槍平小屋ニュース 

槍ヶ岳・飛騨側登山ルートの要衝、槍平小屋から日々の出来事や最新登山道情報をお届けします。

想像力と、72時間

2024年01月13日 | 日記

皆さまの中にはフライトレーダー24というサイトをご存じの方もいらっしゃると思います。画面上に写る航空機をクリックすると、その詳細を知ることが出来ます。能登半島地震発生以降、他府県からも県警、防災ヘリなど救助応援のヘリコプターが複数飛来していたのが確認出来ました。”72時間の壁”(人命救助での生存率が下がり始めるのが被災後72時間以降)を前に、懸命の救助活動が行われており、その中には同じく被災県である富山県からのヘリコプターもありました。どの自治体もありあまるヘリ機体、救助隊員を持っているわけではありません。自身の地域への対応も考慮しながら、しかし、”72時間の壁”に向けてギリギリの調整を行って被災地への飛行計画が決定されたはずです。富山県防災ヘリの1月1日飛行記録を見つけていた方のXポスト

年初の冬山登山を余震への警戒から中止された方も少なくないのではないでしょうか。余震が頻発する状況というのは平時の積雪期とは違って登山者自身のスキルや体力とは関係なく、遭難発生確率が高まった状態であったと考えられます。新年一発目の登山に向けて入念に計画されていた方にとっては苦渋の決断であったかもしれないのですが、実はその決断はご自身の身の安全を確保した以上の効力を発揮したのではないか、と考えます。被災地での救助活動期間、とりわけ発災後72時間の間に入山を控えたことは”起きたかもしれない”登山者の遭難救助活動にヘリ、救助隊員を割くことを防いだのかもしれません。因果関係を科学的に説明することは難しいのですが、そんな”バタフライ・エフェクト”はきっと、どこかで起きていたように感じています。”今、この状況下で、自身の行動がどこに、どんな影響を及ぼす可能性があるのか”について、想像力の奥行きを広くとって考えることは今回のような災害時に関わらず、大切な思考方法かもしれません。1月2日に富山県警察山岳救助隊の公式Xで登山中止が呼びかけられていたポストを目にされた方も多いと思います。想像力を働かせると、そこには登山者の安全を心配することだけでなく、被災地での救助活動に集中できる体制作りを目指している現場の危機感を感じ取ることも可能です。年初の登山を中止された方々の判断、残念な気持ちを引きづっている方もいらっしゃるかもしれませんが、決して無駄にはなっていないと考えています。

元日に発生した大地震、自分自身が被災していなくても、やはりどこか気持ちが沈むような感覚はありました。けれど、今は被災していない地域は自粛ムードではなく普段通りに過ごし、心身ともにバランスを保って、出来る範囲で被災地への応援を続ける時期かと思います。私自身、ここ数年恒例にしている熊野へ初詣に出かけ、少し足を延ばして和歌山の太地町へ。Xのポストにある動画はマリナリュウムでのイルカたちです。そして飛騨高山に戻る途中、金沢市内で個人・県外からの救援物資受け入れ中との情報を見つけ、翌日わずかながら物資を搬入しに行かせてもらいました。

金沢市内での救援物資受け入れの件

あらためて、能登半島地震で被災され、亡くなられた方々のご冥福をお祈りします。そして、現在、不自由な避難生活を続けていらっしゃる方々には心よりお見舞い申し上げます。この度の地震で被害のあった石川、富山、新潟からは新穂高温泉登山口へのアクセスの良さから毎年多くの方に山小屋をご利用頂いています。まずは一日も早く日常生活を取り戻されて、また登山を楽しみにお越し頂けますように。応援しております。

ずいぶんと遅くなってしまいましたが年初のご挨拶とさせて頂きます。2024年シーズンもどうぞよろしくお願いいたします。

 

槍平小屋現地管理人(槍平小屋ニュース・X更新担当): 橋本直忠

 

 


