50のひとり言~「りぷる」から~

言葉の刺激が欲しい方へ。亡き父が書きためた「りぷる」(さざ波)を中心に公開します。きっと日常とは違った世界へ。

「彼女と、ぼくを結婚・・・

2015-02-28 22:23:51 | 小説
「彼女と、ぼくを結婚させてください」
と口火をきる若者がいて、当然予想されたはずの声だったろう。天井のシャンデリアにクモの目が免れている。彼の若気の至りとも思った。
「声が大きい」次第に大胆な若者が恐ろしい。
「すみません」
「劇場の雰囲気にあわせてもらいたい、しかしまあ、姪の相手じゃ相応かも知れないけれど」
とクモは余裕のあるところを一応示した。本当は彼はお門違いをしている。彼女は妻の姪なんだから。彼女の恋に協力すれば・・・・・・。

(つづく)

「意外とおちつけますね・・・

2015-02-27 19:19:18 | 小説
「意外とおちつけますね。劇場のロビー」
クモの機嫌に応じる若者は、背広の胸を広げ、寛ぐ風に装っていた。情の味が加わって。
「愛と性の感動ドラマ。そして死をかける逃避行ですね。ぼくは彼女とそこまではやれないでしょう、多分」
クモには苦笑が抵抗線だ。もうこれ以上に胸襟を開くわけにはいかないだろう。姪のかかわることだからといって。好きな演目を犠牲にするのが精いっぱいの人情だろう。
「君の話をうかがおうか」
とそういった時、ふと胸にざらつくものがクモには感じられた。抵抗線に手を引く感じを感じ、その一線を隔てた頭の中。何かしら彼に煽られてようよう、諦めがついた心地だ。

(つづく)

「さすが彼女の・・・

2015-02-26 20:37:49 | 小説
「さすが彼女のおじさま。訊いていただけますか。パパがいっていたおじさまです」
根はいい人間だと表情にうかべる若者の、努力にはクモはうなづく外なかった。何だか徳兵衛。とまではいわないが・・・・・・。クモはいわば、徳兵衛と初の悲恋に見せられた人情の、世にいう好人物の風貌がさらけだされてしまっている。生地がでてきたかなどと思って、苦笑しなければならなかった。気分は悪くない。

(つづく)

今日のクモはつい情に・・・

2015-02-25 19:38:30 | 小説
今日のクモはつい情に掉さしながらいるものだった。つまりクモは日常の裏側が、若者を相手にじわじわ炙りだされていた。その自分を自分の脳裏で窺い見る心地で、
「曽根崎心中を、一緒に観ようと」
「ええ、でも」
「話をしたいわけでしょう。顔に書いてある」
「ロビーも幸い暇です」
「君も相当強引な男だな。まあ、姪とそのことでもある。洗いざらい話してみなさい」

(つづく)

「正直いってぼく・・・

2015-02-24 20:56:56 | 小説
「正直いってぼく、彼女だって、ミュージカルなら・・・・・・恋愛感の違いとでもいいますか」
「当然」
「そうそうなんですよ。おじさま」
「当然、人生観が違う」
「はい。今日はそれで、いつかは彼女のことでおじさまを訪ねなくちゃいけない、そう考えていても立ってもいられないで・・・・・・少しでも理解しよう、それで今日はここにやってきました」
といけしゃあしゃあと出会いの偶然をいう若者だった。

(つづく)