ひねって・焼いて・陶

陶芸の様々な技法、釉薬、お会いした陶芸家の方々の話等々、私が陶芸で学んだこと、発見したことなどを綴ります。

「日本のデザイン1945‐」

2021年01月16日 | 陶芸/クラフト/デザインを考える

これはクラフトデザイナー中部前代表の故栄木正敏さんも取り上げられている本で、私は栄木さんの部分でほんの少しお手伝いをしました。この本は戦後の著名なデザイナーを取り上げながら日本のデザインについて解説しています。たくさんの美しい画像で作品を紹介するだけでなく、個々のデザイナーがどの様な経験を経てどの様なデザインを目指したかを丁寧に紹介しています。また、デザインに関する特定のテーマを掘り下げた記事もあり、結構な読みごたえがあります。読み進むにつれて日本のデザインがどの様な道筋を経て現在に至ったのかが次第に見えてきます。また、編著者のナオミ・ポロックさんは日本に在住経験のあるアメリカ人で、世界的な視点から日本のデザインの特質を解説している他、数名の日本人を含む共著者によるページもあり、様々な角度から日本のデザインを捉えています。記述の大方を占める翻訳部分は大変自然な日本語で、翻訳本にありがちな違和感がなく読めることも特長だと言えます。ただ一つ残念なのは重さが2.3kgもあるという点です。しかし内容がそれに見合うだけ濃いことを考えれば仕方がないと思います。

 

 

 

 


違和感に気付く力

2019年10月09日 | 陶芸/クラフト/デザインを考える

デザイン作業をしている過程で作品を見ていて何となく違和感を感じる事がある。この違和感にしっかり反応出来るかどうかは大事だ。腑に落ちないとか、何かしっくり来ないという感覚。この感覚は中々ハッキリとはしないものだ。何故なら違和感を感じる一方で、今まで色々検討し、苦心しながらこのデザインをまとめて来た事を肯定する考えが反対側にしっかりとあって、これが無意識の内にその違和感を無視しようとしているからだ。この無意識に近い心の葛藤に気付いて、違和感の原因をシッカリと探る事がより良いデザインへの近道だと思う。

デザインに限らず、あらゆる事柄を判断する際にこの違和感に気付く力は大切だと思う。例えば、自分が好感を持っている人のやることは肯定的に受け取ってしまうものだ。また周りの空気や状況など、本来判断材料とするべきでない事柄から判断してしまい勝ちなものだ。その方が楽で簡単だからなのかも知れない。雑音のフィルターに惑わされず何時も白紙の状態で判断出来る様になりたいと思う。


Mazdaのデザイン

2019年01月26日 | 陶芸/クラフト/デザインを考える

 最近のマツダは目に見えてブランドイメージが高くなったと感じる。

この本を読んで共感したことの一つは、著者前田氏はマツダのブランド作りをするにあたってマーケッティングの視点からではなく物作りの視点から取組んだこと。日本はかつて1980年ごろまではひたすら一人前の良い製品を作ることを目標にして、それが結果として実力の向上に繫がって行ったのだが、一旦一人前になると、より激しい競争の中で他社に勝つための物作りが目標となり、効率よく車を開発し、効率よく売って会社の業績を上げることが経営者の大きな関心事となった。その中で、近頃業績を上げるために仕事の手抜や偽装が始まっているのはとても悲しい。製造業は物作りの心が大事であり、氏はそこに重点を置いている。アップルやダイソンが高いブランドを築けたのも経営者の物作りに対する強くてしっかりした姿勢があるからだと思う。

もう一つ共感したのは、氏が工芸に着目している点だ。工芸は物作りの原点であり、工芸家には純粋な物作りの姿勢を持っている人が多い。自分がデザインの現場にいた時は新しいものや海外のものに目が行って、工芸にはそれほど関心が無かったのだが、いま工芸の世界に入ってみると優れた工芸作家の造形力や物作りへの意識の高さを多々感じるようになった。その一方で、最近の新型車の造形にガッカリし、作り手の考えに疑問を感じることがある。日本は世界屈指の工芸大国であり、そこから得られるものは色々ある。デザインというのは自由であり、個人の好みも多種多様で良いのだが、その中でも高みを目指すなら製造業の作り手が工芸を良く見るのは良いことだと思う。

企業の中でブランドを作る難しさは並大抵ではない。自分自身がそうした場で非力だっただけにつくづくそれを感じる。それゆえ、これからのMazdaのデザインに期待が膨らむ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


BRAUN のディーター・ラムス

2018年09月11日 | 陶芸/クラフト/デザインを考える

先日、クラフトの仲間との旅行で山梨のSNORKというお店へ行き、そこでブラウンのラジオ・レコードプレーヤーに出会った。とてもクリーンで美しいデザイン。店のご主人に話を聞くとデザイナーのディーター・ラムスの名前が出てきて、ああこれは昔学生の頃に聞いた事のある名前だと思った。家に帰ってからネットで調べると、ブラウンのデザインで活躍した人で今のアップルのデザインに影響を与えたとある。このデザインテイストはアップルに限らずソニーや最近評判のバルミューダにも感じられる。また、このラジオ・レコードプレーヤーは彼の代表作で、なんと「白雪姫の柩」と呼ばれたという。約60年前に発表されたこのデザインを揶揄した表現らしいけど、当時はそれだけ時代の先端を行ってたということだろう。その彼にはグッドデザインの10ヶ条という言葉がある。

1. 革新的 inovative
2. 実用的 useful
3. 美しい aesthetic
4. わかりやすい understandable 
5. 主張しない unobstrusive
6. 誠実である honest
7. 長持ちする long-lasting
8. 細部まで完璧 down to the last detail
9. 環境にやさしい environmentally friendly
10. 最小限である as little design as possible 

デザインの教科書的な言葉だけれど、デザインのあるべき姿を言っている。革新的と実用的を両立させるという考えが良い。主張しない、誠実である、長持ちするの3つには、物作りでの志の大切さを言っている。デザインというものは、ものを使う人や社会のための仕事なのに、激しい競争の中で相手に勝つためという歪んだ目標に陥って良くないデザインが生まれ勝ちなものだ。ところで、この10ヶ条には足りないものがある。独自性 originality だ。デザイナーが常日頃苦労するのはそこじゃないか、と言いたい。ラムスさん、何でこれを入れなかったんだろうか?

僕は20年ほど前にドイツに住んでいて、ブラウンの本社は家から車でほんの10分ほどの所にあり、その前を何度も通り過ぎていた。タウナス山麓の緩やかな南向き斜面の広々とした場所に本社はあった。そしてその当時、まだラムスさんはそこに在籍していたのだ。今にしてみれば、あの頃せっかく近所に居たのだからもう少しブラウンデザインに関心を持っていれば良かったと思う。

話は山梨のお店SNORKにもどるが、ここはフィンランドのアアルトを初めとするデザイナーのビンテージ家具などのお店で、直ぐそばがオートキャンプ場という山里にある。こんな所でグッドデザインの品々を取り揃えているのがとても珍しい。身延山の方面へ行く方にお勧めしたい。

 

 

 


小説「リーチ先生」

2018年08月07日 | 陶芸/クラフト/デザインを考える

陶芸の事を書いた小説とは珍しいと思い読んでみた。バーナード・リーチと柳宗悦、濱田庄司、富本憲吉等との出会いと交流を史実をベースに描いた本だ。これらの陶芸史上の人物の人となりがリアルに描かれていて、彼らをとても身近に感じることができた。これはぜひ映画化かドラマ化もして欲しいと思う。