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枝打ち

2017年09月17日 | 森林管理・森林空間・森林整備のお話

 枝打ちは非常に高度な技術の1つで、「無節材」など優良材生産を目的に行われます。

 1つ目の写真は、枝打ちが行われた天然絞り丸太のスギ林、2つ目の写真は、四方無節の柱材。

 

 このほか、林内の光環境の改善、林分管理、病虫害の保護や予防という目的で、枝打ちを行う場合もありますが、いずれも、主目的として行うことは少ないと思います。

 いずれにしても、優良材生産を目的に枝打ちを行えば、林内の光環境の改善、林分管理、病虫害の保護・予防という効果を副次的に得ることができると思います。

 ただし、木材価格の低迷から枝打ちをかけた経費以上の収益・収入が見込めなくなったこと、木材に対する志向や住宅工法等の変化により「無節材」や「磨き丸太」などの役物の需要が減ったなどの理由から、枝打ちをされることは、ほとんどなくなりました。

 

 個人的な意見ですが、それでも枝打ちは重要な施業だと考えています。

 枝打ちは、林業の施業の中で、優良材生産に直結する重要な施業で、未熟な者が行えば、材質が低下してしまう非常に高度な技術であるため、枝打ちをする者がいなくなれば、その高度な技術が失われてしまいます。

 以前、山主さんと枝打ちの話をしたときに、「最近は、無節の木材よりも節のある木材の方が、木材らしくて好まれる。だから枝打ちは必要ない。」という話題になりました。(正しくは「生節」。「死節」を含む意味ではありません。)

 しかし、枝打ちをしなければ「生節」が出来るというわけではなく、その上、「死節」が出来るというリスクも発生します。

 枝が生きている間に、幹に巻き込まれると「生節」になり、枝が死んだ状態で幹に巻き込まれると「死節」になります。

←生節 ←死節

 死節があるということは、腐朽菌が広がって死んだ枝が巻き込まれてできる「腐れ節」や、死節の部分がすっぽりと抜け落ちて穴が開く「抜け節」というさらに質を下げるリスクも高まります。

←腐れ節 ←右:抜け節(左:生節)

 この「腐れ節」や「抜け節」は、製材所など川下にとても嫌われる欠点となります。

 特に床板や壁板など内装材の場合、腐れ節や抜け節を「埋め木」という材料を使って、この欠点をなくす作業・工程が増えます。

←埋め木。大小様々な抜け節に対応できるようサイズは色々。結構、高い。

←埋め木のサイズに合わせて穴を空ける。

←埋め木された壁板。

←パテで穴を埋める場合も。

 枝打ちされた木材であれば、このような作業を省略することができます。

 逆に、枝打ちが実施されていない林分や死節が多い木材では、こうした1手間、2手間が増えてしまう可能性がありますので、製材所としては、枝打ちされた木材が欲しいはず・・・。

 合板や集成材も同様です。

 表面に穴が開いている合板や集成材を見かけることもありますが、住宅用など人目につく場所で使われる場合は、一番外側(表面)には節の無い部分を持ってくるなど、ここでも選別や仕分けなどの1手間、2手間が増えます。

 枝打ちにかけた経費に見合う金額で購入されるか、否かは別の話として、木材製品を製造する者としては、枝打ちされた木材は製造の余計な手間の省略と、それに係るコストを縮減できると考えられるため、優先的に購入したい木材のはずです。

 

 購入する相手のニーズに合わせた商品を作ることは、商売の基本であると思っています。

 単に「無節材の需要が少ない」、「生節が望まれる」、「割に合わない」といった生産者側の都合で、枝打ちを実施しないと判断するのではなく、製造する者・購入者のことを考えて、枝打ちの実施を判断すべきではないかと思います。

 それと「生節」が好まれるという場合も、枝打ちは必要だと思います。

 次の写真は、板の表と裏をスキャニングしたものです。

 1枚目が表、2枚目が裏です。

 

