50のひとり言~「りぷる」から~

言葉の刺激が欲しい方へ。亡き父が書きためた「りぷる」(さざ波)を中心に公開します。きっと日常とは違った世界へ。

理恵はふとからかってみたくて・・・

2015-05-26 21:24:24 | 小説
理恵はふとからかってみたくて言っている。
「私はじゃどうなればいい?・・・・・・あなたを誘った罪滅ぼしに。キリギリスにそれとも蟻に?」おかしな旅の二人と見られることだろう。
「さすがですね、なまなようですが、元ジャーナリストのタレントさん」
と敏彦は声を落として言って、
「おしのびですから、そのどちらにふれてもまずいでしょうね」

(つづく)

まずいことにつながりかねませんから・・・

2015-05-25 21:07:32 | 小説
まずいことにつながりかねませんからと言う敏彦。うなづく理恵は、あの世界を忘れているわけではないがアシスタントで、コメディアンで、その上恋人という敏彦、おしのびとか言われかけてきたマスクが素直に訊かせてくれている。見ると窓に、サングラスにつけ髭の顔が岬の緑の中で愉快に浮かんでいた。

(つづく)

と気にしないでは・・・

2015-05-24 20:20:34 | 小説
と気にしないではいられない。敏彦、許してと呟きをマスクの中にくぐもらせる。おしのびだからと、彼は射かえすような目で、
「タレントとしてはまずいのではないですか。つまり感情的にながめるとなると」

(つづく)

彼女のマスクの震えが・・・

2015-05-23 20:10:46 | 小説
彼女のマスクの震えが口唇に感じられていた後で、確かに隣の席には届かなかった呟き通りの、窓に弾む年下の声が耳を犯してきた。理恵の風景はドキュメンタリータッチにながめられたが、彼女自身は目もテレビカメラに換えられたがる。その調子めく風に彼女は言っている。
「私のふるさとよ。お久しぶりね、ふるさとさん、と言いたい気分かな・・・・・・」
演技まじりの声で言えていた。理恵は大きなマスクが照れかくしに役立っていた。けれども彼にふり向いた眉が美しく開かれていた?

(つづく)

【新連載】 おしのび

2015-05-22 20:51:30 | 小説
おしのび

最後のトンネルで肌身になつかしい匂いがからみついてきた。電車は短いトンネルを抜け出ると故郷を開いて見せている。期待通り快い心持ちに犯され、中山理恵はその窓にやはり裏切られていなかった。つまりその湾の海原や河口のさ緑を敷くつつみ、桜をともす岬へと目をこらし、理恵がいる。まっ白く大きいマスクを車窓の海に浮かべているが、その瞬間絵のようにながめなおしている。
「ぼくの目には絵のようです」
そう敏彦ならきっと言うだろう・・・・・・

(つづく)