50のひとり言~「りぷる」から~

言葉の刺激が欲しい方へ。亡き父が書きためた「りぷる」(さざ波)を中心に公開します。きっと日常とは違った世界へ。

「岬ホテル」

2015-06-30 19:44:00 | 小説
「岬ホテル」
と幸男は運転手に指した。先程は理恵の演技とは知らない、かえって幸男の緊張が、宇礼市におしのびと言って訪れた理恵の真相、普通の女として帰郷してみたかったというそれを知ってほぐされたもので、
「やれやれ一安心だ。ほんとうにお独りなのでしたから緊張しましたよ。あなたらしいけれども」

(つづく)

「どうも相すみません」

2015-06-29 21:06:13 | 小説
「どうも相すみません」
幸男が敏彦におどおど声で言っている。ふり向く人、遠巻きにながめる人がいて、理恵は口を開けたタクシーめがけて走りこむ外なかったものだった。
「見ものだった」
敏彦はぽつりとそう呟いた。

(つづく)

幸男が偶然とかけつけ、・・・

2015-06-28 21:50:49 | 小説
幸男が偶然とかけつけ、片端から拾い集めてくれているが、
「これ、口紅落ちましたよ」
と敏彦の声を聞くのだった。理恵は尾行者の意味を確かめて後、見も知らない男に対する礼の一言を喉に詰めてしまった。

(つづく)

理恵はいら立ちまぎれにふっと、・・・

2015-06-27 20:23:57 | 小説
理恵はいら立ちまぎれにふっと、自尊心の有無の不平等さみたいなことまで思われる。
「あっ」
紙袋を落として、路上にぶちまけてみている理恵。化粧品とその他、普通の女の持ちものばかりを知っていて、敏彦の方に向けた演技だった。

(つづく)

敏彦が気になる、だから理恵は・・・

2015-06-26 20:06:33 | 小説
敏彦が気になる、だから理恵は派手に大股になり、足を高くあげて、幸男を追いかけていった。暖かい陽射しを受け、マスクがむれる。一層マスクを外して、驚かせてやりたい。
「どうぞ」
と幸男がドアマンのようなふりで言っていた。

(つづく)