お母さんと読む英語の絵本

読み聞かせにぴったりな英語絵本から、米国の子どもたちの世界をご紹介
子どもをバイリンガルに…とお考えのお母さんに

わたしがわたしであるわけ

2011-03-22 | about 英語の絵本

Frida

今日ご紹介するのは、アーティストのフリーダ・カーロ(Magdalena Carmen Frida Kahloy Calderón)についての絵本です。フリーダはメキシコの画家で、1954年に47歳の若さでなくなっていますが、文字通り波乱にとんだ、またきわめてラテン的に恋多き、彼女の人生は小説にも伝記にも映画にもなっています。鮮やかな色彩で描かれた、深い情念のこもった作品は、すでに存命中からヨーロッパの画壇でフランスのシュールレアリストに高く評価されていました。

フリーダはドイツ系ユダヤ人で、ルーマニア出身の父とメキシコ先住民の血を引く母との間に生まれ、きわめてヨーロッパ的な教育を受けながらメキシコで育ちました。彼女の血の中には、それぞれの民族のもつ長い歴史と異なる文化とが、すでに生まれたときから複雑に混在していただけでなく、さらにバイカルチャラルで育った環境やフランス的な知性とラテン的な情熱とが、彼女の性格にも価値観にもライフスタイルにも、きわめて複雑な陰影と深みを与えています。

それだけでなく、フリーダは6歳でポリオに罹患して右足が不自由でした。また二分脊椎症でもあったために、幼いときから常に『痛み』とともに生きることを余儀なくされました。そのうえ、さらに高校生の時に、乗っていた路面電車で事故に遭遇し、肩・肋骨・鎖骨・背骨・骨盤などの骨折に加え不自由だった右足まで粉砕骨折という瀕死の重傷を負いました。実に過酷な人生です。

フリーダが本格的に絵を描き始めるのはこの事故で入院していた時期です。絵はまったくの独学でした。その後、当時のメキシコ画壇の第一人者であったディエゴ・リベラにその才能を認められ(と言うよりも「認めさせ」が正しい「自薦」だったようです)、プロの画家として活動を始めます。フリーダは後にこのディエゴと結婚し、離婚して、さらに復縁していますが、この間に、彫刻家のイサム・ノグチとも、革命家のトロッキーとも恋愛関係にあったと言われています。

さて、ご紹介する絵本は、そんなフリーダが画家になるまでのエピソードに、フリーダ自身の作品を添えた絵本です。動けなくなったフリーダが、どのようにして絵を描きはじめたか。絵本は、彼女の作品を彼女自身の人生のエピソードに重ね合わせて紹介することで、消えることのない痛みとともに生き、文字通り『動けない』不自由をかかえながら、まさにその不自由に閉じ込められた彼女自身を描き、そうして描くことで、自由に動けないからこそいっそう奔放にめぐらされるイマジネーションの世界へと彼女自身を解き放った・・・・、そんなフリーダの若い日々を存分に描き出すことに成功しています。

アーティストは何故、そしてどうやってアーティストになるのか、アートはどこから、何故、生まれてくるのか。この絵本にはそうした問いへのひとつの答えがあります。たとえば美術館が催すアーティストの「回顧展」はまさにそうした問いを具現するものですが、この絵本は、そうした回顧展に匹敵する、幼い子どものための試みといえるでしょう。こういう絵本がもっと出版されてもよいのではないかと思っています。

日本では、版画家の山本容子さんに「おこちゃん」という自伝的な絵本があります。山本さん自身の作・画の、おしゃれな作品ですが、これは山本さん自身の幼い日々の思い出を綴った作品で、残念ながら、アーティスト山本容子誕生のエピソードではありません。「おこちゃん」続編の刊行を期待したいところです。





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