歌猫Blog跡地

漫画「鋼の錬金術師」と荒川弘について語るブログ。更新終了しました。

本をよんでみたり2

2008年07月26日 | ◆小ネタとか突っ込みとかつぶやきとか
この人の著書「テヅカ・イズ・デッド」を、鋼の錬金術師が取り上げられているからという理由だけで読んでみたことがあるのね(すんげ頑張った感想はこちら)。
そんで、伊藤剛さん、好きになっちゃったんだ。
何が好きって、そのさくっとした語り口がいい。ドライな。
あと、なんかすっごい頭がよさそーなところ(なんだそりゃ)。


まずは、「マンガは変わる」
この本は1996年から2007年までに、あちこちの雑誌で発表した記事をまとめたものなんだけど、やっぱほんと頭いいなあ、って思いました。

なぜかというと、雑誌媒体によって語り口が、固いのから柔らかいのまですごーく幅があるところ。
けど、どれも、しゃきっと論理的なスジが通ってる。
ユリイカの文体は、一番固い方って感じ。あと「テヅカ・イズ~」も固い。
こっちのがはるかに読みやすかったです。

さて。なぜ普段は本なぞ読まない私が、この分厚い本を読んだのか。
それは、伊藤氏がマンガ表現論たるものの論者だからです。
えーと、正しく説明しようとするとWikiやあちこち参照しなくちゃなんないんで面倒くさい(コラ)
テキトーに説明すると、「なにを描くかではなく、どう描くか、に注目する評論家」
この作品が描かれた時代背景はとか、この作者の思想はとか、そういうのをさっくり切り離して。
コマ割りとかページめくりとか、キャラ配置が読者の視線を誘導するとか、そういうとっても即物的なことを。精神論より技術論?(すげー乱暴)

伊藤氏は、修行時代?に、月に2~30冊のエロマンガレビューを書いてたんだって。
そしたら「私自身の性的なオリエンテーションやフェティッシュから離れたところに『読み』の快楽を見出した」
この表現がさあ、また頭良さげだよねえ。「オカズにする」「萌える」は、こう言い替えればいいのかあ!(笑)
内容に興味が無くても、くだらねー十把一絡げのエロマンガでも、「読みの快楽」つまり面白くマンガが読めるということ。
私が身に付けたい技は、それだ!!

ああ、病ここに至れりって感じ?そうさ、私はあのどーしよーもなくつまんねーシナリオの「獣神演武」を、何とかして面白く読みたいんだ・・・。

んでも、まあ、本を読んで何が変わるかというと何も変わらないんだが。(だからダメじゃん)
でも、「何を描くか」と同じくらい「どう描くか」が、マンガにおいて重要だっていうことが、わかって、良かった。

私は、鋼の錬金術師はなぜ面白いのか?を考えたくてこのブログをずーっと書いてるんだけど、荒川弘のマンガの「わかりやすさ」もまた、面白さ=(私にとっての)マンガの価値、なのね。
それで、なんでこんなに「わかりやすい」のか、について、マンガの描き方、というアプローチもあるんだなあ、と。
私は、抽象的概念をすごく身近な例でもって見せることができる、荒川弘の上手さ=分かりやすさってとこは自力で気付いたけれど、構図とかコマ割りとか、そういう上手さは「風遊」のヨウ様と、伊藤剛氏から、教えてもらいました。

どの評論も、へえほおふうん!って感心すること多々。やおい考とかも的確で、男性でも分かってる人は分かってるんだなあと。
あとビンボーマンガのペンタッチ解説とかも、笑えてマジメでなるほどなあと。ここ、マンガ描きさんには参考になりますよきっと!
「マンガは変わる」 面白かったです~v



続けて「マンガを読む。」
上のが評論や考察をまとめたものに対し、こっちは紹介・レビューをまとめたもの。
読んだ事あるマンガが圧倒的に少ないからかもしれないけど、こっちのが薄味だったかな。
や、私が評論みたく濃いィ文が好きすぎってだけか(笑)

レビューにはもちろん「鋼の錬金術師」もありましたよ!
まず6巻刊行時。アニメ化前でもちゃんとピックアップ。
次に7巻刊行時。SPA!のマンガ評担当の一人となった伊藤氏が、最初に取り上げたのがハガレンだったんだー。へえー。

「主人公たちのひたむきな姿、上品なテイスト。子供のころ、父が手塚を買ってきたときの気持ちが、少しわかったような気がした」

そう!鋼の魅力は「上品さ」だ!
それが、月刊ガンガンで、悪いなと思いつつ読み飛ばしてしまう他の作品との、一番の差かもしれない。
上品さ。品格、洗練。丁寧な仕事。志の高さ。うん。
重い、深い、軽快、逞しい、冷静、熱い・・・鋼を説明するのに色々なキーワードがあるけれど、上品さ、もそのストックに入れておこう。

