毎朝、目が覚めると憂鬱だった。
目なんて覚さなければいいのに
朝、目が覚めずにそのまま死ねたらいいのにと思っていた。
学校へ行けば話せる友達はいた。
スクールカーストでいう3軍のグループ。
しかし友達にも恥ずかしくて悩みは話せなかった。
テレビをつければアナウンサーが喋るのを見て、どうして緊張せずに上手に喋れるのだろうと不思議で仕方がなかった。
クラスじゅう見渡しても私のように人前で異常に緊張する生徒はいなかった。
自分は欠陥人間だと思った。
高校や大学へ行っても、社会に出ても、人前で発表することは避けられない。
こんなことではこの先、生きていけない。
もう死んだ方がいいと思った。
『命の電話』というものがあることを知った。
死ぬ前にかけてみようと思った。
家の電話からかけたら逆探知されて身元がバレるかも知れない、それに電話中に毒子が突然帰って来たら困ると思ったので、自転車で電話ボックスへ行った。
命の電話にかけると、すぐに人が出た。
すがるように電話したのに、私は途端に頭が真っ白になった。
なんと言えばいいのか。
『人前で緊張するから死にたいです』と言ったら、相手は何と答えるだろう。
言葉が何も出なかった。
電話の向こうでは「もしもし、もしもし」と、優しそうな声がする。
(何か言わないといけない)
そう思えば思うほど焦って、何も話せなかった。
そのまま何分くらい経っただろう。
電話の向こうで相手が何か話してくれるのをじっと待ってくれているのを感じた。
(きっと私の気持ちなんて分かってもらえない。電話なんかしたって無駄だ)
結局一言も声を発することなく、無言のまま電話を切った。
ますます自己嫌悪に陥った。
最悪だ。私は人に迷惑をかけるだけの人間だ。
しかし、そんなことがあった後も家に戻ると何事もなかったように平静を装った。
学校の図書館である本を見つけた。
『苦しいからもう少し生きてみよう』
中身を読むことはしなかった。
タイトルだけで充分だった。
自分と同じような想いをしながら生きている人がいる
そう思うだけで救われた。
死にたいと思うたびにその本のタイトルを思い出した。
『苦しいからもう少し生きてみよう』
心の中で呪文のように唱えた。
そうして私は生き延びた。