プラムフィールズ27番地。

本・映画・美術・仙台89ers・フィギュアスケートについての四方山話。

◇ 宮脇俊三「時刻表2万キロ」

2013年03月01日 | ◇読んだ本の感想。
ああ、なるほど、中央公論社の重役だったのね。
本文に書かれてないので、本職は何なんだろうとずっと不思議だった。

面白かったですよ、これ。
1978年発行だが、それをあまり感じさせない。
もっとも当時はJRじゃなく国鉄で、もちろん時代風俗はそのまま出ているんだけれども、
この人の書く文章は古びていない。

要は鉄道オタクのオタク心発露の本。
この人が国鉄全線乗車を思い立ち――それまでもほとんどの路線に乗っていたんだけど、
最終盤に残った周辺部の(つまりは交通が不便で乗りにくい路線を)、
いかに苦労してツブしていったかという旅行記。

列車の発車時刻や到着時刻、乗車キロ数など、わりあい細かく書いてある部分もあって、
そういうところはオタク以外にはそれほどアピールするものではないんではないかとも思うが、
そこは本人も自覚があるらしく、もっと細々と書きたいところだろうに最小限に抑えている。
かといって普通の旅行記を予想すると、観光地などにはほとんど行っておらず、
そのあっさりぶりに軽く肩すかしを食うだろうけどね。
オタク道と一般旅行記の幸福な中道をいっている。

その中道を形作るのは、やはり文章の飄々とした書きぶり、面白さなんだろうなあ。
基本的には地道な淡々とした文章なのだけど、時々笑ってしまうほどトボけた味の文に出会う。
この呼吸は……宮田珠己を若干思い出させるぞ。実は仲間なのか?
まあ宮田は鉄道の趣味はなさそうだけど。

この人はこれを処女作として、その後相当数の著作を出している。
それが律儀なことに、この本を出す直前に中央公論社を辞めたそうなの。
自分が編集者と作家を兼ねた状態で、自著を出版することは他の作家に対してアンフェアだと感じたらしく、
だからといって自分が中央公論社にいて、著作を他社から出すのもおかしなものだから、だそうだ。
そしてこの本は河出書房新社から出たそうなんですね。
でもその後、中央公論社からは一冊も出してないようだなあ。
退職後だったら出しても良かったんじゃないの?むしろ売れるのだったら中央公論社も
他社から出して欲しくなかったんじゃないかと思うが。

この人は、在職中に「日本の歴史」「世界の歴史」シリーズを手掛けた人だそうだ。
そうか。わたしはあのシリーズには愛着があった。全巻揃えて持っているわけではないが、
いい本でしたよ。中公文庫も好きだったし。そういう意味でもこの人に親愛を感じる。

この人の著作はもう少し読むだろうな。
挙句の果てには時刻表ミステリまで書くらしいし。1作目が面白くても、
それはビギナーズラックかもしれないから、全部ツブすかどうかはわからないけど。



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