中東の政治の激変が米中関係に意外な影響を及ぼしている。
しかし、中国の態度は対照的だった。中国政府は中東での民主化の動きに関する国内での報道を大幅に規制した。国内で民主化運動もどきの集会や討論を開くことも改めて厳しく禁じた。さらに中国政府は、インターネット上で、中東の騒動と関連させて民主主義や自由、人権などについて議論することも厳重に抑圧するようになった。
改めて浮き彫りになった中国の異質性
保守派のラジオ政治トークショーの論客として知られるラッシュ・リムボウ氏は、オバマ大統領のムバラク大統領への辞任要求について、再三、批判的な論評を述べてきた。ちなみにリムボウ氏がラジオで行っている政治評論は、毎週平均数千万人という全米第一の聴取者数を誇る。
リムボウ氏は聴取者に次のように訴えかける。
中東の政変のキーワードが「民主主義」であることは間違いない。「民主主義」という規範が提起されれば、「では民主主義を抑圧する一党独裁の中国はどうなのか」という疑問が連想されるのは当然だろう、というわけだ。
現実問題として、核兵器保有の軍事大国であり、経済、金融の最大の取引相手の経済大国である中国に向かって、米国がその国家元首に辞任を求められるはずはない。この論評には、もちろん事態を単純化した政治トークの要因も含まれてはいる。
だが、こうした見方はリムボウ氏だけにとどまらない。米国では、中国当局の中東情勢への反応を見て、中国という国家の異質性を改めて認識し、米国の対中政策もそれに合わせて、もっと厳しく現実的に進めるべきだ、と警告する声がより広範に出てきた。
大手研究機関のヘリテージ財団の中国専門家、ディーン・チェン氏は、次のような趣旨の見解を2月25日に発表した。
「中東で民主化を求める各国の動きを見て、中国当局も自国をいくらかは民主的にすべきだと思うだろう、などというのは、まったく楽観的な見方にすぎない。
中国共産党指導部が中東での激変から学ぶことといえば、自らの権力を保つために国内の規制をさらに厳重にすることだろう」
チェン氏は、中国は中東の民主化の動きを強く警戒し、反発し、自国の非民主的な体制をさらに強化するだろう、というのである。
「中国の『激変』の日に備えよ」
中国のこうした態度は、米国の対中認識を変えることともなる。
2月23日、その点を短刀直入に指摘した小論文が発表された。筆者は、ワシントンのもう1つの大手研究機関AEIの中国専門のダン・ブルーメンソール研究員だ。ブッシュ政権で国防総省の中国部長を務めた人物である。
ブルーメンソール氏は小論文でこう記す。
「中東情勢に対して中国が示した態度は、中国が国際的な指導力を持ち得ないことを証明した。
中国当局は中東激変という大騒乱に対して、国際的なリーダーシップを発揮して現地の情勢安定などに寄与するどころか、ひたすら民主化の拡大の自国への余波を恐れて、国内での情報統制やデモ抑圧に走り、肝心の中東激変については沈黙を保ったままである。中国指導部は黙ったまま万里の長城の陰に隠れてしまったのだ。
これで、米国と中国が世界の主要課題に共同で取り組む『G2論』などというのは、撤回されるべきものであることが立証された」
この小論文は、「中東の異変は、中国について私たちに何を告げるか」と題されていた。中東情勢に反応する中国の様子を見て、米国の中国観を修正すべきだというのである。
ブルーメンソール氏は結論として次の2点を挙げていた。