Source: Orange County School Board
アメリカの青春映画では、ハイスクールは自由(ときに奔放)の象徴。窮屈な制服などありませんし、そもそも服装規定(Dress Code)なんていう単語は辞書に載ってないのではないかという気がするところです。
が、聞いてみると、いちおう服装規定は「ある」のが一般的なのだそう。どんな規定?というと、女子ではシースルーのブラウスやドレス、ピンヒール、超ミニスカートは禁止。男子では、Sagging Pants(をわざとずり落として履くダボダボのズボン)、Muscle Shirt(Tシャツをノースリーブにしたもの)は禁止、という辺りが一般的なのだそうです。
なるほど。では、ドレスコードに触れない長さのスカートを『男子生徒』がはいて登校したら?あるいは、『女子生徒』がタキシードを着てプロム(学校主催のフォーマル・ダンスパーティ)に出席したら?
いわゆる女装、男装(Cross-Dressing)は現代のアメリカでは、高校でも案外よくある問題です。最近ではテキサス州ヒューストン市の高校3年生の男子が、女性用のかつらをかぶって登校し「男子の髪はシャツの襟を超えない長さまで」という服装規定に抵触するからというので帰宅させられた事件が全米でニュースになりました。
伝統的な「男女別の服装規定」の慣例にとらわれない、かなり自由な服装を認めているハイスクールもあります。例えばアリゾナ州タスカン市の高校では、今年9月、常々男性を自任・標ぼうしている"女子生徒"がホームカミングの「プリンス」に選ばれましたし、逆に、今年5月にはロサンジェルスの高校でゲイの男子生徒がプロムの女王に選ばれました。いずれも、学校主催の行事に女装・男装で参加しての結果です。また学校発行の学年記念誌(Year Book)に、タキシード姿の写真を載せた"女子学生"もいます。
最近のアメリカの定説は、男女別の服装規定という考え方は中高年以上世代の価値観で、要するに過去の遺物。若い世代には「性別」へのこだわりは全然ない、というものです。実際、世論調査でも意見は世代によってくっきりと分かれ、若い世代はきわめて受容的です。
が、現場の先生たちは戸惑いを隠せません。
ある高校教師は、「学校は勉学の場で、公共政策を論じる実験広場ではありません。服装規定を全く外してしまうとクラスでの授業に影響が出るから困るのです。実際、(男子生徒の)ジミーが口紅をつけ、つけまつげをしてクラスに座っていたら、他の生徒は勉強に集中できません」と語り、ジミーが女装してきた日の放課後、クラスの全生徒に向けて「働く場(勉強の場も同じ)では、何らかのドレスコードがあるのが当然で、そこに集う人は誰であっても、この一定のルールのために、個人の好みの一部を抑制するのが常識」と言う趣旨のメールをうったと語っています。
生徒同士の反応もまだまだ過渡期の様相。若い世代の間にも意見・主張の違いはあり、時に深刻な対立に発展してもいます。懸念されるのは対立が暴力的な様相をおび、生徒の安全を脅かしかねないこと。実際、今年2月、カリフォルニア州のハイスクールで、女性用のハイヒールのブーツにメイクアップをして登校した男子生徒が、同窓の男子生徒に射殺されるという事件が起きています。
同性同士の結婚を容認するか否かの市民/州民投票が行われ、しばしば新聞やテレビを賑わせているアメリカ。服装が自己表現の手段である限り、それは自らのジェンダーを主張する重要な手立てでもあるわけで、たかがドレスコード、されど‥‥の深い問題です。