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詩と物語を紡ぎます

七夕 ――織姫愛歌

2022-07-07 18:15:00 | uta
 ――織姫愛歌
   全六首

ゆあみして
ゆかたあてやか
うすけしよう
いさこきいてん
あなたかもとへ

 湯浴みして浴衣艶やか薄化粧
 いざ漕ぎ出ん彦星《あなた》がもとへ


かわらさる
すかしきゑかお
なつかしく
ないてしまいし
あまのかわはん

 変わらざる清しき笑顔懐かしく
 泣いてしまいし天の河畔


ひみなりと
わかてりようりを
たいらげて
われおりいとしと
なくひこいとしや

 美味なりと我が手料理を平らげて
 我織姫愛しと泣く彦星愛しや


ひこやひこ
おりのわかまま
きいてたも
あさまてねすに
おりめててたも

  彦星や彦星織姫の我儘聞いて給
  朝まで寝ずに織姫愛でて給


ひこかほか
たれにもゆるさし
このはたに
ひこよなんしか
らくいんをおせ

  彦星が他誰にも許さじこの肌に
  彦星よ汝が烙印を押せ


きぬきぬは
いまもむかしも
さみしかり
ひこほしおりひめ
やまぬくちづけ

  後朝は今も昔も寂しかり
  彦星織姫止まぬ口付け



written:2022/07/07


雨音

2022-07-04 19:20:00 | poem



ⅰ. あまね


夜が明けて間もない【空】では
点在していた青が急速に消えて
音も無いまま【雨】がぱらつき
それは確実に月曜日の朝を湿し
駅にゆく人が増えた舗道を湿し
あろうことかわたしまでも湿し
何と駅前ベンチを本降りに浸し
雨音の響きは【あまねのうた】
水の匂いの【ハミング】だとか
滴の弾ける【スキャット】など
音色に包み抱かれ束の間微睡み
石榴か木通のように夢を喰んだ


written:2017/10/25
     【再掲載】



Ⅱ.あまね 短歌三首

めをとじて
ねむりがふちに
たたずめば
あまねのうたの
きこえこすかな


眼を閉じて眠りが淵に佇めば
あまねのうたの聞こえ越すかな




あめかほり
きりさめこさめ
ふりはじめ
あまねのゑみて
かけゆくすがた


雨香り霧雨小雨振り始め
あまねの笑みて掛け行く姿




ものかげに
かくれひつそり
うたいをる
はじらひおとめ
あめふりあまね


物陰に隠れひっそり謳ひをる
恥じらひ乙女雨降り雨音


written 2022/07/04






梅雨明け

2022-06-27 16:00:00 | daily tsukasa

梅雨明け


yukari:つかささん!
tsukasa:ゆかりちゃん!
yukari:まくつが、たいへんなことに、なっています!
,

tsukasa:なんですとっ?、31.3℃?

tsukasa:ゆかりちゃん!
yukari:つかささん!
tsukasa:天気がたいへんなことに! 六月なのに関東・甲信が梅雨明けしたと見られるそうです。

yukari:をを、わたくしの、かみさま、ですよ!

owl:あの、つかささん、熱中症対策にはどうしたって、エアコンは欠かせないかと思うんですがね、その一方で節電対策云々と、、、
tsukasa:矛盾してますね。
yukari:どーします?
tsukasa:我々がニンゲンの問題に口を出す義理はありませんよ。
owl:お、クールですね。
yukari:そもそもしょくりょーとか、えねるぎーとか、くそプーチンとマトモにしょーばいした、ことが、うましかだったってことですね。
tsukasa:そう、風の谷ですよ。
owl:♫風の谷のー♬ウマーシカー♫
yukari:……あれ? みなみのそらを、なにか、とんでいる。
tsukasa:なんと、なつかしい!しらけどり、ですよ。
owl:あちゃー、しらけましたよ。
yukari:ニンゲンなんて、ラララーららららら
owl:我々の力では、涼しくはならないってことがよくわかりましたね。
tsukasa:それにしても、しらけどり、よく飛んで来たなぁ、、、