 右側の節は、表も裏も「抜け節」で、穴の周りには樹皮が残っています。

 枯れた枝の木部が抜け落ちて、樹皮だけが残ったようです。

 左側の節は、表は生節ですが、裏を見ると「死節」です。

 枝打ちをしていれば、両面とも生節になっていた可能性も考えられます。

 きっと、スキャンした板の表の時点では生節でも、その先は死節になり、腐れ節や抜け節が存在していたかもしれません。

 ヒノキのように、枯れた枝が自然に落ちない場合、その間は幹に巻き込まれ、どんどん死節が蓄積されることになります。

 やがて、枯れた枝に腐朽菌が蔓延しすると、腐朽菌が周り、普及した枝が幹に巻き込まれると、そこから病害が発生するリスクが高まり、製材した時に腐れ節や抜け節の原因にもなります。

 下の図に示したように、枝打ちをしないと枯れ枝が残り、やがて腐朽菌が周り、幹の中に巻き込まれ、「死節」・「腐れ節」・「抜け節」という欠点にはります。

 逆に、枝打ちをすれば、枯れ枝は発生せず、腐朽菌に侵されるリスクも病害が発生するリスクも大幅に低下します。

 

 さらに、枯れ枝を放置すると、スギノアカネトラカミキリが産卵し、「アリクイ材」・「アカネ材」といった被害材を生み出すリスクも高まります。

 

 枝打ちにかけた経費に見合う価格で取引されていなくても、枝打ちされていない木材よりも枝打ちされた木材の単価の方がやはり高いです。

 ただ、近年の市場は、競争性が下がっているため、なかなか単価が上がりません。

 その上、需要に対して供給も多い気味なので、なおさら単価は上がりません。

 木材単価は崩れていますが、今の単価が悪いから枝打ちをしないのではなく、やはり、買い手が求める木材を考えたとき、枝打ちは必要ではないかと。

 枝打ちの経費以上の収入が見込めない状況にある以上、昔の無節材など優良材生産を目的とした枝打ちではなく、欠点の少ない木材や製材の手間とコスト縮減につながる木材の生産を目的とした枝打ちや枝打ちのコスト縮減を検討すべきかと。

 例えば、初回間伐後に枝打ちを行う、将来的に残す木を対象に枝打ちを行うなど。

 また、アカネ材などの被害を生み出す、スギノアカネトラカミキリは枯れて2年以降の枯れ枝に産卵するので、枯れ枝であれば、2年以内に枝打ちを行えば、アカネ材の発生を防げますし、腐れ節や抜け節も防げ、生節と大差ない死節になります。

 昔の優良材生産目的ではなく、製材時に欠点が少ない木材生産を目的に適した枝打ちの検証・検討が必要ではないかと思います。

 植栽が密植であれば、下枝が早く枯れ始めるので早い時期から枝打ちが必要になりますが、植栽が疎植であれば、下枝の枯れ始めも遅くなると思います。

 1回目の間伐後に行う枝打ち、将来木のみを対象にした枝打ち、下枝が枯れて2年以内に行う枝打ち(同時期に生きた枝も枝打ちしておく)といった従来よりもコストを抑えた枝打ちの検証が必要ではないかと思います。

 それでも難しいと思いますが、異常なまでに低下し続ける木材単価を盛り返すには、欠点が少ない木材を生産していかないと、このままズルズルと、いってしまいそうな気がします。

 「鶏が先か、卵が先か」みたいな話になりますが、欠点がない木材であれば価格交渉できる可能性はありますが、欠点がある木材では、価格交渉は難しいと思います。(もちろん、需要と供給のバランスも考慮しないといけませんが。)

 僕は山主でもなければ、林業経営者でもありませんし、製材する人間でもありませんが、林業という商売を客観的に見たら、今の時代にあった枝打ちの検討・検証は、必要であると思います。

 今後の木材や建築物が、CLTやLVLなどを中心にしていくのであれば、枝打ちの必要性は低いのでしょうが、木材単価を考えると、やはり無垢材なので、枝打ちは無視できない施業ではないかと思っています。 

 

 

 ちなみに、枝打ちした部分は木口できちんと見せて、枝打ちした材であることのPRが必要です。

 


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