おもしろニュース拾遺

 BC級ニュースが織り成す可笑しくも愛しい『人間喜劇』。おもしろうてやがて悲しき・・・

「2600年の農民課税に終止符」:中国

2005-12-26 11:40:40 | 迷言・妄言
 「農民よ喜べ。君たちは2600年間の軛からついに解放される時が来たのだ」と中国政府。1958年に制定された農業税を来年1月1日から廃止する法案が可決されると新華社が伝えている。「春秋時代以来2600年間、大きな負担を強いてきた農民への課税の歴史に終止符が打たれる」と鳴り物入りの発表だ(毎日新聞)。
 しかし「中国4000年の歴史」ではないのか?<新華社などによると、中国の農民課税の歴史は「春秋左氏伝」に魯国(現在の山東省付近)が紀元前594年に税を始めた記載があるのが初めてという>(同上)。あくまでも文献上のことだ。

 それでは我が国の税の歴史はというと、「はい、大化の改新の後、租庸調の税制が整備されました」というのが学校で教える歴史だ。ただ、そこで初めて「税」という嬉しい制度(支配者にとっては)が導入されたのではなく、文献的にはすでにあの『魏史倭人伝』で邪馬台国の税制に言及されているという。
 古代日本の姿を凝縮したこのわずか2008文字を繙くと確かに「収租賦有邸閣(租賦を収む、邸閣あり)」という記述があり、これが日本の「税」に関する最古の記述だ(「邸閣」というのは「税」を収める蔵らしい)。卑弥呼たちは中国から学ぶことなしに独自の「税制」を編み出していたのか。文字を持たない彼らでも「取るべきもの」はちゃんと取るシステムを作っていたのは、人類の性(さが)というのか少し悲しい。

 その後もっと「ちゃんとした」税制を中国から導入したのは学校で教わるとおりだが、「税」がイヤなものであるのは中国も日本も変わらない。「」と言う漢字は、会意兼形声。兌は「八(はぎとる)+兄(頭の大きい人)」の会意文字で、人の着物をはがしてぬきとるさま。税は「禾(作物)+音符兌」で、収穫の一部をぬきとること(学研漢和大辞典)というから、ようするに強奪だ。「税」の字には合法的な追剥だという意識が込められている。

 だから「税」を進んで負担したがる人はいないわけで、これを「発明」した古代人のイデオローグはその理論化に相当苦心したに違いない。卑弥呼の時代のことは分からないが、中国の「王土王民」思想では最初から「土地も人民も”王”のもの」と決めてかかっているから、人民の負担は自明である。
 さすがに「民主的」な政治体制では「王」を持ち出すのは憚られるので、もう少し小難しい「理論」が学者によって編み出されているのだが、少なくとも子供には理解は無理だ。そこで編み出されたのが背理法というとまた難しくなるが、要するに「税金がなかったら」と仮定して矛盾を導くわけだ。

 その論法で税金の必要性を論証したのが、国税庁の小学生向け啓蒙ビデオ『惑星アトン』(1990年、文部省選定、30分)だ。「ある日、地球から未知の惑星アトンに連れ去られたカン太。そこは税金のない国であったが・・・」と、税金のない国が、学校も病院もない悲惨な状態であることを見せて(でもそんな貧乏なアトン政府がどうして拉致用の宇宙船を調達したのだ?というツッコミは勘弁して。「学校や病院だって別に民営のものがあるはずだ」というツッコミもやめて))、税金の「必要性」を理解させる。いわばネガティブなキャンペーン。もちろんこのビデオ税務署で無料で借りられるのは、国民の税金を投入しているから。

 実はこのパートII(1991年)もあり、さすがに「収奪者」の論理ばかりではまずいと思ったのか、そこでは、無事皆が税金を納めるようになって豊かになった「アトン国」だったが、悪い大臣が公害を隠すために不当な新税を発明して・・・とかなり?現実の日本に近づいている。つまり税金の使われ方を監視すべしという、お役所としては”危険思想”が表に出てしまった。広告代理店の「暴走」だったのか。パートIIIが作られなかった理由は・・・言うだけヤボだろう。

 話を中国に戻して、「2600年の軛」から解放された中国の農民はどれだけ楽になるのか?
「農民1人当たりの負担減は約62元(約930円)にすぎない。」(毎日)というから、政府の言うことを真に受けた人には完全なぬか喜びだ。
 昨日の読売新聞は<弱者の怒り・暴動多発、中国「調和社会」建設に限界>という記事で中国の農民の不満が急速に拡大していることを伝えている。「2600年間」の農業税の撤廃も目先を変えたいということだ。ちょうど日本の財務相が「第3のビール」課税を強化する代わりに、「みなさん来年からビールが減税になってお求めやすくなりますよ」と言っているのと同じだ。

 財政破綻した日本国は増税路線を進むことは間違いない。政府もありとあらゆる手段で「増税やむなし」の雰囲気作りに努めている。ただ、今の財務省などはまだ『惑星アトン』パートIの段階、つまり「増税しないと大変なことになります」というネガティブキャンペーンより先に進んでいない。税金の不適正な使用(「アトン2」)にはまだメスを入れようとしていないのだ。
 恐らくは政治的圧力で製作中止となった『惑星アトン』パートIIIの登場が待たれる。惑星アトンを訪れたカン太は、今や立派な「税金オンブズマン」。財政破綻を起こさせた役人や政治家を摘発していくが、ある日、アトンの公共建築物はすべて、構造設計データーが偽造されて地震で倒壊してしまうことを発見する。しかしその時、アトンを侵略しようとするソーケン星人と政治家、天下り役人のトライアイングルが、カン太を抹殺しようと・・・・


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2 コメント

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Unknown (KNTY)
2005-12-26 13:13:08
勉強になりました。
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つれづれなるパパに (ニック)
2005-12-26 21:09:46
トラックバック有り難う御座います。

『惑星アトン』初めて知りました。

税金の仕組み恐ろしいですね~。



税金の取り立ての話を聞いていると、NHKがむりくり受信料を取り立てているのがかぶって見えました。

(私だけでしょうか?)



『惑星アトン』のパートⅢが出ましたら又レポートお願いします。
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