50のひとり言~「りぷる」から~

言葉の刺激が欲しい方へ。亡き父が書きためた「りぷる」(さざ波)を中心に公開します。きっと日常とは違った世界へ。

啓は今日偶然和子を知った。

2016-04-29 07:03:13 | 小説
啓は今日偶然和子を知った。ジーンズをそっと赤いコートに寄り添わせる外ないが、和子の方は以前からスケーティング・リンクで熱い目を注いでいたが、それは啓の知らないことだった。和子に合わせた年上らしい調子だった。「乗れたのは楽しい曲やからやねん」大阪弁には親しみがこもっていた。和子の視線を追ってみるとイチョウの葉が、浮き雲に黄色い歌を聴かせている。風も止んできた。で和子は啓の脇腹深く抱きついたままで、大きくうなづいている。気ぜわしく通る歩行者の列を気にかける理由もなく、気にすることもないようだった。啓はジーンズの胸に股に、太陽が風の止んだ歩道にあたためにきていて、熱のこもる息を覚えた。

(「南幻想曲」つづく)

楽しい時には大阪弁がふさわしいし、・・・

2016-04-23 13:40:11 | 小説
楽しい時には大阪弁がふさわしいし、今御堂筋は二人にこそふさわしいだろう。寂しさを拒むからだ。よく人も街も寂しさを表現するとか、それは嘘に相違なかった。
二人の間には難しい話はまだない。そうして、あの曲はこの御堂筋をシンボライズとか思ったが口にしなかった。リアリストの街がとも。それにしても和子の急な接近が嬉しい。

(「南幻想曲」つづく)

「あの曲に乗って滑れるやなんか思わんかったわ」

2016-04-19 21:39:39 | 小説
「あの曲に乗って滑れるやなんか思わんかったわ」
脇腹に抱きつくフィニッシュを決め、イチョウのこずえにその視点を保ち続けている。啓は盗みみたつぶらな瞳のかわいい和子の丸い顔に、愛情を疚しさに似て抱いた。啓の視線は車道際にとぼとぼと歩く一羽の鳩に向かって、「あああの曲。〈ふしぎの森のイメージ〉乗って滑るのは、ぼくかて至難の技やねん」

(「南幻想曲」つづく)

啓はジーンズの歩幅を縮めた。

2016-04-13 19:43:42 | 小説
啓はジーンズの歩幅を縮めた。和子に目を自然に止めたが、ウインドウの前で半回転したのは歩道に小さな日だまりをみつけてきていたからで、和子がスケーティング・リンクのペアの時よりは器用に腕をからませてきた。すごく楽しそうだった。

(「南幻想曲」つづく)

乾啓は和子の声がふわり・・・

2016-04-09 07:04:55 | 小説
乾啓は和子の声がふわりイチョウのこずえに止まった風に思われて、大丸のウインドウ沿いに平日の気ぜわしい歩行者をやりすごす。
「私の御堂筋、昔父と手をつなぎ合って通ったころから、好っきゃねんよ」

(「南幻想曲」つづく)