50のひとり言~「りぷる」から~

言葉の刺激が欲しい方へ。亡き父が書きためた「りぷる」(さざ波)を中心に公開します。きっと日常とは違った世界へ。

ほっと息を吐いて・・・

2014-12-12 20:18:17 | 小説
ほっと息を吐いてしまう。英次を外に、妙子自身を取り戻すように、ふと説教を唱えているのだ。妙子には信仰がまるで今朝、鬼は外、福は内でもいうかのごとくになった。胸の痛みをお祓いに似る信仰で抑えることは、習慣になりつつあった。妙子にすれば英次を冷ややかに突き放すほど、本当は後悔の念に襲われそうでその分信仰心に頼らねばならないのである。かといって自身は惨めな生活を選びたくなくて、選ばずにすんでいる・・・と信じた。
英次のことで、長男夫婦が子供たちへの悪影響をきづかって出たのは、妙子にとっても肩に砂袋を背負ったようだった。が当時はその反面、母性愛を刺激する気がしていて一所懸命に、英次に尽くしていたが、年月が重なるに従い心がささくれ立った。別人になった英次と同居中に、妙子は別人のようにならねば互いの釣りあいが成り立たなかったであろう。雀の巣にツバメが住むなどは不可能だろう。だからツバメに近づくための信仰なのと妙子は、少なくとも昨年まではそう思い込んでいた。けれども今朝は容易に、説教を唱えた後にはツバメはツバメ、英次を渡り鳥か何かのように放任したのと思うことでケリつけていられた。ダイニング・キッチンに住む夫は夫で、今じゃ妙子がカカア天下も同然に違いなくて、
「お隣の奥さん粽の臭いが届いたかしら。嫌みをいっているわよ、きっと。英次に昨日も、お菓子を与えて楽しがっていたわ」
と妙子の欲求不満のはけくちは常に隣家の方に開くのだ。休日を孫児と打ち揃って寛ぐ、隣家の奥さんが癪のためだった。

(つづく)