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【実録】会計事務所(公認会計士・税理士)の経理・税金・経営相談

大阪市北区の築山公認会計士事務所(築山哲税理士事務所)です。
身近な疑問の解説と役立つ情報の提供をさせていただきます。

会計期間という考え

2019-07-23 19:00:00 | 決算書・試算表
決算は一定の期間で行います。これを会計期間といいますが、会計期間は事業年度に一致します。事業年度ごとに業績を、事業年度末の資産や負債(差引きとしての純資産も)を把握するのは当然のように思いますが、このように会計期間を設けるということがこの作業のあらゆる局面に多大な影響を及ぼしています。

◆収益の未収と費用の未払

入出金を待って収益と費用を計上すると、特定の会計期間に偏って収益と費用が計上されてしまいます。企業は各会計期間にわたって活動しているわけですから、収益と費用は発生した各会計期間に計上しなければなりません。収益は入金がまだでも、費用は出金がまだでも発生した会計期間に計上するということです。

◆収益と費用の各会計期間への配分

入金が済んでいても数会計期間に配分しなければならない収益、出金は済んでいても数会計期間に配分しなければならない費用があります。前者の例は貸付金の利息や不動産の賃料を数会計期間分まとめて先に受け取った場合、後者は数会計期間にわたって使用する建物や機械などの購入代金(減価償却)です。

◆仮説や見積による処理

会計期間に区切ることから「収益の未収と費用の未払」「収益と費用の各会計期間への配分」をしなければなりませんが、この作業をするにあたっては仮説を設けたり見積もりをしたりしなければなりません。入出金という絶対的な基準がないからです。

◆過去の仮説や見積の修正

仮説や見積もりは予測を伴いますので外れることがあります。ですから、結果としてこれを修正しなければならないことがあるのです。

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★継続企業の公準(前提)

会計の書物ではこのようなことが説明されています。企業は解散を前提とするのではなく(一定の期限が来れば清算し残った財産を出資者に分配するのではなく)、「永遠に存続し成長する」ことを目指して経営されており、それを前提に会計処理を行うということです。継続するので「会計期間を設ける(一定期間ごとに決算をする)」、費用や収益を「発生した年度に計上」するのです。

このことを知ると、利益計算が単なる入出金の差額ではないこと、貸借対照表に多種多様な項目が計上されることに納得できます。

★会計期間があるから様々なルールが必要になる

企業の活動期間が定まっている(しかもその期間は短い)のであれば会計のルールは単純です。極端な場合、出資された資金が活動期間中にどれだか増えたかの計算だけでかまいません(期間終了時の資金-出資された資金)。

しかし、企業の活動が永遠に続くのであればそうはいきません。「あの成果はいくらか(いくら入金があるのか)?」「あの投資の効果は(収益とのつながりは)?」など、一定の間隔で様々な報告を求められます。会計のルールの大部分は会計期間を設けるから存在しているといっても過言ではありません。

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記帳の対象

2019-07-20 10:30:00 | 決算書・試算表
勤務先、それも比較的規模の大きい会社の経理業務を任された場合には、何が記帳の対象で、それらをどのようにして帳簿に記録していくかが明確です。しかし、自ら会社を設立した場合にはこの点が明らかではありません。

◆記帳のスタートは出資金を記録すること

記帳のスタートは設立に際して出資した資金を記録することです。出資が100として仕訳は次のとおりです。

≪借方≫預金100≪貸方≫資本金100

この預金100が、会社が使える資金です。会社はこの資金で販売する商品を仕入れ、事務所や倉庫を借り、人を雇うのです。この資金の動きを記帳しなければなりません。

◆経営者の立場(会社から給料をもらう)

経営者(代表取締役)は会社から給料(役員報酬)をもらいます。会社から経営者への支払いはこれのみです。もし、これ以外の支払いが経営者に対してなされた場合には、それは給料ではなく貸付金です。貸付金ですので、経営者はそれを返金しなければなりません。当然、利息も支払う必要があります。

◆株主の立場(会社から配当をもらう)

株主は出資の対価として配当金をもらいます。会社から株主への支払いはこれのみです。株主は配当以外の支払いを要求することはできません。

◆中小企業における経営者と株主の特殊性(会社に対する影響力が大きい)

会社の資金は、「株主からの出資」「製品・商品などへの投下」「販売代金として回収」「回収した資金の再投下」というサイクルを繰り返します。規模の大きい上場企業では、このサイクルを記録する帳簿に経営者や株主が登場することはほとんどありません。しかし、「大株主=経営者」である中小企業では、株主や経営者が頻繁に帳簿に登場します。

◆経営者からの臨時の資金調達

中小企業の場合には、会社が資金に窮した際には経営者が自らの資金を貸付金(会社からすれば借入金)として提供しなければなりません。そして、資金に余裕が生じた際に経営者に返済します。これは中小企業の宿命です。中小企業では、株主からの追加出資(増資)や取引銀行からの全面的なバックアップは望めないからです。

