便所の落書き

公衆トイレが嫌い。

よっぽど切羽詰らないと入らない。

衛生的にあまりよくないイメージがあるし、

何よりも、落書きが嫌いだからだ。

便所の落書き、見るたびに気分が悪くなる。

この前、

『ＮＯ ＳＭＯＫＩＮＧ』

の注意書きの下に、

『私は横綱ではありません』

と、書いてあってのは、ちょっと笑っちまったけど。

しかし、

便所の落書きって変わらないね。

差別的なもの、

卑猥なもの。

そして、

『ク○リ

○○○ー×××』、

『ヤリ◯ン

◯◯◯ー×××』、

こんな感じの落書きにかこつけて、

他人の個人情報をさらしたり。

質が悪いってか、レベルが低いっていうのか。

程度がわかるよな。


余談だけど、

ピラミッドの内部にも落書きがある。

４０００年前に建設に携わった作業員が書いたものだ。

『最近の若いやつらは…。』と。

落書きって永遠に近い時間、なくならないのかもしれないね。



それは、

強烈な腹痛を引き連れてやってきた。

通勤ラッシュの電車内で獰猛な便意に襲われたのだ。

次の停車駅まで、まだまだ時間がある。

やり過ごすことができるか不安だった。

それほど、無慈悲で圧倒的な腹痛だ。

すし詰めの乗客は容赦なく僕を圧迫する。

僕は下っ腹に意識を集中して、

暴れん坊をなだめようとしたが、

一度転がりだした岩は止まらない。

お腹が不穏な音を出し始める。

異常に息が荒くなるのが自分でもわかった。

僕はなんども小さく深呼吸する。

それでも落ち着かない。

背中に冷や汗が流れ、

太ももが小刻みに震えはじめる。

もし、万が一のことがあれば…

電車内は修羅場と化し、

２１世紀史上最大の惨劇になることは間違いない。

文字通り、身も心も引き締める。

電車はようやく、駅に着き、僕は乗客に体当たりするように電車を降りた。

トイレの案内板を探し、

一直線に人を掻き分けるようにトイレへ走る。

普段の行いがいいのか、

神のお導きなのか、トイレはそれほど遠くなかった。

けれど、個室が埋まっていたら…

Ｔｈｅ Ｅｎｄだ。

ネガティブな想像ばかりが脳裏をよぎる。

なんとか無事にトイレについた。

幸いに個室も空いていた。

僕は敵に突進するイノシシのように、個室に飛び込んだ。

もう限界点を越えていたので…

パンツを脱ぐまで安心できない。

全身に震えがきてたからだ。

慌てて、慌てて、やっとの思いで、ベルトを緩めた。



そんな時、ふと、前の壁に目をやると…


『あせるな！きけん！』


と、落書きされていた。




長いこと生きてるけど…

便所の落書きで心を打たれたのははじめての経験だ。


森の奥深くにある湖のほとりで…

妖精が水浴びしてるのを目撃したような気分になっちまったぜ。



追伸

蛇足ですが、

『あせるな！きけん！』は、

『まぜるな！きけん！』のパロディです。

 

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