ワカキコースケのブログ(仮)

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試写で見た映画(11)『ウチのはらのうち』

2013-08-29 19:27:21 | 日記


隙間を縫って更新。

昨晩は、テレビを付けながらできる作業(イラスト描き)がもっぱらだったので、かなり久しぶりにナイター中継を。
フジテレビONEでの、ヤクルト×中日(20節/神宮)。スポーツの仕事が多かった時でもまず優先はしなかったカードだ。

バレンティンが9回に、ヒョイッという感じで51号を打った。この人はおそらく巧すぎて、軽々と打つので凄さがパッと分からないのがすごい。
バースの時はあれだけ波紋を呼んだ、〈王さんのセ・リーグ記録を助っ人外国人が破るのは困る……〉問題は、野球界では今、どう処理されているのか。それが知りたくて見たのだが、解説も実況も、消化試合が盛り上がるなら歓迎、というムードだった。翌日の日刊スポーツも同様。
僕は王さん大好きだけど、いや、だから、ちょっとホッとした。ONを聖域にする価値観に付随するドメスティックなものは、野茂・イチロー以降は更新されたのだ、と改めて実感した。

それに山本昌が白星で、勝利投手のセリーグ最年長記録を更新。48歳! 若いバッターに15球も粘られ、セカンドゴロに打ち取ったものの汗グッショリ、ヘトヘトで苦笑いが人間くさくてよかった。
ヤ軍のベンチでは、引退を発表したばかりの宮本が、新人の初ヒットのボールを、すぐにボールボーイから受け取りに行った。後で、記念に渡してあげるためだ。人格者の動き。いいものを見せてもらった。
プロ野球の個人記録と引退カウントダウンが話題になり出すと、季節が変わる。


それではここで、今の時期にピッタリの1曲。オフコースが、まだ2人組デュオだった時代の隠れた名曲です。ずいぶん後で、矢野顕子さんがカバーしたのも話題になりましたよね。ちょっとシンミリしちゃう切ない歌ですが、お聞きください。
「夏の終わり」。

https://www.youtube.com/watch?v=FFnwT5WAxwQ



ラジオの台本か。
以上は、これから書く映画とはなんの関係もない。寄り道しないと、自分でブログやってて楽しくないんですよー。




『ウチのはらのうち』
2013 トリウッドスタジオプロジェクト(専門学校東京ビジュアルアーツ/トリウッド) 
監督・脚本 岩下智香子

8月31日(土)より下北沢トリウッドにてロードショー

http://filmtsp.tumblr.com/


見た日の夜に、まず感想をツイッターで書いている。

「トリウッドスタジオプロジェクトの新作『ウチのはらのうち』試写を拝見(8/31公開)。家でいろいろあった子の上京物語。後半はガラッと変わったことを会ったばかりの友達と始めて、その断裂、物凄くよく分かりました。上京したての時のリスタート感まだ残ってる女学生さんが脚本監督。」

「『ウチのはらのうち』続き。自分てものが固まる前の自分をヒロインに託す丁寧さと思い切りよさに感心しましたが、それが「学生による商業作品」の良さか。アンネ・フランクも日記で「はらのうち」を書いたのは13歳。詳しくは近々ブログで」


読み直すと、まあ大体そういうことだなあ。
まだハタチそこそこ、作った当時は19歳のかわいらしい監督さんの、若さに拘るつもりもこれ以上はないのだ。ユーミンだって矢野顕子だって、高校生の時から仕事を始めていたのだし。できないひとは、大人になってもできないわけだし。

大体、今夏、美術関係で僕がいちばんガツンとやられたのは、日比谷駅~有楽町の地下鉄通路に展示されていた「我は海の子」展の受賞作品だった。
http://www.mlit.go.jp/maritime/maritime_tk1_000025.html





こんなふうに、使いたい色をバーンと使って、思うがままに捉えられたらどんなにいいだろう。
イラストに関しては、おととしあたりから急に描こうと思い立った、完全にヘタの横好きだから、美術史などまるっきり不勉強だがそのぶん、ひとの絵は知識にジャマされずに見られる。
小学生なのにうまいねー、なんて余裕はなくて、嫉妬した。くやしくて、いずれはオレもこの子らみたいな絵が描けるようになりたい、と思った。