【重要】槍ヶ岳・飛騨沢ルートの雪崩危険箇所

2023年12月02日 | 日記

※ 記事や画像の一部引用・抜粋は不許可です。必ず全文が確認出来るようにリンクを貼って下さい。

 

年末年始の長期休暇にあわせて冬山入山予定の方もいらっしゃると思います。登山記録サイトでは槍ヶ岳・飛騨沢ルート(夏道)を冬季に通行している記録も見られますが、このルートは積雪時には雪崩の危険が高くなります。

また、今年7月にはブドウ谷付近で大雨による影響で出現した新規の沢もあり、この沢への積雪は最初の冬であるため雪崩規模については未知数になっています(槍平小屋 Xポスト参照)。「これまでにも通ったことがあるし・・・」という考えはとても危険です。

冬季の槍ヶ岳登山を計画されている方の中には新穂高~中崎尾根~西鎌尾根のルートを無雪時に偵察し、場合によっては燃料や食料デポの準備さえ行っています。もちろん、このルートが冬季に安心・安全なルートだと言い切ることは出来ませんが、雪崩の危険を回避する上では有効なルート選択です。「とりあえず夏道で槍平までアプローチして・・・」と考えている方、いらっしゃらないでしょうか?「今日中に下りたいから・・・」と、雪崩が起きやすい気温の高い日中を当たり前のように行動時間に設定されていないでしょうか?

 

2017年には3月頃に発生したと思われる奥丸山方面からの雪崩で、槍平小屋も二階客室の廊下部分に雪が流れ込む被害を受けました。また、2008年の正月には小屋玄関前付近でテント泊されていた方々が雪崩に巻き込まれる死亡事故も発生しています。

槍平小屋雪崩被害状況(2017年)

積雪期登山は自分自身の体力・登山技術の向上を実感できるし、なにより厳しくも美しい姿を見せてくれる山々はとても魅力的です。山行記録はもちろん、新しく入手した登山用品をSNSへ投稿することで得られる反響なども現代ならではの登山の楽しみの一つになっている場合もあると思います。それぞれの方が、それぞれのスタイルで楽しめるのが登山の良いところ。ではありますが、それも無事に下山出来ればこそ。この冬に山岳遭難のニュースが流れないように、心から願っています。

 

 


【働き方改革、始めています】(宿泊休業日設定について)2023/08/24

2023年08月23日 | 日記

※ 記事の引用は必ず全文が確認出来るように元記事へのリンクを明示して下さい(一部引用、切り取りは不許可です)。

 

昨年より設定しております小屋宿泊休業日について、まず2022年シーズンのお知らせ案内文から一部引用いたします。

コロナ禍は山小屋にあらたな困難をもたらした一方、”これまでにも存在していた課題だが、存在そのものに慣れてしまっていた課題を浮き彫りにした現象”でもあります。慢性的な人手不足、日々の長時間労働については槍平小屋もその例外ではありません。計画休業日の設定は2022年の今年が初めての試みとなります。持続可能な山小屋営業に向けての小さな、しかし大切な一歩にして参りたいと考えております。皆さまのご理解、ご協力を何卒宜しくお願い致します。

皆さまの中には毎春、登山関連雑誌やネット上に掲載される山小屋求人案内をご覧になった方もいらっしゃると思います。紹介写真には絶景の山々、笑顔のスタッフたち、名物土産や人気食事メニューが並んでいるかもしれません。山に憧れ、非日常空間での経験を求める若い方への訴求力を高める上では有効な方法です。しかし、それは山小屋の姿の一部分にすぎません。

先日、小屋SNSのX(旧ツイッター)で今シーズンのスタッフ勤務時間をご紹介しました。槍平小屋では今、アルバイトさんのこの勤務時間を守るべく小屋主人を筆頭に努力を重ねています。毎日100%の実現とまでは言えませんが、概ね日々の勤務時間はこの枠内に収まっています。ただし、それは簡単に達成出来ているものではありません。多くの山小屋では8月下旬よりスタッフ休暇も始まります。その中で休暇を円滑に回しながら、残ったスタッフに負担がかかりすぎることを避けるためにはどうすればいいのかを考えた時、小屋宿泊休業日を設定するアイデアが浮かびました。

