中目黒再開発の事実

中目黒の再開発・工事について。少しでも事実を伝えられれば…。

再開発と耐震工事の根本的な違い

2008-01-18 02:39:29 | 中目黒再開発

■再開発と耐震工事の根本的な違い


私は今まで、ことあるごとにガード下の工事を「再開発」を呼ぶことに反対してきた。なぜなら、「耐震工事」と「再開発」とは根本的に違うものだからである。そして、それらが混同されておかしな噂が広まったり、おかしな方向へ批判が向かいがちであるためだ。

「耐震工事」と「再開発」は根本的に違う。

再開発とは、広辞苑によれば「既存の施設を新たな目的設定のもとに開発しなおすこと」という意味である。つまり、実施には意志が伴うものであり、言い換えれば「実施する」「実施しない」を選択することができるものである。要は「やるかやらないかは、当事者の選択しだい」ということだ。

だからこそ「なぜ、再開発なんかするんだ」という批判が成立し得る。

一方、今回の工事の理由である「耐震補強」や「ホーム延長」は、実施の有無を選択することはできない。耐震工事は言うまでもない。ホーム延長についても、副都心線との相互乗り入れをするとなれば不可避である。相互乗り入れ自体も、沿線の人口推移などを元に、国や都の交通行政で方針が提示されるもので、ほぼ実施の有無は選択不能だ。

だから、これら「実施の有無が選択不可能」な工事に対して「なぜ、そんなことをするのだ」と言うことは、根本的にナンセンスな発言なのである。「実施する」しか選択肢がないものに「なぜ実施する」と苦情を言うのは無意味だ。

それが、実施選択可能な再開発との根本的な違いであり、混同すると話がおかしくなる原因なのである。

■耐震補強とは何か


今回の中目黒高架下の工事が「国土交通省指示の耐震補強」であることは以前にも述べた。だが、我々は(つまり私も含めて)「国土交通省指示の耐震補強」というものについて知らないのではないかと思う。
ネット検索のみではあるが、調査してみた(ただし、あまりネット上に情報は出ていないようで、調査はかなり難航し、内容も薄いが)。

耐震補強の動きのもともとのきっかけは、「阪神・淡路大震災」で多数の橋脚が被害を受けたことに由来する。高速道路が倒れた映像は衝撃的であったし、その後、東京中の高速道路で橋脚工事が行われていたことは多くの人がご存知だろう。

しかし、高架橋の破損は高速道路に限ったことではない。鉄道の橋脚も多く破損している(⇒参考リンク)。例えば阪神電鉄では震災で41両の車両が廃車になるほどの被害を受けている。特に、高架線上に設けられていた石屋川車庫では、高架橋の柱が折れて線路が崩落し、58両が被災、うち24両が廃車となったという。
阪急伊丹線伊丹駅では、駅が列車2編成を乗せたまま倒壊した(⇒参考リンク)。

これを受けて、運輸省(当時)は「緊急耐震補強工事」を実施するよう通達を出している。国土交通省のホームページによれば、この通達の内容は以下の通りである。


鉄道施設耐震構造検討委員会は、鉄道施設の耐震性の向上について、7年7月26日、新たな耐震設計手法が確立されるまでの当面の措置として、「既存の鉄道構造物に係る耐て」及び「鉄道新設構造物の耐震設計に係る当面の措置について」をとりまとめた。これを踏まえて運輸省では、同年8月24日に既存の鉄道構造物の緊急耐震補強計画をとりまとめた。
 同計画は、大規模な地震に対しても構造物が崩壊しないことを基本的目標とし、新幹線及び輸送量の多い在来線の線区を対象に、既存の高架橋、開削トンネル等について、新幹線については概ね3年、その他の鉄道については概ね5年を目途に緊急耐震補強を実施しようとするものである。この計画に基づき、各鉄道事業者は耐震補強工事を実施しているところである。
http://www.mlit.go.jp/hakusyo/transport/heisei08/pt2/820403.html


同様の内容は東急の広報誌からも発見できた。


阪神・淡路大震災の被災状況から甚大な被害が予想される構造物を対象とするが、そのうち施工可能な箇所(高架下が利用されていないなど)について平成8~12年度の5年間で耐震補強工事を実施すること。
http://www.tokyu.co.jp/contents_index/guide/hot/0509/zoom.html


さらに、この「緊急耐震補強工事」期間終了後の平成13年6月には、国土交通省より「既存鉄道構造物に係る耐震補強について」の追加通達が出されたという。内容の詳細は分からなかったが、上記の東急のページ等から推察するに「高架下利用中などの部分についても耐震診断を実施し、必要に応じて補強を行うこと」であろう。

今回の耐震補強は、この通達によるものであると考えられる。

以前のエントリーで述べた通り、中目黒駅は昭和2年の開業当初より高架線であった。その後、昭和39年の日比谷線乗り入れ時に少なくとも一部の高架橋の更新が行われているようである(注1)が、それでも40年前の建設ということになる。古い建築物であれば一律に問題があるというわけではないし、本当に補強の必要性があったかは部外者には知りようがないが、「東急が工事を始めるからには、何かしら問題があったのだろう」と考えるしかあるまい。

ともあれ、ガード下の工事に対して「東急が何をしやがる。何でそんなことをするんだ」的な批判をするのが的外れであることはお分かりいただけたであろう。もちろん、単に「馴染みの店がなくなって残念」という程度の話の中で工事の理由を間違える程度ならば、まぁ、目くじらを立てる程の話でもない。しかし前回取り上げたブログのように、何らか批評的なことを言うのであれば、工事の理由や背景程度はキチンと調べ、理解して欲しいと思うのである。

(注1)
『営団地下鉄五十年史』帝都高速度交通営団, P.220
「東横線の高架構築が一部老朽化し、補強または取替えが必要になった」とある。