しかし、だからといって、『ウチのはらのうち』もこの小学生達の絵に通じる奔放な魅力、アマチュアの無心の輝きが……という話ではない。
トリウッドスタジオプロジェクトは、学生が作るものであろうと、映画興行に乗せるからには商業作品として成立しなければいけない。同じセンスのひとと共有しあう価値観に安住せず、お代を払う人の満足をめざして作る。そこまでが学習の一環、をテーゼにしているらしい。

絵や日記と、共同作業の映画(しかもお客のことを考える)では、自己表現までにかかるバイアスのケタは全く違う。
『ウチのはらのうち』は、同級生スタッフや講師/プロデューサーにずいぶんサジェスチョンしてもらいながら出来上がったところがあるようだから、この映画の良さをすべて岩下智香子嬢の若さと才能に還元する物言いは、僕はしない。
日本映画学校出身なもので、映画は監督ひとりで作るものと思い込んでる青田買い好きな映画ジャーナリストと、取材を受けたらすっかりアーティスト気分になる学生&卒業生、どっちもキライなのだ。

だが、『ウチのはらのうち』は、そのバイアスとの格闘振りがかえって良かった。その点で珍重したい映画だった。
みんなによってたかって助けてもらっている(ヒロインの松永渚はじめキャストの好演、撮影の筋の良さ、編集のスピードなど)のがハッキリしていることで、逆に、作品の核は、岩下智香子のはらわたからしか出てこなかったもの、と逆説的によく分かるのだ。
トリウッドスタジオプロジェクトの去年の作品『ふとめの国のありす』も、そうだった。呆れるほど粗い出来の映画だったのに、松国美佳という、おそらく岩下智香子の一年先輩な子の希求がまっすぐ届いた。次の日に、すごく達者な人気女性監督が、モチベーションに迷っていることを豪華キャストとテクニックで糊塗している『夢売るナントカ』(仮称)の苦しさを見てしまい、余計、はらわたがあるヘタな映画のほうがいいもんだな、と思った。

もちろん、現代日本映画のジュニア枠は、いきなり凄い、というものがもっと出ている。
去年は『あの娘が海辺で踊ってる(完全版)』を見て、アフリカからいきなり現れたような山戸結希の野蛮な才能に驚嘆した。
最近は、『風切羽~かざきりば~』(小澤雅人)の独力で正統派たらんとする気概、『燃える仏像人間』(宇治茶)の爽やかなほどの自己完結ぶり、それに『かしこい狗は吠えずに笑う』(渡部亮平)のスケールの大きさ(ポン・ジュノを初めて見たときのようなワクワク感……という連想は、『ほえる犬は噛まない』とタイトルが似ているからだけではない)がそれぞれ強い印象だった。
これでもかなりがんばっているが、あいにく僕は、見る本数が少ない。まだまだ該当するものはあるだろう。
これらに比べたら、『ウチのはらのうち』は、剥き出しの作家性という面では弱い。でも、上記のは基本、純文学だから。まだ若いうちに中間小説に取り組む/取り組ませる、の目標設定を(繰り返しになるが)トリウッドスタジオプロジェクトの志としてプラスして考えたいと思う。


『ウチのはらのうち』のヒロインは、自分を変えたい、変えるために東京へ行き、とにかく友達(になれるかどうかも行動を共にしてから考える)と動き出し、叫び、走る。
上京したばかりの監督の同時進行の希望・願望が、今しかない、という感じでパッケージされた映画だ。
岩下が撮りたかった場面、撮らなきゃいけなかった場面のみで成り立っている印象で(もちろん、そう見せている編集、というところがスタッフワーク)、なぜトラブルのあった実家から1年離れた後、東京に行くことになったか。東京でなぜすぐにルームシェアの相手を見つけられたか。といった説明は、潔いほどガンガン飛ばす。不親切もいいところだから、ここは間違いなく不評ポイントになるだろうが、イコール拙い、でもないのだ。
なぜかというと、ちょうど新しい部屋・暮らしのリズムに馴れかけた頃にかかってくる母親の電話は、申し訳ないけど「もしもしー」と出るまでにちょっとダルい。こういう感じは飛ばさず、ゴロゴロ昼寝しているヒロインを粘って撮っている。
上京して数年も経ってしまうと忘れてしまいやすい感覚。初めて夜の高層ビルを間近で見た時のマブシサも含めて。そっちのほうを優先するセンスは大したものなのだ。
ヒロイン=自分の自家撞着にハマりつつ、スレスレで溺れていない点で、岩下智香子は、モノづくりの才があるひとだ。その道は、別に映画監督だけでなくてもいい。小説家でも漫画家でもイベント演出家でもショップの経営者でも、とにかく何かにはなれる資質はあるから、これから、勉強と自己破壊のくりかえし、がんばってください。


