケットまで連れていってもらうことにした。
もちろん、酒が買えるところとリクエストすると、お前も好きだねぇと、ニヤリと兄ちゃんは笑った。
ここだ、と降ろされたのは、町の少しはずれにあるスーパーマーケットの前。
「じゃあ、酒を買ってこい。ここで待っているから」
と言ってきたので、
「いやいや、俺たちはこれからランチをとって、その後にこの店で買い物をして、それがすべて終わったらシーギリヤに向かうんだ。最初に言っただろ?」
「じゃあ、いつ出発するんだ」
実はこのとき猛烈にのどが乾いていてビールを飲む気満々だった。
飲み屋にこの兄ちゃんを連れて行ったら、飲み始めて飲酒運転…ということになりかねないので、ここでいったんサヨナラをしたかった。
そしてゆっくり飲みたかったので、2時間後の15時にここで再集合ということにした。
「約束は守れよ」
「日本人は約束守る民族だ」
「俺の顔は覚えたか、車のナンバーを控えろ」
「覚えてるし。っていうか、お前、来いよ。何かの用事を作って15時にいなかったらほかのドライバーに声かけるからな」
といって、まずは前金で、当初の乗車だった、町までの50Rs.を払った。
これで兄ちゃんは損をしないし、もし来なくても、僕らも損失なくシーギリヤに向かうことができる。
このあと、一軒の居酒屋を見つけ、初めてのライオンビールを飲んだのだが、あまりに勢いよく飲みすぎて、写真を撮ることをまったく忘れていた。
確かにビールはうまかった。
本当にうまかった。
そして2時間後、スーパーで買い物を終えた僕たちの前には、ダンブッラのナイス・ガイがトゥクトゥクを背に立っていた。
約束を守るとは、スリランカ人、なかなかやるな。
国は違うが、インド人とは大違いだ。
スリランカとインドの違い。
旅の時間が増えるにつれ、この差異が大きくなっていくのだった。
「待ってたぞ。さあ、シーギリヤへ行こうぜ!」
(つづく)
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