50のひとり言~「りぷる」から~

言葉の刺激が欲しい方へ。亡き父が書きためた「りぷる」(さざ波)を中心に公開します。きっと日常とは違った世界へ。

【新連載】 おしのび

2015-05-22 20:51:30 | 小説
おしのび

最後のトンネルで肌身になつかしい匂いがからみついてきた。電車は短いトンネルを抜け出ると故郷を開いて見せている。期待通り快い心持ちに犯され、中山理恵はその窓にやはり裏切られていなかった。つまりその湾の海原や河口のさ緑を敷くつつみ、桜をともす岬へと目をこらし、理恵がいる。まっ白く大きいマスクを車窓の海に浮かべているが、その瞬間絵のようにながめなおしている。
「ぼくの目には絵のようです」
そう敏彦ならきっと言うだろう・・・・・・

(つづく)