goo blog サービス終了のお知らせ 

松永和紀blog

科学情報の提供、時々私事

遺伝子組み換えサル誕生で、妙に気になったこと

2009-05-29 02:55:04 | Weblog
 小型のサル「コモンマーモセット」の受精卵に、クラゲから抽出した緑色蛍光タンパク質(GFP)の遺伝子を導入して、組み換えサルを作出することに、日本の「実験動物中央研究所」や慶應義塾大学などの研究グループが成功し、Natureで論文発表された(459号、p523~)。しかも、組み換えサルの精子と非組み換え卵子の試験管受精により産まれた第二世代でも、GFP遺伝子は受け継がれ発現していたとのこと。

 これまで、遺伝子組み換えマウスなどを利用して人の病気の治療法研究が行われていたが、より人に近い霊長類で遺伝子組み換えの手法が確立されたことで、治療法研究などが進展すると期待されている。
 コモンマーモセットは小さく、生後1年で性的に成熟して子どもを作れるようになる。妊娠期間も短く双子をよく産む。実験動物としてとても扱いやすい。人の病気の遺伝子を導入したこのサルを用いて、さまざまな研究ができそうだ。

 もっとも、マーモセットは新世界サルで、旧世界サルよりは種としてヒトから遠いので、実験材料としての限界はあるよ、というようなことも、Natureは掲載号の論文紹介記事の中で解説している。
 それに、日本では動物福祉の観点から怒る人はそれほど多くないだろうが、海外では問題視する人も多そうで、Natureはこのあたりのことも少し丹念に説明している。

 と、科学ライターらしく書いてみたものの、私がどうも気になったのは、ちょっと別のこと。
 論文のFirst Auther(第一著者)は、実験動物中央研究所の佐々木えりかさんで、佐々木さんの貢献が最大であるはず。なのに、どういうわけか日本の多くの新聞は、佐々木さんの名前を出さずに、「慶大が~」「慶大の岡野栄之教授らが~」と書いている。産経新聞も読売新聞も時事通信社もそう。毎日新聞だけ、佐々木さんの名前を出している。

 可哀想ではないか? First Autherの価値はとても大きい。私が新聞記者だったら、佐々木さんの名前を出してあげたい。世間に「この人が、実際に手を動かして頭を使って、論文も書いたんですよ」と教えてあげたい。
 佐々木さんは、実験動物中央研究所マーモセット研究部・応用発生生物研究室・室長だが、慶大ヒト代謝システム生物学研究センターの特別研究准教授も兼務している。だから、新聞記者たちは「岡野教授の方が偉い人で、コメントとしてとりあげるべき」と判断したのかなあ?
 いずれにせよ、日本の新聞記者って、やっぱり研究者に対する愛がないのよねえ、と思ってしまった。

 ちなみに、Natureの論文掲載号の解説記事や、ウェブサイトNatureNewsの紹介記事では、岡野教授の名前なんて登場しない。ひたすら、佐々木さんのコメントが並んでいる。それが当たり前だろう。

 ウェブサイトの記事では、佐々木さんを中心に実験動物中央研究所の5人の研究者がそれぞれ、組み換えマーモセットを抱いて並んでいる写真が掲載されている(この記事は、有料会員しか読めない)。
 5人は大きなマスクをつけて表情はよく読み取れないのだけれど、小さいサルを抱えて胸を張っているのがいい感じ。抱えている5匹の名前はHisui,Banko,Wakaba,Kei and Kou。Natureはやっぱり、頑張っている研究者を愛してますね。だから、研究者が格好良く見える。科学雑誌だから、当たり前か。
 
(追加)
 JSTのサイトに、研究内容を比較的詳しく説明したプレスリリースが出ていました。