ラヂオデパートと私

ロックバンド“ラヂオデパート”におけるギタリストとしての津原泰水、その幾何学的な幻視と空耳。

あけおめ

2007-01-01 05:37:42 | ライヴ
「博士、あけおめ」
「こらこら、そんな挨拶をどこで覚えた」
「年末ライヴのオーディエンス録音をお聴きになったとか」
「ああ、録音状態が悪くて明瞭ではなかったけどね。PAに録ってもらっていた録音も後日届くと思うが、とりあえずセッションの模様を聴いてみるかい。石黒くんもなかなかどうして、堂々と弾ききっているよ」
「ええ、なんとか計画通りに弾けましたけど、博士のギターがよく聞えませんね」
「ギターが三本もあったからねえ、アンサンブルの邪魔にならないよう絞り気味にしていたんだよ」
「ソロでもろくに聞えませんよ」
「いやそれは――君達がボリュームを絞ってくれないからで。PAさんも初めての状況に対処しきれなかったようだし」
「博士は手許でボリュームを変えるんですよね。僕はそれが苦手なんですが」
「じゃあボリュームペダルを使うか、バッキング用の音量を基本に、ソロの時だけブースター系のエフェクターを踏むのが正解だね。イコライザーでソロ向きの太い音色を作りレベルも上げ、ブースター代わりに使うという手もある。最近、複数のブーストや歪みを複合したボックスをよく見掛ける。その種の悩みを一気に解決というコンセプトだろう。ギターという楽器はバッキングは複数の絃、ソロは基本的に一本の絃だから、どうしても望む音量とは逆になってしまうんだよ。バッキングを右手ミュートで抑え続けるというのならともかく」
「面倒な話ですね」
「そういう感性のためにエレキギターにはボリュームノブという物が付いている」
「僕も博士と同じで歌いますから、なかなかノブの目盛りを見られないんですよ」
「見ずの操作に慣れるほかないないなあ。そう、マイクごとのボリュームが付いたギターで――あるいはそう改造して、例えばバッキングはフロントやセンター、ソロはリア、という風に決めておく手もあるね。これならセレクターを切り替えるだけで済む」
「その手は使えそうです」
「いっそマイクごと別出力という風に改造し、バッキング時とソロ時のアンプを切り替えてしまうというアイデアはどうだい? うひひ。ギターのセレクターだけで音が右に左に。ひゃはは。常にケーブルを二本引きずらねばならないのが辛いが」
「それは博士がやってください。――耳が慣れてくるとだんだん聞えてきました。このクネクネした変態フレーズは博士ですね」
「君が見た目のわりに一本気なソロなのに比べたら、確かに変態的かもしれない。君はヴィブラートを殆どかけないが、僕はヴィブラート幅が大きいしね」
「嫌味の応酬はやめませんか。あ、今の気持ち悪いフレーズ、いったい何を弾いたんですか」
「変態とか気持ち悪いとか云うな。あと加齡臭という言葉も禁じる。〈タイムマシンにお願い〉は基本的にA、D、Eの3コードなんだが、まったくブルージィな曲調ではない。ただギターソロの間は歌メロが無いから、ブルース進行の変形と捉え、EをE7と見なしてそのテンションノートの集合体であるFディミニッシュを駆け上がったのだよ。次のコードがキイのAだからね。そこに戻る前だけ、最も遠い感じを演出したのだ。でもこの技はキイがマイナー系の時のほうが決まるというか、快感が大きいね。ホールトーン辺りのほうが面白かったかもしれない。とにかく曲調によるんだよ」
「僕はAmペンタトニック一発で弾ききったんですが、そういうのは駄目なんですか」
「問題ないよ。ただ曲によっては、なんか変な音だなって瞬間が生じるかもしれない。そういう音を経験則で避けていけばいい」
「あ、この曲は久々に演ったっていうムード歌謡みたいな曲ですね」
「〈まひるの夢〉のファイルだね。ラテンのパロディなんでムード歌謡風に聞える。作ったのは二十代の頃だよ。のちにコードは多少付け直したけどね」
「いい曲じゃないですか。歌詞をちゃんと知りたいな」
「可愛い事を云うじゃないか。では公開しよう。どうせこのブログには詞も順次載せていくつもりだったんだよ」

 まひるの夢

あのひとの笑顔 かたとき夢にみた
赤い花をうしろに見おろす
つらい予感の細漣
遠いまひるの きれぎれの語らい
想い出よもう少し傍に
テーブルよせて踊ろう

いちばん大切な宝もの
とうにあきらめた

いまやさしくしないと
かなしいおもいが残るよ
おわりのない愛なんて
甘いあやまち まひるの夢

懐かしい声 通りすがりに聞いて
ふり返ったところで詮ない
空耳かもしれない
いまもいつでも瞼によみがえる
白いその背中のまぶしさ
夏はただ輝く

時間だけが雪のように降りつもる 長い午後は
幸福な結末を真似して ひとり浮かれて
浮かれて過ごす

「なんだか普通に、ムッシュとか森山良子の血族のような歌に見えますが、そういう率直なアレンジで歌おうとは思わなかったんですか」
「いや、僕がやりたかったのはあくまでラテンのパロディだからね」
「博士ってひょっとして照れ屋さんですか」
「その言葉も禁じる」

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