短期間・季節営業形態の山小屋で休業日を設けることはダイレクトな収入減につながります。けれど山小屋が、”大自然に抱かれた、ブラックな職場”のままだとしたら、人手不足も長時間労働も改善されないままになります。余裕のない労働環境ではスタッフの精神面の安定も揺らぎ、業務に慣れているはずのベテランスタッフでさえ新人スタッフへパワハラやモラハラになりかねない対応をしてしまうかもしれません。大自然にあこがれて山小屋バイトに来たのに、人間関係の問題で期間満了を待たずに退職してしまうようなことがもしもあれば、それはとても悲しいことです。

これまで後回しにされがちだったスタッフの勤務実態改善に取り組むことは槍平小屋の将来にとって、非常に重要な課題と考えています。「人材を大切に・・・」と、言葉にすることは簡単ですが具体的な行動に移しているかどうかは小屋の本気度を測る目安なのかもしれません。

4代目小屋主人が担当しているinstagram、facebookでもご紹介しておりますが槍平小屋は創業から今年が100年の節目となります。これまでご利用頂いた登山者の方々はもちろん、本当に大勢の皆様のおかげで2023年シーズンの槍平小屋があります。小屋主人とも話すのですが、101年目からも守り続けてゆかねばならない部分と、101年目には引き継ぐべきではない部分。しっかり課題に取り組み、表面に見えている部分だけではなく、内面からも登山者の皆様の信頼を得られる山小屋になれるように、これからも努力してまいります。この8月31日に小屋泊を考えていた方々におかれましては、どうぞ上記の取り組みへのご理解とご協力を頂ければと思います。

残暑と呼ぶには抵抗がありすぎる暑い日々が続いていますが、まもなくやってくる爽やかな秋山シーズンが天候に恵まれて、大勢のお客様をお迎え出来るように願っています。長文をお読み頂いた皆さま、ありがとうございました。

槍平小屋現地管理人: 橋本直忠(お客様webご予約受付、X、槍平小屋ニュース更新担当)

【計画休業日 2023年8月31日(木)】※ スタッフ休養、小屋設備メンテナンスのため

※ テント泊、小屋売店、キャンプ場トイレ・水場の利用は平常通り可能です。また、事故・行方不明者発生時などの緊急対応も平常通り行います。

 

 


GW期間に入山予定の皆様へ 2023/04/29 更新

2023年04月29日 | 日記

例年、GW期間中に槍ヶ岳・飛騨沢ルートでは残雪期登山を楽しむ登山者の姿が多く見られます。そして、その中には日中の気温が高い時間帯にチビ谷~滝谷~南沢間を通行している登山者の姿、またその山行記録がネット上にもみられ、とても心配しています。

画像は2023/04/20のもので、標高1850m付近。数日前に降った雪が原因と思われる表層雪崩が起きており、登山者が残雪期にたどる夏道部分も完全に通過しています。また、皆さまご存じのように先日25日~26日にかけて降った雪は槍ヶ岳山荘さんからの情報で、吹き溜まりでは腰までの積雪となったということです。

 

これは4月26日午前5:30時点での新穂高ロープウェイ展望台(標高2156m)のライブカメラ画像です。積雪が始まっている高度を予想するための情報にもなります。昨日、「登山者への情報提供用にライブカメラ画像の転載許可を頂けないでしょうか?」とお願いしたところ、快諾を頂きました。新穂高ロープウェイさん、本当にありがとうございます。私も昔、自分の歩いた山々を展望台から見渡したことがありますがなんともいい気分です。皆さまもぜひいちど体験なさってはいかがでしょうか。

新穂高ロープウェイ

 

