お母さんと読む英語の絵本

読み聞かせにぴったりな英語絵本から、米国の子どもたちの世界をご紹介
子どもをバイリンガルに…とお考えのお母さんに

絵本が 消える日・・・

2010-11-29 | from Silicon Valley


10月10日のニューヨーク・タイムズ紙に、まるでヒトコマ漫画のような短いコラムが載りました。題して『絵を置き去りに……』(NY Times: Leaving the Pictures Behind

コラムにつけられたイラストでは、7人の子どもたちがそれぞれ手に本を持って横一列に並んでいます。

一番左(最も古い時代)の子どもには「1878年」という注釈がついて、手に持っているのは『ジャックが建てた家(The House that Jack Built)』
そのお隣の子は「1931年」で、持っている本は「ババール(Histoire de Babar)」
次の子は「1941年」。絵本はおなじみの「ひとまねこざる(Curious George)」です。
隣には「1947年」の子どもが、「おやすみなさいおつきさま(Good Night Moon)」を持って立っています。
それから10年後、「1957年」の子が持っている絵本は「ぼうしのなかのねこ(The Cat in the Hat)」。
1963年」は、昨年映画になった「かいじゅうたちがいるところ(Where the Wild Thing Are)」を持った子どもです。
なせか一挙に時代が下って、右端の子には「2010年」と注釈があり、手にしているのは「フィネガンの徹夜祭(Finnegans Wake)」です。

2010年の子どもが持っている本は、絵本ではありません。英国の作家ジェイムズ・ジョイスの最後の作品で、難解とされる彼の作品の内でも最も難解で、研究者をして「理解不能」と言わせた作品です。

これを子どもが持っている……ことのニューヨーク・タイムズ的な皮肉な示唆をコラムから読み取ると、要するに昨今、親をはじめ社会が子どもを急かしすぎている。早く文字が読めるようにと急がせるあまり、子どもたちから「絵本を読む楽しみ」を奪っているのではないか、ということ。つまり、文字に追われて「絵が置き去りに」されることを憂慮しています。

なにも小学生でジョイスを読まなくたっていい、という意見には、たいていの大人が賛成すると思いますが、でも、まぁ、これはニューヨーク・タイムズ流のジョークだとしても、では、字が読めたら絵本はいらないのでしょうか? 子どもは単に字が読めないから絵のついた本を読んでいるにすぎないのでしょうか?

そんなことはありませんよね? 絵本は、単にテキストやお話に添え物として挿絵がついているのでもなく、絵の解説のために文字が書いてあるのでもありません。試しにお気に入りの絵本を想像してみてください。絵がなかったら…? テキストがなかったら…?

絵とテキストが渾然一体に分かちがたく溶け合ってひとつの世界を創りだし、その世界ならではの感動を呼び起こすのが絵本……子どもと一緒に絵本を読んでいる私たちは、実感としてそれを知っています。でも……ニューヨーク・タイムズ紙が危惧するように、そんな絵本を、もう子どもたちが読まなくなる日がくるのでしょうか?

ところで、お気づきでしょうか? ニューヨーク・タイムズ紙のイラストで子どもたちが手にしている絵本はどれも、今日でも刊行され読み続けられています。驚くほどのスピードで社会が変化を遂げているというのに、19世紀に刊行された絵本も、20世紀初頭の絵本も、時を超え国境も超えて、ずっと子どもたちに読み継がれているのです。すごい!ですよね!

絵本から『絵』がなくなる日が来るのか?も重大なテーマですが、私の最近の関心は、むしろ、絵本が『本』でなくなる日が来るのだろうか?です。そう、いわゆる電子書籍の登場で、絵本はどうなる?です。明日ご紹介する絵本(It's A Book)のテーマはまさにそれ、です。これは、よくよく考えてみたいテーマなので、いつか稿をあらためて書きたいと思います。



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