◆経営者との不動産などの賃貸借

「会社所有の不動産を経営者に自宅として貸す」「経営者所有の不動産を会社に事務所や倉庫として貸す」、このような賃貸借取引が経営者の「会社に対する支配力」が強い中小企業では生じます。

◆簿外の取引

「経営者からの臨時の資金調達」「経営者との不動産などの賃貸借」はいずれも会社の資金が動きますので記帳漏れになることはありません。しかし、会社の資金の動きには表れない取引があった場合、その取引は帳簿には表れない、いわゆる「簿外の取引」となってしまいます。その典型は、経営者のポケットマネーによる会社の費用の支払いです(交際費や交通費で発生することが多いです)。

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★企業実体の公準

会計の書物では必ず「公準」について説明されています。公準とは「会計の前提」のことで、「企業実体」「継続企業」「貨幣的測定(評価)」の3つです。企業実体の公準は、会計の対象は企業(会社)であり、企業(会社)の資金の動きを記録して決算を行うということです。

会計の書物では、企業実体の公準についていとも簡単に説明していますが、中小企業では「実体を把握」することがそう簡単ではありません。

★決算書は会社の立場で作成する

企業実体に関して、決算書は誰の立場で作成するのかということも理解・認識しておく必要があります。決算書は「会社の立場」で作成します。

「会社から経営者に給料を支払う」「会社から株主へ配当を支払う」「会社が株主から出資を受ける」「会社が経営者から資金を借りる」、このようにして経理処理をします。

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無申告からの脱出!(決着は税務調査で)

2019-07-17 15:00:00 | 決算書・試算表
【お断り】下記の説明は会社(法人)を前提にしています。

「実は、決算も申告もしていません。帳簿らしい帳簿もありません。通帳はあると思いますが、領収書はもらっていないことや失くしていることがあります。」

実は、会計事務所に依頼に来る会社の一定割合が無申告状態です。悪質な無申告(たとえば、無申告の休眠会社に利益を付け替えている)は別として、「会社設立直後の無知」「業績不振時の混乱」などの場合は無下に断るわけにもいきませんので、それなりの対応をしています。

「もう少し様子を見てみます。税務署も何もいってきませんので」
「たぶん、利益も出ていないので」
「もう少し領収書を探してから」
「知り合いの会社も申告していない」
「(会計事務所の)報酬が高いので」

無申告になっている会社の経営者は、「煮え切らない」「のらりくらり」というタイプの人が多いです。

◆会社は赤字でも申告が必要

法人税の申告は赤字でもしなければなりません。赤字の申告もその年度前後の黒字の申告と関連してきます。赤字だからといって申告をしなければ、前後の黒字の年度の申告数値が不正確になり結果として余分な税金を払ってしまうこともあります。

◆完璧な申告などできない

「納得ができる正確な申告ができないので」といって申告をしない会社経営者がいます。完璧な申告など、まずはできません。申告というのは、「期限までに」「最善を尽くして」するものなのです。

◆決着は税務調査でつけるという覚悟も必要

税務申告には税務調査がつきものです。これは期限内であっても期限後であっても同じです。税務調査が終了するまでは一抹の不安があるのが当たり前なのです。

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★簡易な方法で記帳と決算をして申告する(申告しないよりかはマシ!)

申告の基となる帳簿と決算数値の一部に不正確な部分があっても申告はしなければなりません。その不正確な部分の処理の正否は税務調査が終わってみなければわかりません。

無申告が数期間に及ぶ場合には、正確な決算をすることが不可能な場合がありますので「簡易」な方法で記帳と決算をして切り抜けるしかありません。そのほうが申告しないよりかははるかに「マシ」です。

やはり、会計事務所に依頼すべきですが、このあたりの対応は会計事務所によって相当異なります。「無申告など言語道断なので相手にしない」から「絵を描くように・・・」といった具合です。

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【融資の申込み】試算表ができていない

2019-07-11 10:30:00 | 決算書・試算表
「金融機関に融資を申し込むので試算表を提出しなければならない。しかし、試算表ができていない。」

◆試算表がまったくできていない!