薔薇の名前

2022-06-22 19:00:00 | poem
薔薇の名前


 彼ご自慢の庭に
 歩を進めた時
 軽い目眩を憶えた

 久しぶりに日光と
 まともに衝突したからに
 違いない

 立ち竦んていると
 彼は察したのか
 口の端に笑みをたたえ

 五月の日光量は
 盛夏のそれに等しいのです
 お気を付けて

 と言った


 充分に広い
 だが手入れのよく行き届いた庭は
 『溢れて零れる薔薇の楽園』
 と呼ばれているだけのことはある

 薔薇に興味が深いのか
 と問われたら
 正直わたしには
 殆ど――否
 全く興味はなかった

 ただ薔薇に一生涯を
 掛けてきたという彼に
 好奇心をそそられたのだ

 そして彼も
 それをわかっているかのように
 庭園の中央へと私を導いた

 パラソルに丸テーブルと椅子

 ワイングラスが二個
 何やらチーズを盛り合せた大皿
 氷水を張ったボウルに
 ワインが二本冷やされていた

 本来は常温で頂くものですが
 冷たい方が私の好みでして
 お赦しを願います

 彼はそう言いながらコルク栓を抜き
 濃赤色の液体をグラスに注いだ

 さあ
 と促され
 グラスを鳴らして
 ワインを口に含む
 意外と
 さらりとした
 冷えた口当たり

 ……だがその後を
 濃厚な酸味の香りと
 主張の強い
 渋みとえぐ味が
 組んずほぐれつ取っ組み合う

 ……互いに
 相容れない味わいに
 わたしは
 自然と
 顔を顰めていたのだろう

 彼は無言で
 チーズを盛り付けた皿を勧めた

 これが
 絶妙!
 だった

 香りと
 渋みと
 えぐ味とを宥め
 間を取り持つ

 わたしは
 思わず頷き
 もうひと口
 ワインを含むと
 彼は声に出して笑い
 豪快にグラスを呷った

 こうして一本目のボトルが空いた


 年齢は
 八十近くかと思われる彼は
 豪く気難しい
 との噂に違い
 自分の年齢の
 半分にも満たない
 『ひよっこ』の
 わたしに対して
 実に慇懃だった


 美の譬喩にひと言
 『薔薇の花』
 を持ち出し

 また希望を形容するに
 やはりひと言
 『薔薇色』
 と言いますが
 これが実に多種多様です

 ご覧ください
 この庭だけで幾種類あることか


 私等男性群と異なり
 貴女方女性群は
 精神面においても
 肉体面においても
 実に神秘的ですが

 それは薔薇と共通している


 私の庭は
 もはや其々に
 経緯の違う女性たちを
 ひと時招待しているようなものです

 勿論
 相応の代償を払って

 彼は棘傷だらけの両手を晒した
 まだ血濡れた傷もある

 二本目のワインボトルの栓を抜くと
 彼の語気に
 不思議な力が宿り始めた


 其々の
 薔薇の名前と色彩こそが
 『薔薇の意識と生命』
 を象徴し
 かつ具象してもいるのです


 濃厚で鮮烈な
 生涯の歴史です


 わたしは
 知らず知らず
 彼の話術に
 惹き込まれていた


 生涯の歴史?

 名前と?
 色彩と?


 薔薇たちが花としての
 己が意識を織りなして
 生涯を名前と色彩に
 重ねていったとすれば

 まさに
 ――La vie en rose
 と申せましょう


 陽が緩やかに陰った
 すでに二本のボトルは空いていた

 ……ノスタルジー
 ロイヤルプリンセス
 モナリザ
 ボレロ
 スイートメリナ
 エバーゴールド……

 薄い唇が告げる
 色とりどりの薔薇の名前は
 即座に空気に溶けて色褪せていく

 彼は
 ふらりと
 バラの群生の前に立って
 両手を広げた

 
 と突如爆発が起こり
 爆煙幕が彼とわたしを遮って
 わたしは地面によろめき倒れていた

 そこは戦場の最前線で
 取り囲む敵兵士の
 激しい機銃掃射の
 轟音が止まず
 反撃は疎か撤退も
 不能な密閉空間と化し
 味方兵士の肢体を
 銃槍だらけの死体に
 再生産していた

 (こんなに簡単に)
 (人は?)

 (殺し合うのか?)

 背中で
 年齢若い女が
 叫ぶ声がした

 恐る恐る振り返ると
 瓦礫の狭間で白い腿が
 無機質に揺れている

 銃声はなお止まず
 死は免れないと思った瞬間

 轟音は
 残響に

 代わった


 手を広げた彼を
 『黒い薔薇』
 が幾重にも取り囲んていた

 それはモノクロームな黒ではない
 密度を濃厚に凝縮した
 『黒』に限りなく近い
 ――血液の『赤』を凝縮した
 『黒』だった


 そう
 それは決して
 甘ったるい色などではない
 鮮血の密度が
 凝縮した色に違いないのです

 
 人間の歴史など
 道化の骨頂だと思いませんか?
 所詮
 奪い合いと
 殺し合いの

 繰り返しに過ぎない

 何故かって?

 それが
 『人間の本性』
 だからです

 ゆえに
 悲しみと憎しみに濃縮された
 『赤』
 は限りなく
 『黒』
 なのです!

 この薔薇の
 『黒』を

 この色を
 どうか
    お忘れなく

 ワインの色と味も
 どうか
    お忘れなく

 ambivalentな
 人間の本性もまた
 どうか
    お忘れなく

 この薔薇の名前は……




 ……ほんの数秒の
 微睡みの夢
 だった

 午後のカフェは
 呆気なく空いていた

 ノートパソコンの
 カーソルの点滅を
 眺めるともなく眺めて

 わたしはひどく
 もやもや
 していた

 これは
 見てはいけないもの
 ではなかったか?

 不安がよぎる

 自分の夢に
 何か得体のしれない
 魔物が紛れ込んでしまった
 ような気がしたから


 その時

 わたしは
 存在しては
 ならない物を

 見つけてしまった



 薔


 薇


 の


 名


 前


 は



 ?




 斜向かいの席に
 『黒い薔薇』の
 花束が


 置き忘れられている





written  2017/05/24〜28.
rewritten 2022/06/16〜22.


春嵐と蒲公英

2022-05-04 13:36:31 | uta
春嵐と蒲公英
  
   春嵐の工事現場



ぼくとつとこうじげんばにたつぢゆうきはがねのはだをしううあらひぬ
朴訥と工事現場に屹立つ重機鋼の肌を驟雨洗ひぬ

したしみしまちなみとひとのきえはてたくうはくのちによこなぐりのあめ
親しみし街並みと人の消え果てた空白の地に横殴りの雨



   風になる


あすふあるとわりてさきたるたんぽぽのむれはゆれをりとくみなみかぜ
アスフアルト割りて咲きたる蒲公英の群生は揺れ居り疾く南風



とききたるしゆしをむすびしわたぼうしいのちのたびじかぜにたくして
季節来る種子を結びし綿帽子生命の旅路風に託して






 * written_2022/03/27,/31,04/01,17.
 * polished_2022/04/18,19,26,27,
  05/01,04.
 * photograghed_2022/04/17.