渋谷"青い部屋"のオーディションに臨む。如何にライヴ歴が長くとも、コネクションの無いハコは正面から門を叩くほかない。
和製シャンソンの殿堂だが、今はジャンルに拘らぬライヴスペースとしてリニューアルされている。鮎川誠、シーナ夫妻の娘たちを中心とするパンクバンド、DARKSIDE MIRRORSを聴きにいったことがある。むかし下北沢の近くに住んでいた頃、この一家はよく見掛けていた。路上で鮎川氏に思わずサインを求めたこともある。「あの子たちがねえ」という懐かしい思いもあったし、僕は青山学院という学校を出ており、青い部屋はこの通用門のすぐ傍なのだ。
音響が好みだ。詞がよく聴取できる。また幅広い年齢層を相手にしているだけあって、座りこめる場所が多い。同世代がそれ以上のお客にオール・スタンディングは辛いから、座れるハコというのはずっとラヂオデパートの案件だった。
演奏時間を三十分と認識していたら、送られてきたタイムテーブルでは二十分。空白の十分に付いて問い合わせると、審査員たる戸川昌子、鳥井賀句両氏のコメント時間であるという。オーディションとはいえ多少の集客は見込める訳で、「気持ちよかった」「楽しかった」と思ってくださっているお客の前で瑕疵を指摘されるのは切ないが、郷にいれば郷に従うほかない。曲数も絞り込んだ。〈陽炎〉〈カーブを描く〉〈雲雀よ雲雀〉〈タンカー'69〉。
本番の演奏を始めて、青い部屋の照明というのはほぼ正面から当たるのだと気づく。何も見えん。サングラスを掛けて出ればよかった。白濁した視界の中心でバーテンダーが踊っていた。不思議な光景だった。あとで聞いたところによると、お客さんたちもけっこう踊っていらしたとか。
で、審査員のコメントなんですが、戸川氏からは「ちゃんと肉を食べなさい」――食べてます。
鳥井氏からは「ブリティッシュ・ソウル」という語彙が発せられ、思いがけなかったと同時に巧みに云い当てられたような気もし、愕く。さすが音楽を言葉で表し続けてきた人である。あとは舞台衣装のこと。「寝起きのまま来たみたいじゃないか」
白地のTシャツに普通のジーンズという奇蹟の衣装でそのまま歌ってしまった小山の話であって、山高帽を被っていた僕に対してではないと思うぞ。ともあれ他の出演者とのギャップは素直に認め、頭を垂れざるを得ない。
リニューアルされたとはいえ、青い部屋の孕むアングラな空気は濃密だ。いきおい出演志願者のパフォーマンスも、ハコ依存度が高いというか、雰囲気勝負に偏りがちである。いや、はっきりと書こう。見た目には圧倒され続けたものの、ふと舞台から視線を逸らしてしまうや、母校の文化祭でうっかり目当てではなかった演目の会場に入ってしまったような気分に陥る瞬間が、多々あった。
翻ってラヂオデパートは音楽自体にしか興味がない。演出なんか考えている暇があったら発声練習しろ、といった体育会系文化部の空気が横溢している。衣装のことなど口に出そうもんなら、云っている自分が最初に噴き出してしまう。別にそれが正しいとも思わないが。
踊っていたバーテンダーはグレッチを弾かれるそうで、テキーラを頼んでいるとき楽器のことを色々と訊かれた。「特別な楽器なんですか」「ボリューム、細かく調整してますね」等。それを観察している貴方が細かいという気もするが、エフェクターが充実している昨今、足を動かす代わり、手許のボリュームやトーンをちまちまといじっている姿は、確かに珍しがられる。僕にとってギターに付いているボリュームやセレクターは魔法の杖みたいな物で、ちょっと触れるだけで音色が劇的に変わる――それが最初から附属しているのだから、こんなに便利な話も無い。
尤も当夜は、珍しくディレイも使ったのである。〈カーブを描く〉一曲だが、小山の歌を包み込むような雰囲気が欲しくてダン・エコーを薄くかけていた。3/16のタイミングで設定しておくと、普通に八分音符を刻んだ時、ディレイ音と重なって十六の刻みになる。これは昔から得意なのだ。あとはブースターだけで、アンプは店にあったフェンダーDeluxe Reverb。個人的には高音のぎらつきが気になったが、AC30やAC15よりこちらが好きな人は多いに違いない、という優等生な音。
気がつけば鳥井氏が横にいて、更にギター談義。往時のヴォクス・ギターを再現したPhantomの、左利き用を愛用なさっているとのこと。舞台上の僕は、ずいぶん若僧と誤解されていたらしい。いちばん若い奥野の頭は昔から白い物が多く、今は白髮と云って過言ではないため、逆に年上だと思われていた。
そういえば、リードヴォーカルをどちらか(たぶん小山でしょう)に絞った方がいい、というコメントもあったのだが、演出ではなく音楽上の必然から生じた今の交互に歌うスタイルなので、これを変えるというのはちょっと考えられない。ザ・バンドの歌が誰か一人だなんて考えられないでしょう? 鳥井氏からも「プロデューサーが云いそうな事をわざと云ってみた」との補足があった。
衣装については、今後、青い部屋にブッキングしていただくことあらば、スタッフの皆さんとの相談のうえ善処します。「モッズ風のスーツを着るとかさ」と云われた。僕は平気なんだが、果たして太朗は着てくれるんでしょうか。で、そのとき小山は何を着ればいいのだ?
