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はぐくみ幸房@山いこら♪

「森を育み、人を育み、幸せ育む」がコンセプト。株式会社はぐくみ幸房のブログです。色々な森の楽しさ共有してます♪

シンポジウム「照葉樹林に生きるツキノワグマ」

2013年03月10日 | 狩猟・獣害のお話

 日本クマネットワーク主催による「照葉樹林に生きるツキノワグマ」のシンポジウムに行ってきました。

Tukinowaguma

 内容的には、紀伊半島に生きるツキノワグマは、絶滅が危惧され、その生態を知り、どのように保護すべきなのか、それぞれ活躍されている方達からのお話というもの。

 

 

 以下、内容を簡潔にまとめますと・・・

 四国や紀伊半島のツキノワグマは、他の地域と交流できない「孤立個体群」で、絶滅が危惧されています。

 生息頭数の減少はもちろん、遺伝子の多様性も消失するおそれがあるとのこと。(紀伊半島の生息頭数は200頭に満たないだろうということ。)

 なぜ、ツキノワグマが減少したのか・・・。

 その原因は・・・

①天然林(落葉広葉樹林)の減少。

 そもそも、 ツキノワグマの食性は主に植物食。動物食は少ない。

 春は樹木の新芽、スズタケなどササ類のタケノコ、木の皮など。

 夏はハチの巣やアリなど。

 秋はカゴノキ、タカノツメなどの果実、そして、越冬前にミズナラ、ツブラジイなどのドングリ(堅果類)を食べている。(要するに、照葉樹林と落葉樹林を行き来して、生活している。)

 冬は、木の樹洞などを利用して、冬眠・出産する。

 特に樹洞は、樹齢数百年以上の樹木(主に広葉樹)によって構成される天然林しに多く存在する。

 このようにエサと越冬(出産)する場所として、大きく天然林(落葉広葉樹林)に依存していることから、天然林(落葉広葉樹林)の減少が大きく影響している。

 

②スギやヒノキの剥皮被害(林業被害)による駆除。

 天然林(落葉広葉樹林)を伐採した跡に植えられたスギ・ヒノキをツキノワグマが剥皮し、木材の価値を大きく低下させた。

 その被害を防ぐため、ツキノワグマの駆除が行われたことによる減少。(今は行われていませんが。)

Kumahagi01 Kumahagi02


 

 近年のツキノワグマ捕獲は、民家に出没した個体を捕まえたり、誤ってイノシシの捕獲檻にかかった個体など。

 原則、ツキノワグマは殺さず、野に返すという「学習放獣」という方法が採られています。

 でも、放しても放しても、毎回戻ってくる個体もいます。

 そういう個体は・・・殺処分されます・・・。

 

 絶滅が危惧されている紀伊半島のツキノワグマ。

 それを防ぐためには・・・・

①生息頭数を減少させないこと。

 特に、大量出没の時期に捕獲したツキノワグマであっても殺処分しない。

 ドングリの凶作年になると、ツキノワグマがエサを求めて、低地に移動することは当たり前。

②誤捕獲の回避。

 イノシシ檻の天井に穴を空けるなど、間違って檻に入っても、ツキノワグマが脱出できる工夫を採ること。

③趣味で行う養蜂箱への対策

 趣味で行っている養蜂箱は、特にクマ対策を行うことなく、山の中に置かれたり、民家の近くに置かれている。

 これは、安易にクマをおびき寄せる要因となる。

 趣味で行っている方に対しての指導が必要。

④学習放獣した個体の再捕獲防止。

 学習放獣した個体が何度も捕獲されると殺処分される。

 それを防ぐためには、放獣したクマが戻ってこないような工夫を人間がすべき。

 人間が学習すべき。

⑤森林植生の回復。

 林業経営が放棄された人工林を、天然林(落葉広葉樹林)に戻すこと。

 そして、カシノナガキクイムシによる対策も忘れてはいけない。

 

 

 といったものでした。

 これに奈良県の保護管理計画のお話や、和歌山県で捕獲されたクマの事例を中心としたお話、分布拡大予測モデルのお話など。

 

 個人的には、非常に・とても・嫌らしい表現で、誠に申し訳ありませんが、以前から知っていたこと・把握していたことがほとんどだったので、クマの保護に精通している方なら、さらに辛口評価だったのではないでしょうか?

 

 あと、勝手に予測というか、こうだろうな~と想像していたことの裏付けがとれたことと、ツキノワグマはヒノキに登って、上方の皮も剥皮すること、スギやヒノキの小径木の皮を剥くこともあることが知れて、面白かったです。


シンポジウム シカと森と人の葛藤

2013年02月23日 | 狩猟・獣害のお話

 今日は標題のシンポジウムに参加してきました。
 久しぶりの大阪で、ちょっと迷子になりました

 

 内容は、シカの食害によって、森林環境が大きく変わり、荒廃が進んでいる森林もある。
 そのような背景の中、シカを知り、森との関わり方を見直し、人としてどう付き合うべきなのか…的なものでした。

 

 聞きたかった人がご講演されるので、珍しく、事前申し込みしましたよ
 会場は、とても狭くて、窮屈でした
 

 