そんで、「父が手塚を買ってきたときの気持ち」ですよ!「(私に息子がいたなら)一緒に読みたい」ですよ!
なんか、最高の褒め言葉の一つですよね、これって。
えへへー嬉し~v


レビューは文が短い分、解説のひと言がとても利いてます。
他の作品についても。
例えば鋼と同じスクエニ作品、BANBOO BLADE
「広く一般に読まれるだけの強度がある」
リストランテ・パラディーゾ(オノ・ナツメ)
「小粋で爽やか、少し感傷的」
皇国の守護者
「的確にフォルムをとらえた描線への信頼に支えられたシンプルな画面が(中略)難事を描ききっていいる」
ヒカルの碁
「背筋の通った主題である。しかも、それが、きわめて美しいマンガで描かれていること。主題と表現が一致するとは、きっとこういうことなのだ」
MOONLIGHT MILE
「国際サラリーマンものの変奏」
おおきく振りかぶって
「(三橋が)徐々に自己を肯定していく。その様が美しく描かれている。その関係性の美しさはエロティックでもある」
弘兼憲史
「嫌だ、嫌だと思っていても、つい読んでしまう、弘兼マジック」←(笑)
高橋しん
「『風景』を描いてきた作家」
よしながふみ
「不意に訪れる至福の感情こそが『幸福』である」

そのマンガを、さくっとひと言で、どう表すか。
的確で鋭く、美しい文。
うーん、さすがだ。見習いたい。

けど、よしながふみ作品あたりは、相手が上手すぎて自分が好きすぎて、だからうまく評論できてない、って感じも受けました。あはは、伊藤氏ほどの人でもそゆことあるんだな~。


いろいろタメになりました。
が、実生活ではなーんも役に立たないな、こうゆーお勉強(笑)
役に立たない勉強ができるご身分、やあ、幸せだなあ私!


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3 コメント

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歌猫さんの記事で (真朱薫)
2008-07-28 00:02:27
すごい読みたくなりました。

特に色々な漫画を簡潔に評しているもののラインナップが
知っているものが多かったのと、
共感できるというか、ああ・・・と思うところが多い。

でも買うとどれもいいお値段の本ですわね。(爆)
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私は息子と一緒に読んでいます (う~さん)
2008-07-28 02:18:57
夫は、11才の息子に、手塚を買ってきます(先日は、ジャングル大帝でした)。
私は、発売日に、息子に「鋼」を買ってこさせます(笑)。報酬は、お母さんより先に読めること。
彼は一昨年くらいから読み始め、新刊が出るたび、バラバラではあるけれど全巻読んでを繰り返しているので、きっと螺旋階段を歩くように、少しずつ何かを吸収し、理解しているのだろうなと思っています。
そうか、手塚作品に通じる「品」か。命の扱いと、揺るぎない根っこを避けないことと、決してギャグを忘れないこと。夫が、ジャングル大帝を夢中になって読んだ後、手塚作品を子どもに買って来る理由を話してくれましたが、それは私が「鋼」をいっしょに読むのと同じ。
子どもにも読ませたい・・・ごく自然にそんな風に思える作品だと思います。
あぁ、なんか支離滅裂。とにかく、この部分に、大いに共鳴して、コメントを投稿しました~。
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コメントありがとうございます。 (歌猫)
2008-07-29 07:10:04
真朱様こんにちは!
買うほどの価値があるかというと、うんと、まずは図書館で見てみてからでも、という感じです。特に書評の前半は1作品数行の紹介記事で、ここまで仕事を書籍として残せるなんて、伊藤氏は幸せ者だなあ、なんて思いました。
ラインナップもほら、私が感銘をうけた部分でありますし。
や、図書館、便利っす(笑)

う~さん様こんにちは!
素敵なお話をありがとうございます!
>螺旋階段を歩くように、少しずつ何かを吸収し、理解している
ああ、そうかも・・・。自分が5-6年生の頃を思い出しました。意味はわからないけれど、何かが分かるんですよね。
以前、中学生の方から頂いたコメントで、最初つまんないマンガだと思っていたのが、学年が上がって急にすごく面白くなった、という話で。
ぎゅううーと心が成長するときに、同時進行で読んでる子供たちがいて、それはきっと一生、何か残るんですよね。
なんか、コメに触発されて、記事を一本書いてしまいました。(垂れ流し記事ですが・・・)
コメント、ありがとうございました♪
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