軍人の誇りとするものは必ず小児の玩具に似ている。緋縅(ひおどし)の鎧(よろい)や鍬形(くわがた)の兜(かぶと)は成人の趣味にかなった者ではない。勲章も――わたしには実際不思議である。なぜ軍人は酒にも酔わずに、勲章を下げて歩かれるのであろう?
-芥川龍之介『侏儒の言葉』
いや芥川先生、これはいつものことながら辛辣な皮肉です。ただ、日本では今は「軍人」に勲章という制度はなくなったので、勲章をぶら下げた酔っぱらいさえ見かけることはありません。でも世界では今でも軍人にとってこんな大事な「玩具」はありません。
ところがこの人生の誇り、一生の宝をネットオークションで売り払う人たちが続出しているという話です。「英紙サンデー・テレグラフは、イラク戦争に参加した英兵に贈られる従軍勲章数十個がインターネットの競売サイトで売りに出されていると報じた。」(朝日ー時事)
「従軍勲章は既に9万個以上授与されているが、これまではほとんど売りに出ることはなかった」らしいのですが、「サンデー・テレグラフ」の記事はある下士官の発言「私自身は従軍したことに誇りを持っているが、多くの兵士は自分たちは”間違った前提”で送られ、”違法な”戦争に従事していると思っている」を引用し、ベトナム戦争時に多くの兵士が勲章を公衆の面前で焼いたことを連想させると書いています。
冒頭に掲げた写真がその売りに出された勲章の一種"Op Telic medal"ですが、オークション("eBay"というから日本なら「ヤフオク」ですよね)の但し書きには「二度しか開封せず」とあり、下世話な話で申し訳ありませんが、気になる落札価格は352ポンド、つまり71000円ほどでしょうか。英国のメダルを製作しているお役所では「後で後悔するよ。第2次大戦のメダルだって、年が経つほど値上がりしたんだから」と警告しているのですが、野党保守党の「影の国防大臣」は「発行されてから数週間で売りに出すとは、兵士の士気は非常に低くなっているに違いない」とコメント。イラク戦争に参戦したこと自体を”恥”だと感じ始めているようです。
しかしアメリカと共にイラク戦争を先頭に立って戦った英軍兵士がこの有様でいいのでしょうか。そう言えば日本の自衛隊をサマワで「守って」くれているのも英軍兵士。それでなくてもイラクがイヤなのに、他の国の軍隊を守ってやれなんてマンガにもないよ、とぼやいているのでないかと想像すると、地球の裏側にいても身が縮む思いがします。そう言えば、自衛隊の皆さんは英軍のようなことはないのでしょうか。帰国された幹部の人の優等生的な答えは聞いていますが、まだ一度も”ヒラの”兵士の声は報道されたことはありません。
それにしても妙な話です。このイラク戦は「正義の戦争」と世界中で言われていました。ブレア首相もブッシュ大統領もそれを大声で力説していたはずなのに。「正義」はどこへ消えたのでしょう。ここでせっかくですから芥川先生に再度ご登場いただきます。
正義は武器に似たものである。武器は金を出しさえすれば、敵にも味方にも買われるであろう。正義も理窟をつけさえすれば、敵にも味方にも買われるものである。(同上)
確かにアメリカは「お金」があります。「正義」を買い占めたはずだったのに、これにも”賞味期限”があったということですね。
古来「正義の敵」と云う名は砲弾のように投げかわされた。しかし修辞につりこまれなければ、どちらがほんとうの「正義の敵」だか、滅多に判然したためしはない。(同上)
-芥川龍之介『侏儒の言葉』
いや芥川先生、これはいつものことながら辛辣な皮肉です。ただ、日本では今は「軍人」に勲章という制度はなくなったので、勲章をぶら下げた酔っぱらいさえ見かけることはありません。でも世界では今でも軍人にとってこんな大事な「玩具」はありません。
ところがこの人生の誇り、一生の宝をネットオークションで売り払う人たちが続出しているという話です。「英紙サンデー・テレグラフは、イラク戦争に参加した英兵に贈られる従軍勲章数十個がインターネットの競売サイトで売りに出されていると報じた。」(朝日ー時事)
「従軍勲章は既に9万個以上授与されているが、これまではほとんど売りに出ることはなかった」らしいのですが、「サンデー・テレグラフ」の記事はある下士官の発言「私自身は従軍したことに誇りを持っているが、多くの兵士は自分たちは”間違った前提”で送られ、”違法な”戦争に従事していると思っている」を引用し、ベトナム戦争時に多くの兵士が勲章を公衆の面前で焼いたことを連想させると書いています。
冒頭に掲げた写真がその売りに出された勲章の一種"Op Telic medal"ですが、オークション("eBay"というから日本なら「ヤフオク」ですよね)の但し書きには「二度しか開封せず」とあり、下世話な話で申し訳ありませんが、気になる落札価格は352ポンド、つまり71000円ほどでしょうか。英国のメダルを製作しているお役所では「後で後悔するよ。第2次大戦のメダルだって、年が経つほど値上がりしたんだから」と警告しているのですが、野党保守党の「影の国防大臣」は「発行されてから数週間で売りに出すとは、兵士の士気は非常に低くなっているに違いない」とコメント。イラク戦争に参戦したこと自体を”恥”だと感じ始めているようです。
しかしアメリカと共にイラク戦争を先頭に立って戦った英軍兵士がこの有様でいいのでしょうか。そう言えば日本の自衛隊をサマワで「守って」くれているのも英軍兵士。それでなくてもイラクがイヤなのに、他の国の軍隊を守ってやれなんてマンガにもないよ、とぼやいているのでないかと想像すると、地球の裏側にいても身が縮む思いがします。そう言えば、自衛隊の皆さんは英軍のようなことはないのでしょうか。帰国された幹部の人の優等生的な答えは聞いていますが、まだ一度も”ヒラの”兵士の声は報道されたことはありません。
それにしても妙な話です。このイラク戦は「正義の戦争」と世界中で言われていました。ブレア首相もブッシュ大統領もそれを大声で力説していたはずなのに。「正義」はどこへ消えたのでしょう。ここでせっかくですから芥川先生に再度ご登場いただきます。
正義は武器に似たものである。武器は金を出しさえすれば、敵にも味方にも買われるであろう。正義も理窟をつけさえすれば、敵にも味方にも買われるものである。(同上)
確かにアメリカは「お金」があります。「正義」を買い占めたはずだったのに、これにも”賞味期限”があったということですね。
古来「正義の敵」と云う名は砲弾のように投げかわされた。しかし修辞につりこまれなければ、どちらがほんとうの「正義の敵」だか、滅多に判然したためしはない。(同上)
抗議の意味で売り出した人以外にも、こんなもんイラネエやとオークションに出した人もいそうですね。勲章を授与するという行為自体、もう時代遅れなのかもと思いました。
ところでこの勲章について質問しましたので、興味のある方はどうぞご覧下さい。
http://oshiete1.goo.ne.jp/kotaeru.php3?q=1871519