入山前には皆様も熱心に天気予報を確認されているはずで、中には複数の有料サイトをご覧の方もいらっしゃるでしょうか。詳細な天気予報はもちろん安全な登山をするうえで有用です。そこで皆様に一つご提案したいのは、「過去に同じような天候(雨量、気温)の翌日、どうだったかな?」と、出されている天気予報のデータと比べてみる方法です。山に登りたい気持ちが熱ければ熱いほど、知らぬ間に自分に都合の良いデータばかり探してしまい、たとえ見つからなかったとしても”とりあえず、行けるところまで・・・”と、結局は危険な状態の山へ入ってしまうこと、もしかしたら経験された方もいらっしゃるでしょうか。

予報では4/29の夜から翌30日にかけて、やはり先日のように入山口付近の地点では雨予報となっており、稜線付近では新たな積雪となる可能性があります。以下に先日25日~26日にかけて、槍ヶ岳入山口周辺でどのような天候であったかを知ることが出来る気象庁のサイトをご紹介します(地点としては上高地が穂高より近いのですが、気温情報がないため穂高を選択しています。栃尾は新穂高側です)。

このグラフは気象庁の(過去の気象データ検索)で確認できます。

 

4/29の夕方~30日の朝にかけての天気予報は、先日の25日~26日にかけての天候と似ていることがわかります。新たな積雪は表層雪崩の危険を高め、それは天候が回復したあとも数日間続きます。まずは、入山可否の冷静な判断を。そして、これはもう何度も申し上げていることですが日中の気温の高い時間帯に雪崩・落石危険地帯を通行すること(特に下山時)は絶対に避けて下さい。槍ヶ岳・飛騨沢ルートでは槍ヶ岳山荘さんも営業開始されていますし、槍平小屋は冬季小屋を無料開放しており、トイレ、水場も利用可能です。”安全に行動(下山)するための一泊”が予備日として行動計画にない方は計画の見直しをお願いします。

 

先日、最近話題のchatgptを使って、”登山者の方々は残雪期の今、どんな情報を山小屋から欲しているのか”を探ってみました。

chatgptの回答

この回答に寄せているわけではありません!が、槍平小屋から登山者の安全に関わる情報発信する際に留意している点が二つあります。

① トピックの優先順位

② 情報を受け取る方に与えるニュアンス

槍平小屋のブログ(槍平小屋ニュース)、ツイッターを以前からご覧の皆様は、小屋営業期間中に飛騨沢ルートの”滝谷増水注意情報”が複数回発信されているのをご存じかもしれません。滝谷は残念な死亡事故が起きている場所でもあり、増水時の危険を周知することで登山者の皆様の安全を高めたいとの思いからになります。もちろん、その情報によって登山中止(宿泊キャンセル)される方もいらっしゃいます。お客様にお越し頂けないのはとても残念ですし、小屋としても収入減となります。けれど、「お客様に信用して頂ける山小屋になれるように努力し続けることは、将来的に山小屋・お客様の双方にとってWin-Win な結果となるのではないか」、そう考えております。

無雪期の、天候が安定した夏山ではファミリー登山の小学生のお子さんも元気に槍ヶ岳に登頂されています。そして、夏山営業期間中でも登山道に危険がある場合には小屋から速やかに情報発信をしております。2023年7月12日より槍平小屋は宿泊営業を開始いたします。今年は新緑眩しい初夏の槍平へぜひお越しください。くれぐれも、GW期間中に無理な登山をされませんように!

夏山ご宿泊予約

 

 

 

 

 

 

 


【お知らせ】2023年シーズンのご予約受付中です

2023年04月28日 | 日記

槍平小屋では2023年シーズンのご宿泊予約受付をスタートいたしました。ご予約は以下の専用フォームからお願いいたします。

ご宿泊予約専用フォーム

お電話によるご予約は、”ご利用日の一ヶ月前から”のみとなります。

ご予約日に制限のないインターネットからのご予約をお勧めいたします。