資金繰りに窮して緊急で融資を申し込むときに限って「試算表がまったくできていない!」ということがあります。しかも、試算表を作っているようでは到底間に合わないという状況です。

〇一部の勘定科目は概算値で作成する

「売上」「仕入」はすでに集計済みだと思います。「給料」「家賃」「支払利息」などは直ちに集計できます。「預金」「売掛金」「買掛金」「借入金」も簡単に残高は出せます。これで試算表の主要部分は完成です。

上記の勘定科目以外は、一から仕訳を入力するのではなく概算で計算し、それを会計ソフトに入力します。

〇月額を一括して会計ソフトに入力する

「売掛金/売上」「仕入/買掛金」「預金/売掛金」「買掛金/預金」「交際費/現金」といった具合に月額を会計ソフトに入力していけば瞬く間に損益計算書は完成します。貸借対照表については貸借対照表科目間で調整します(これは職人の技です!)。

〇月次推移や前期比較で異常点がないことを確かめる

概算値を合理的に計算したつもりでも勘違いやミスをしていることがあります。それを発見するには、会計ソフトで月次推移や前期比較の諸数値を検討してみることです。「こんなはずはない!」という数値は修正しなければなりません。

◆試算表では赤字になる

試算表(年度途中の経過)といえども金融機関に赤字の報告はしたくないというのが経営者の心情です。

試算表では赤字になるけれども、年度では黒字化することはあります。「事業の性質上費用が先行する」「費用が特定月に偏って発生している」などがその原因です。このような場合は、所定の調整をして試算表を作成することもできます。

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★この方法は税務申告には使えない(1回限りの方法です)

この方法は、金融機関に対して年度途中の「概略」を説明するためだけの方法です。年度末の税務申告にはこの数値を使うことはできませんので、会計ソフトのデータ(ファイル)も別途作成して税務申告用のデータとは区別しておかなければなりません。(これは決して事実を仮装隠蔽するための二重帳簿という意味ではありません。)

この方法は経理を本職とする者(会計事務所や経理担当者)にとっては使いたくない方法ですので、やむを得ない場合の「1回限り」「使い捨て」の方法であることを十分理解してください。このやり方を多発すると経理も会社も破綻します。

★融資は決算終了直後に申し込む(そうすれば試算表は不要)

融資の申込みで試算表が必要となるのは、事業年度終了から相当期間(おおむね半年)を経過して、決算書作成時点とは状況が変化し、決算書では実態が把握できない場合です。試算表を提出しなくて済ませるには決算終了後直ちに融資の申し込みをしておくことです。

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税務署用と銀行用

2019-07-09 15:00:00 | 決算書・試算表
「銀行に提出する決算書を作ってほしいんですよ。私は、税金をごまかすつもりはありません。実際、今まで税務調査でも大した問題は指摘されませんでした。問題は銀行からの融資なんです。決算書が原因で融資を断わられることが多くて困っています。今の税理士さんにこのあたりの相談をしても適切な対応をしてくれません。引き続き今の税理士さんには税務署との対応はお願いするとして、銀行用の決算書を作ってくれる人を探しているんです。公認会計士さんならできるんでしょ!?」

このような絶句してしまう相談をしてくる人がいます。本当はそのまま無言で立ち去りたいですが、それもできませんので根気よく説明をします。

◆儲かっている会社は決算書がどうであれ金融機関が群がってくる

節税対策が必要なほど儲かっている会社であれば、「勘定科目は間違いだらけで訳が分からない」「節税対策をしたことから一時的に赤字になっている」といった状態であっても金融機関は喜んで融資をします。金融機関にはわかるのです。決算書が不正確・不明瞭であっても大勢に影響はないのです。

節税対策が必要な会社は税務署のことだけを考えて決算書を作成すればよいのです。税務署は勘定科目の名称や配列には無頓着で、「仮払金と立替金」「未払金と未払費用」「短期借入金と長期借入金」「営業利益と経常利益」といったことには寛大です。これらは税額には影響しないからです。

◆ボーダーライン近辺の会社が金融機関に提出する決算書は正確かつ明瞭でなければならない

金融機関は、融資できるか否かのボーダーライン近辺の会社については決算書を慎重に検討します。融資をして不良債権化することを恐れるからです。「不可解な勘定科目」「流動と固定の区分」「営業利益と経常利益の関係」「年度や月次での比較」など、疑問点が解決できるまでとことん検討します。不正確に不明瞭は許されません。

◆税務署用と銀行用の2種類の決算書が存在するのではない

税務署用の決算書に対して銀行用の決算書が存在するのではありません。税務署に決算書を提出する段階から、金融機関を意識して決算書を作成しておかなければなりません。税務署は決算書の体裁(様式、勘定科目)には寛大ですが、金融機関は厳格ですので、税務署の緩い基準で決算書を作成していてはいけないのです。

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★いったんは融資をあきらめてリストラをする

「融資さえ受けられたら逆転できる!」「決算書をもう少し工夫して書けば」「そうすればみんなに恩返しもできる」というお気持ちはわかります。しかし、金融機関が融資をしてくれないのは「資金繰りが悪い」「利益率が低い」「売上が減り続けている」といった根本的問題を抱えているからです。このことは決算書以外からも判断できるのです。

経理担当者や会計事務所を替えても結果は同じです。むしろ、経理体制が変わることによる混乱と疲弊という損失が生じます。

リストラをしてください。早ければ半年もすれば成果は現れます。次回の決算書にリストラの成果が表れていれば融資を受けることも可能です。

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