デイブ・シャウブ(Dave Schaub)は59 歳。曾祖父の代から続く精肉・鮮魚の販売業 Schaub’s の4代目です。シリコンバレーの真ん中の街パロアルトに店を構え、高品質の肉と魚で知られる老舗ですが、何と言っても看板商品はデイブのお父さんのフレッドの秘伝のタレでマリネしたその名もFred’s Steak(フレッドのステーキ)。
見た目は文字通り”真っ黒”なので、初めて見ると「えっ?これ食べられるの?」という印象なのですが、焼いてみると、えも言われずおいしく、一度食べたら忘れられない味。親子代々受け継がれたステーキには、親子代々のファンがついていて、地元住民だけでなく、遠路はるばるサンフランシスコ湾の反対側の町からも馴染み客が買いに来ます。
さて、今日の話題はステーキではなく、4代目です。デイブは還暦を前にチャリティを思い立ち、彼の店の筋向いにあるロナルド・マクドナルド・ハウス Ronald MacDonald’s House at Stanford のために寄付を集めよう!と決心しました。目標は10万ドルです。
ロナルド・マクドナルド・ハウスは重病の子どもとその家族を支援するため、病院近くでの"宿泊施設と支援サービス"を寄付とボランティア活動をベースにして提供する非営利の事業です。
本部はシカゴにあり、全米に288の”ハウス”があるほか、世界52カ国で事業を展開しています。日本にも財団がありハウスもあります。
ロナルド・マクドナルド・ハウスは、現在では一般名詞として定着していますが、そもそもはハンバーガーのマクドナルド社のマスコットの、あのピエロのロナルドにちなんだ名前です。全米初(そして世界最初)のハウスが米国フィラデルフィアに建てられた時、建築資金の不足を同地のマクドナルドのオーナーの寄付で補った記念に、ハウスにロナルドの名を冠したのが由来。ハウスの事業については、あらためて別の機会に詳しく書きます。
さてデイブのチャリティは、”80日間世界一周”ならぬ”9日間 49州走破 (49in9 )”です。
幼い時から「車輪のついてるものは何でも大好き!」だったデイブならではのユニークな企画で、アンティークカーのコレクターでもある彼が秘蔵コレクションの中から選びだした1932年製 Roadstar に乗り込み、49州の合計9800マイルを9日間=216時間で走破するという計画です。一日平均約1100マイルを走行する計画は自動車レース並に過酷。でもデイブは全行程を、メカも同乗させず、伴走車もなしでひとりで運転し、自分でメンテナンスしながら走り切る計画をたて、この冒険をライブで公開し、賛同者から寄付を募るイベントとすることにしました。デイブの寄付の"お願い”は「走行距離1マイルにつき1セント以上をお願いします!」というもの。本稿を書くにあたって、私も98ドル寄付しました。
思いついたが吉日。デイブはさっそく支援者を募るため、計画の一部始終を公開するウェブサイトを開き募金を開始しました。
サイトには、募金の趣旨、デイブのプロフィール、車の紹介、49州にまたがる走行計画と地図が公開されています。デイブは準備段階から詳しい実況中継のブログを書き、刻々と集まってくる寄付の記録も開示しています。目標の10万ドルにはまだ届きませんが少しずつ賛同者が増え、黒無地だったRoadstarは、今や大口寄付者の名前や企業ロゴでいっぱい。すっかりカラフルに染め上げられています。
そして9月8日(火)、デイブは満を持して全米走破の冒険ドライブに出発しました。行く先々でデイブを見かけた人が撮った写真、彼自身が撮った写真とブログなどで、『49in9』のサイト上は実況中継さながらです。
最新の情報通信技術は、人間が「ひとりでもできる」ことの範囲をこんなに拡大したのだなぁ‥‥、実行にさえ移せば、こんなに速いスピードで実現できるようになったんだなぁ‥‥と、なんだか励まされる思い!私も何か計画したくなりました。