 ご講演者は5名の方々で、シカの研究者や植生回復に取り組まれている方、シカの個体管理を行っている方です。

 

 お一人目は、「麻布大学 獣医学部 動物応用科学科の高槻教授」で、40年もシカの研究に取り組まれています。

 シカの妊娠率は1歳で25%、2歳で80%、3歳で100%となり、それ以後10歳まで妊娠率が80%以上維持されているとのこと。

 シカは主にササを食べ、食性幅もそのものも広く、条件さえ整えば、集団生活も送るという。

 高い繁殖力と広い食性、群居性をもつシカを、「森を食べる」と表現されていました。

 実際、太平洋側の山林は、シカの食害により荒廃が進み、土砂崩れなどを招く危険性の高い山々が増えているとのことです。

 シカの食害は、先の12号台風の被害のような人々の生活圏を脅かす存在になりつつあるんだなと感じました。

 

 お二人目は、「信州大学 農学部 瀧井氏」。

 長野県におけるシカの季節移動についてのお話でした。

 シカには、定住するタイプと、季節移動タイプの2つに分けられるとのこと。

 季節移動タイプとは、夏と冬で生活圏を往復する個体のこと。

 特に冬になると、狩猟から逃れるように、人の活動域を避けるような動きが見られたとのこと。

 ここで1つ「ん?」と思ったことが・・・。

 会場からも質問があったんですが、「シカが人の活動域を避けているということに驚いた」という発言。

 講師の方も、研究を進めていく中で、驚いたと言っていた。

 僕的には、シカが人から離れて生活をすることが「当たり前」だと思っていたから、一般的には、逆に考えられているのかと気づかされた。

 確かに、シカは、畑に侵入したり、林道や国道でもウロウロするようになった。(だから、シカは人に近づいて生活しているという考え方になる・・・のかな。)

 でも、それは、シカが人に近づくのは、安全だと認識しているから。

 畑に侵入しても、鉄砲に撃たれない。絶対の自信がある。

 国道や県道、林道をウロウロしていても、鉄砲に撃たれない。絶対の自信がある。(だって、猟師は道そばで、民家の周辺で鉄砲を撃たないから。)

 加えて、シカは、人とどれくらいの距離を置けば、逃げ切れるか、安全圏なのかわかっている。

 シカが怖いのは、猟師の鉄砲で、その猟師は山の中にしか現れない。

 なんであれ、まだまだ、シカは人を恐れているから、人の活動域を避けているのは当然ではないのかな・・・と。(まぁ・・・、僕って天の邪鬼なところがあるし

 

 

 三人目は、「神奈川県自然環境保全センター 田村氏」

 長年、保護柵を設置し、林床植物や後継樹などの保護対策に取り組まれています。

 保護柵の考え方は、緊急避難措置であり、いずれは撤去しなければならないことから、個体管理も必要。

 設置期間の目安としては、樹木の枝下高が2m以上になることや多年草の開花や結実個体数の増加するまでで、柵外の植生がある程度成長するまで、柵は必要とのこと。 

 柵を設置した分、シカによる被害のしわ寄せがどこかに現れていると考えられるので、個体管理は必要だということです。

 柵の中が回復したからといって、柵をはずしたら、そこにシカが集まりますもんね・・。

 シカにしてみれば、「ようやく、ここの食堂が開店したか!」みたいな感じなんでしょうね。

 

 四人目は「宮川村森林組合 岡本氏」

 10m四方の柵で囲む「パッチディフェンス」と「ランダム集中配植」という方法を取り入れた広葉樹植栽を行っており、その課題点や成果についての報告でした。

 広葉樹植栽は、森林の立地評価(地質・地形・方位・傾斜・土質など)を行い、適地適木を徹底し、樹木の生息環境を考え、森の設計図を立てているとのこと。

 その地域に求められる森林を描くことが重要だということです。

 このような広葉樹植栽の効果として、多様性の高い森林、生物多様性の源、周辺山林への種子の供給源、ランニングコストが低い、メンテナンスの要らない森づくりだということです。

 

 最後は、「自然環境研究センター 荒木氏」。

 大台ヶ原におけるシカの個体管理についてのお話です。

 麻酔銃やくくり罠などを使って、シカを捕獲しています。

 シカの食害が与える森への影響が大きいことから、実際にどの程度まで、密度管理を行えば良いのか、課題が尽きないとのこと。

 

 個人的には、シカ食害に柵は必須で、いかにして、設置コストとメンテナンスのコストが抑えられるかがポイントだと思っています。

 必要であれば、一生、柵の中で維持する森があってもいいのでは・・・とすら考えています。

 ただし、多様な植生と多様な遺伝子をもつ森林として、維持・形成するためには、ある程度の規模が必要になってくると思います。

 

 単に柵を設置すればよいのではなく、森林として、必要な規模を確保しつつ、柵を設置し、最終的にどのような森にしたいのか、までを考える必要があるかなと思っています。

 柵を撤去するのであれば、個体管理も必要になってきますし・・・。

 

 ホント。

  難しいです。

  シカの対策を考えるだけで、一生を費やせそうですね・・・。

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