パンキュッシュな白昼夢

フィクションとノンフィクションの狭間を行き交う白昼夢。

現代版『自虐の詩』。今宵…あなたは目撃者になる!

憂鬱と理想

2024-01-01 15:03:39 | コラム

※この記事は極めて純粋に僕の気持ちを表現してます。

いつものおふざけはありません※

 

 

客を誘う焼き鳥屋がある。

僕も大好きでよく行ってたんだけどさ、

この前、前を通りかかったら、

いつもよりも景気よく煙が出ていたので、

「相変わらず威勢がよくてカッコいいなぁ!」

なんて思ってたら…


火事だった。

 

そんな出来事のせいか、

仕事に対するモチベーションが上がらない。

 

そんな時、どうするかと言うと、

本を開いて、物語の世界へ逃避ばかりしている。

 

今は、

レイモンド・チャンドラーの『長いお別れ(Long Goodbye)』(村上春樹訳)が読みたい。

だけど、

友達にあげちゃったから、また文庫を買わなきゃ。

何十回も読んでるけど、

読むたびに新鮮な感動があるんだよね。

 

 

僕がなぜ、

『長いお別れ』に魅了されるのか。

 この物語、探偵小説、つまり推理小説なんだけどさ、

一般的な娯楽小説ではない。

 

プロットのおもしろさは言うまでもないことだけど(あえてストーリは書きません)、

この小説が…

美しすぎるからだ。

 ページを開けば、

限界まで研ぎ澄まされた鋭敏な言葉が、

旋風のようなリズムでたたみかけてくる。

チャンドラーが紡ぐ、その言葉を追うだけで、

僕は現実と小説の世界の区別がつかなくなる。

つまり、

小説の世界にどっぷりと引きづりこまれてしまうわけだ。

 

美文といえば、

スコット・フィッツジェラルドが思い浮かぶ。

でもね、

チャンドラーとフィッツジェラルドの美しさは質が違う。

 

フィッツジェラルドの言葉は透明感のある美しさで、

チャンドラーの文章は、

光と影が入り混じった美しさなんだよね。

 

これは両者の人生経験の違いだろうと思う。

フィッツジェラルドは20代前半には、

誰もが知ってる流行作家だったけれど、

チャンドラーは、

挫折に挫折を重ね、

40代で小説を書き始めた。

だから、

チャンドラーの美しさには現実的な痛みがある。

そこに、

僕は強く揺さぶられてしまうのかもしれない。

 

言葉の美しさ以外にも、

僕が『長いお別れ』に惹かれてやまない理由がある。

それは主人公の、

フィリップ・マーロウのキャラクターだ。

 

曲がったことが大嫌いで、

タフでシニカルで、

意地っ張りなくせに、

感傷的で人に優しい。

感情は一切、表面に出さないけれど、

常に心は愛で満ちてる。

それを、

行動で示す。

武士道と言うか、

騎士道精神にあふれてる。

だから好きなの。

 

僕にとって読書は癒しだ。



と、言いつつ、

子供のころはまったく本を読まなった。

 

そんな僕が…

なぜ本を読むようになったか?

それは、バンドを始めて曲を作るようになったからだ。

曲の方はなんとかできるんだけど(もちろんド素人レベルですが)、

どうがんばっても、歌詞が書けなかった。

15歳の少年じゃ社会経験がないに等しいから世界観も狭いし、

勉強もまったくしてないからボキャブラリーも貧困だったしね。

だから、歌詞は好きなバンドのマネをして書いてただけど、

パンクバンドの歌詞ってさ…

「革命」とか「アナーキズム」とか「偶像破壊」とか、

言葉としては知ってるけど、その世界に入り込めない言葉が多いんだよね。

自分で書いた歌詞を唄ってても、いまいち実感がない。

たとえて言うなら、

花の鮮やかさや可憐さは表現できるけど…

その芳香は伝えられないって感じかな。

それを補おうと「革命」や「アナーキズム」に関する本を読み始めたわけ。

けどさ、

あまりにも日本の情勢とかけ離れてて…

僕の体に馴染まなかったのが、正直な感想だ。

 

でもね…

もちろん、例外はあるわけで…

チェ・ゲバラの『ゲバラ日記』にはシビれた。

本を開いた瞬間に…

重みがあり、かつ、きらびやかな言葉が踊ってて、

目眩がするくらいの衝撃を受けた。

ゲバラが感じた肌ざわりが、

ゲバラが見た光景が、

ゲバラが吸った空気が、

ゲバラの愛が、

僕に染み込んできた。

頬をすりつけるようにして読んだもん。

何度読んでも、すべての言葉が生きていて、僕に語りかけてくれた。

『ゲバラ日記』に教えてもらったんだよね。

命のこもった言葉の威力ってやつを。

(チェ・ゲバラは革命家であるとともに、一流の詩人でもあるんだけどね)。


それ以来、言葉の威力を求めて…

本という本をむさぼり読むようになった。

 

そして、出会ったのが…

鶴彬(つるあきら。1909~1938)だ。  

一般的な知名度は高くないから、ご存じない方が多いかもしれない。

彼は昭和初期の戦中に活動したプロレタリア反戦川柳作家だ。  


「俺達の 血にいろどった 世界地図」  


「軍神の 像の真下の 失業者」 


「稼ぎ手を 殺し勲章で だますなり」  



戦争に邁進する大日本帝国政府の下で、

反戦川柳を詠み続ける彼は逮捕され、

1年8ヶ月に渡り収監される。 



しかし、彼は屈しなかった。  



「フジヤマと サクラの国の 餓死ニュース」 


「万歳と あげて行った手を 大陸において来た」  


「手と足を もいだ丸太に してかえし」 


と、出所後も詠み続けた彼はまた逮捕される。  

そして… 

29歳の若さで獄死してしまう。



鶴彬は16歳の時にこんな川柳を読んでいる。


「暴風と 海との 恋を見ましたか」


これほどまでに美しく、命のみずみずしさに溢れた川柳を僕は知らない。



もし戦争さえなかったら…

違った鶴彬の言葉が多く残されてたかもしれない。

残念でならない。

 



『長いお別れ(Long Goodbye)』は一人称の語りで進行していく物語なんだけどさ、

最後はこう締めくくられる。

 

「私はその後、事件に関係があった人とは誰とも会ってない。

ただ、警官だけは別だ。

警官にさよならする方法は未だに見つかってない」

 

このセンテンスは心に突き刺さる。

 

なぜか?

 

人類は未だに戦争とさよならする方法を見つけてない。

 

戦争さえなかったら、

もっともっと多くの命の繋がりがあったはずだ。


戦争でお亡くなりになったすべての方々のご冥福をお祈りし、

哀悼の意を捧げます。

 

そして、

戦争のない世界を作ることに努力したい。

 


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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
憂鬱と理想・・・・・・・ (おにゆり)
2018-08-18 02:04:53
反戦川柳は知らなかった。
読んでみたいです。

戦時中、その逆の事を書いた人、「欲しがりません勝つまでは」みたいな。
彼らは苦しんだというのは知ってるけど。

私の母も戦争に翻弄された青春時代だったから戦争というものがどんなものかよく話して聞かせてくれました。
二度としたらいけないよね。

反戦川柳は心をえぐります。
何文字かの文字の重みを感じます。
言葉って凄いね。
返信する
おにちゃん (ロットン)
2018-08-19 15:40:06
ありがとう。

戦争はきついよね。
この時期になると、
戦争について考えちゃうもんね。

戦争なんて本当にいらない。
返信する

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