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プラムフィールズ27番地。

本・映画・美術・仙台89ers・フィギュアスケートについての四方山話。

◇ 「夏目漱石全集6 門/彼岸過迄」(ちくま文庫)

2025年05月03日 | ◇読んだ本の感想。

「門」はたしか2度目だなあ。
雰囲気は覚えていたが、後半の流れは忘れていた。
特に最後、こんなにほの明るく(同じくらいほの暗く)終わるんだっけ?
破滅を暗示して終わるような気がしていた。「それから」に引きずられているか。

夫婦の精神的な結びつきを丁寧に書いているところがいいね。
明治~昭和くらいの日本文学って、恋愛話というより、単に男と女の話って感じで
じめッとしているイメージ。森鴎外でさえ「舞姫」あたりも男から見た女。

でも本作では御米も女というより人間。こんなに違う性をちゃんと書けるんだと意外。
もっと漱石は朴念仁な気がしていた。というより今でもしている。
奥さんにブツブツ言っているシーンが多いからだろう。
でも奥さんともそれなりに仲が良かったのかな。随筆を読むとそうは思えないのだが。
真実は藪の中。



「彼岸過迄」は初めてかもしれない。漱石作品の主なものは一度は読んだと思っていて、
「彼岸過迄」も読んだと思ってたが、内容に全く覚えがない。
あんまりつまらなさそうだったので止めたのかな。

正直、半分はつまらなかったですね。
とにかく前半はつまらなかった。敬太郎に焦点が当たっている部分はほぼつまらない。
あんなぼんやりな男のことを事細かに読んで何が面白かろう。

後半になって、須永の告白になってから、ようやく漱石の真骨頂。面白くなる。
まあストーリーとしては特にこれといったものはないんだけどね。
でも漱石の良さはしんねりむっつり書く心理描写だから。
須永も相当に面倒くさい奴だが、これが嫌いなら特に漱石を読む意味はないだろうし。

須永の告白の前と後で、松本叔父のキャラクターが変わったのが納得出来なかった。
だいぶつまらない人物になってしまいましたもんね。めっきが剥げたというか。

そして松本のうわごとのような、締めにならない締めで話が終わる。
正確には敬太郎パートで数ページあって最後なんだが、もうほんとこれは
いかにも苦し紛れにくっつけただけで、この部分は全然ダメだろう。


この作品は伊豆の大病の後、しばらく療養してのちの執筆第一作らしい。
前書きでわざわざいうほど面白い作品にしたいと気張ってたようだし、
むしろ気負いすぎたんじゃないのか。

おそらく漱石はプロットをしっかりと考えて小説を書くタイプではなく、
ふだんから自分の中にある哲学を取り出してみせるために小説という形をとる。
書きながら話を整えていくタイプ。
前半は書きたいことまでなかなか届かなかったのであんなにうだうだしてたんじゃないのねえ。

ようやく須永が語り始めたので興にのって書いたが、須永で話を終わらせることが出来ず、
だからといって松本が今さら内輪を語っても仕方なく、どうしようもなくなったんだと思うよ。
もし面白い漱石作品だけ読みたいと思うなら、「彼岸過迄」はやめといた方がええで。
もっと面白いものはあるから。


次の巻からは随筆が多いようなので楽しみにしている。
随筆は数冊蔵書があるけどそこまで読んでない気がする。
漱石は随筆を書いていればよかったんじゃないですかね。
本当にいいたいことがあって、それを書きたい場合、小説という形式じゃなくて、
随筆でストレートに書いた方がはかが行くだろうと思うのよ。


漱石で好きなのは「倫敦塔」。「夢十夜」。「猫」。「三四郎」。
おっさんがロマンティックなのが好きなら、特にこの4つで十分。
「それから」「虞美人草」は読んでもいいかな。

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