いわゆるネタバレにはならないだろうと思うので書くが、上京したヒロインが始めてみるのは漫才コンビ。
とりあえず宣言することで何かが変わる気がするから、稽古や勉強よりも先に「ウチ、漫才やってみるねん」と大きな声で言ってみせるほうを優先する。

まあ、普遍の青春像だと思う。neoneoの周りにも「ボク、ワタシ、ドキュメンタリーがやりたいんです。批評やりたいんです」と気持ちよさそうに言う若い人がウジャウジャいる。宣言するヒマがあったらもうやってなさいよ。ボクはそんなこと言う前にもうプロの下働き始めてたよ……とは思うこともあるけど、口には出さない。宣言が自分自身の確認行為のために必要で、それさえできたらその道じゃなくてもいい、という若い人は多いからだ。ひとつのイニシエーションとして、どんどんやりたい、なりたいイメージを言葉にすればいい。30代半ばを過ぎてもまだ言う人に関しては、距離を置きますが。


その宣言のための器に、ロックバンド、ヒップホップダンス、シモキタ演劇などいろいろあるなか、漫才、は新味に感じつつ、でも意外と前からよくあるから面白いな、と思った。

ここからは遊びで。

 
〈ワカキ座 妄想オールナイト:漫才ガールこれくしょん〉

① 『ウチのはらのうち』 (2013 岩下智香子)
② 『二人が喋ってる。』 (1997 犬童一心)
③ 『大阪物語』 (1999 市川準)

 ※幕間に、若手女性漫才コンビに出演もしてもらいたい。そして第2部で、

④ 『本番オーディション やられっぱなし』 (2009 佐藤吏)
⑤ 『愛怨峡』 (1937 溝口健二)


漫才、という括りにすると、こんな面白い番組が組める。たのしい。妄想だけど。ポレポレ東中野さんもきっとこれに味をしめて、「川」とか「駅」とかテーマの特集上映を定期的に組むのだろう。



『大阪物語』は、確かヒロインの池脇千鶴は漫才は披露していないのでイレギュラーだが、夫婦漫才師の両親(沢田研二と田中裕子)に反発しつつそのツッコミが冴えてる、というあたりが良かったし、ミヤコ蝶々から千原兄弟まで、特別出演が充実しているので。
『本番オーディション やられっぱなし』はピンク映画だけど、オールナイトだからいいでしょう。コンビのケンカ別れ。夢をあきらめ、そういう自分に納得したほうの子が、ピンになって番組レポーターでがんばる元相方の出ているテレビを、オー、やってるな、とさっぱりした気分で見る。メジャー邦画が「まけない」「あきらめない」の青春映画ばかり続いてしまっていた頃だったので、青春の後片付けを丁寧に描くこの映画に、ああ精神的にも“成人映画”だと、すごくジーンときた。
『愛怨峡』は、若旦那の私生児を生んでしまい田舎にいられなくなった娘(山路ふみ子)が、流し(河津清三郎)に拾われて夫婦漫才を始める。芸人が賤業とみなされた戦前のリアリティが分かる。そのうえで、泣かされ通しだった山だしのおぼこ娘が、底辺に立った途端つよくなる。舞台の上に立ち、伝法な軽口をポンボン叩いて客を笑わせる。の意気地、を肉薄するように描いている。
溝口健二の代表作ではないにせよ、これはいいです。むしろ溝口のひりつく凄みは、代表作だけ見ているとわからない。20年以上前にフィルムセンターの特集上映で見て、震えがきたものの1本。ジョン・カサヴェテスの『オープニング・ナイト』を見たとき、舞台の場面が『愛怨峡』そっくりなのに鳥肌が立った。幻の作品などと言われることもあったが、今はDVDが出ているらしい。

 


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