50のひとり言~「りぷる」から~

言葉の刺激が欲しい方へ。亡き父が書きためた「りぷる」(さざ波)を中心に公開します。きっと日常とは違った世界へ。

妙子が凝り固まって行く・・・

2014-12-14 20:29:03 | 小説
妙子が凝り固まって行く信仰とは違い、雄吉はある方面の趣味に向く生活を大切にしたい。日々、言葉が通行不可能になる予想に、雄吉の肩の力が抜けた。老うごとに沈黙して行くのだなとつくづく思うのである。
「今から追いかけていきなさいよ。私はすっきりしていいくらいですわ。その方が安心していられます」
「英次は迷惑がってもかね」
「ほらまたあなたは理屈っぽく絡み出すわ。理屈は嫌いといったのに、私は。すぐ自由だとか、そちらに向くんでしょうが。うんざりです。黙っていられる年になることといってらっしゃいましたわよ」
雄吉が、それは誰がいったと問う必要を認めないうちに、「あのお方が申されるには、遠慮を失う年令は老いの入口なんですって。英次はあれで遠慮があるけど、それも年に関係していると思う。あなたの場合もあてはまるは。老いの入口から老いの中に既にいるのね・・・」
理屈っぽいのはどちらだろうと雄吉は思うと、腹立たしくはあるが、妙子の文句に思い当たる節がないではないのだ。ふいに隣家の犬のプードルの癲癇気味に吠える声が出窓から、微風に乗って入った。夫婦の間に割って入るその声を機に、雄吉を妙子は離れていた。卓上の汚れを妙子が布巾で拭き始めた時に、プードルの声がぴたりと止んだ。
「何かの因縁だろう。英次と自分との違いを、遠慮の違いに結びつけるのはいささか見当違いだろう。親子の間だし、自分は厚かましく生きてきたものなら、話は別だがね」

(つづく)