そして奥野は――。
和製シャンソンの殿堂だが、今はジャンルに拘らぬライヴスペースとしてリニューアルされている。鮎川誠、シーナ夫妻の娘たちを中心とするパンクバンド、DARKSIDE MIRRORSを聴きにいったことがある。むかし下北沢の近くに住んでいた頃、この一家はよく見掛けていた。路上で鮎川氏に思わずサインを求めたこともある。「あの子たちがねえ」という懐かしい思いもあったし、僕は青山学院という学校を出ており、青い部屋はこの通用門のすぐ傍なのだ。
音響が好みだ。詞がよく聴取できる。また幅広い年齢層を相手にしているだけあって、座りこめる場所が多い。同世代がそれ以上のお客にオール・スタンディングは辛いから、座れるハコというのはずっとラヂオデパートの案件だった。
演奏時間を三十分と認識していたら、送られてきたタイムテーブルでは二十分。空白の十分に付いて問い合わせると、審査員たる戸川昌子、鳥井賀句両氏のコメント時間であるという。オーディションとはいえ多少の集客は見込める訳で、「気持ちよかった」「楽しかった」と思ってくださっているお客の前で瑕疵を指摘されるのは切ないが、郷にいれば郷に従うほかない。曲数も絞り込んだ。〈陽炎〉〈カーブを描く〉〈雲雀よ雲雀〉〈タンカー'69〉。
本番の演奏を始めて、青い部屋の照明というのはほぼ正面から当たるのだと気づく。何も見えん。サングラスを掛けて出ればよかった。白濁した視界の中心でバーテンダーが踊っていた。不思議な光景だった。あとで聞いたところによると、お客さんたちもけっこう踊っていらしたとか。
で、審査員のコメントなんですが、戸川氏からは「ちゃんと肉を食べなさい」――食べてます。
鳥井氏からは「ブリティッシュ・ソウル」という語彙が発せられ、思いがけなかったと同時に巧みに云い当てられたような気もし、愕く。さすが音楽を言葉で表し続けてきた人である。あとは舞台衣装のこと。「寝起きのまま来たみたいじゃないか」
白地のTシャツに普通のジーンズという奇蹟の衣装でそのまま歌ってしまった小山の話であって、山高帽を被っていた僕に対してではないと思うぞ。ともあれ他の出演者とのギャップは素直に認め、頭を垂れざるを得ない。
リニューアルされたとはいえ、青い部屋の孕むアングラな空気は濃密だ。いきおい出演志願者のパフォーマンスも、ハコ依存度が高いというか、雰囲気勝負に偏りがちである。いや、はっきりと書こう。見た目には圧倒され続けたものの、ふと舞台から視線を逸らしてしまうや、母校の文化祭でうっかり目当てではなかった演目の会場に入ってしまったような気分に陥る瞬間が、多々あった。
翻ってラヂオデパートは音楽自体にしか興味がない。演出なんか考えている暇があったら発声練習しろ、といった体育会系文化部の空気が横溢している。衣装のことなど口に出そうもんなら、云っている自分が最初に噴き出してしまう。別にそれが正しいとも思わないが。
踊っていたバーテンダーはグレッチを弾かれるそうで、テキーラを頼んでいるとき楽器のことを色々と訊かれた。「特別な楽器なんですか」「ボリューム、細かく調整してますね」等。それを観察している貴方が細かいという気もするが、エフェクターが充実している昨今、足を動かす代わり、手許のボリュームやトーンをちまちまといじっている姿は、確かに珍しがられる。僕にとってギターに付いているボリュームやセレクターは魔法の杖みたいな物で、ちょっと触れるだけで音色が劇的に変わる――それが最初から附属しているのだから、こんなに便利な話も無い。
尤も当夜は、珍しくディレイも使ったのである。〈カーブを描く〉一曲だが、小山の歌を包み込むような雰囲気が欲しくてダン・エコーを薄くかけていた。3/16のタイミングで設定しておくと、普通に八分音符を刻んだ時、ディレイ音と重なって十六の刻みになる。これは昔から得意なのだ。あとはブースターだけで、アンプは店にあったフェンダーDeluxe Reverb。個人的には高音のぎらつきが気になったが、AC30やAC15よりこちらが好きな人は多いに違いない、という優等生な音。
気がつけば鳥井氏が横にいて、更にギター談義。往時のヴォクス・ギターを再現したPhantomの、左利き用を愛用なさっているとのこと。舞台上の僕は、ずいぶん若僧と誤解されていたらしい。いちばん若い奥野の頭は昔から白い物が多く、今は白髮と云って過言ではないため、逆に年上だと思われていた。
そういえば、リードヴォーカルをどちらか(たぶん小山でしょう)に絞った方がいい、というコメントもあったのだが、演出ではなく音楽上の必然から生じた今の交互に歌うスタイルなので、これを変えるというのはちょっと考えられない。ザ・バンドの歌が誰か一人だなんて考えられないでしょう? 鳥井氏からも「プロデューサーが云いそうな事をわざと云ってみた」との補足があった。
衣装については、今後、青い部屋にブッキングしていただくことあらば、スタッフの皆さんとの相談のうえ善処します。「モッズ風のスーツを着るとかさ」と云われた。僕は平気なんだが、果たして太朗は着てくれるんでしょうか。で、そのとき小山は何を着ればいいのだ?
そして奥野は――。
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