ネットオヤジのぼやき録

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早熟の天才 VS 晩成の雑草 - 京口紘人が自身初の大阪で堂々のKO宣言 -

2019年10月01日 | Preview

■10月1日/エディオン・アリーナ(大阪府立体育会館)/WBA世界L・フライ級タイトルマッチ12回戦
スーパー王者 京口紘人(ワタナベ) VS WBA1位 久田哲也(ハラダ)



首都東京に活動の拠点を置く王者も、苦節16年目にして世界戦を射止めた34歳の挑戦者も、ともに大阪の出身。京口がこれまで行った5度の世界戦は、すべて関西圏外(首都圏×4,マカオ×1)で、文字通りの凱旋興行になる。

幕張メッセで行われた前戦(L・フライ級王座の初防衛戦/6月)では、ムエタイの元王者サターンムアンレックの技巧と駆け引きに苦しみ、ポイント上は問題は無かったものの、崩しの技術と工夫の不足を露呈。

倒すことへの意識が前面に出過ぎてしまい、正面に留まったまま動きと手数が止まりがちになる。思い出したようにジャブと軽めのワンツーも散らすが、いきなりの強打に頼る傾向が顕著で、ベテランのタイ人に相打ち気味のショートを上手く刺し込まれ、効いている訳ではないが、ガードを割られる場面も目立つ。

まだプロ13戦と言えばそれまでなのだが、持ち味の強靭なフィジカルとパワーも、一定水準以上のプロのディフェンスを前にすると、単調な前進&強振の繰り返しに陥り易く、基礎体力の差で押し切れたから良かったけれど、強弱も含めたパンチのバリエーション,攻撃パターンにおける変化の乏しさが、今後の課題として浮き彫りになった。


今の京口に最も足りないものが「経験値」だとすれば、チャレンジャー久田の最大の武器は、まさに「経験(キャリアの差)」ということになる。16年間のプロ生活で積み上げた試合数は、実に45試合。

20世紀のプロボクシングでは、ランキングに入って王座を狙おうとする者であれば、40~50戦以上をこなすのが当たり前だった。20戦,30戦は鼻たれ小僧・・・4~8回戦の修行時代のうちに、30戦を突破する選手も少なくない。

しかし1970年代半ば以降、ボクシングの人気は坂道を転げ落ちるがごとく急降下を続け、1980年代半ば以降プロが年間にこなす試合数は激減。かつては2~4年程度で達していた30戦をこなすのに、現代のボクサーは10年を要する。

これは日本国内に限らず世界的に共通した傾向で、「ベルリンの壁崩壊」をきっかけに、旧共産圏のステートアマたちが大挙して流入するようになった90年代以降、海外でも年平均に消化する試合数は目に見えて少なくなった。


2003年11月に19歳でプロデビュー(4回戦)。ハラダジムに入門したのは高校1年の時だったというから、けっして早いスタートとは言えない。アマチュアの経験も無く、文字通り無名の若者に過ぎなかった久田は、初陣のリングを初回KOで飾ると、直ちに2004年度の新人王戦にエントリー。

しかし、満を持して迎えた筈の予選1回戦で、尼崎ジムの本田猛に判定負け。本田は既に5戦を消化し、4勝全KO1敗の好レコードを残していたが、その1敗は久田戦の直前に喫したもので、しかもKO負けである。

久田自身も陣営も勝利を疑っていなかったと思うが、デビューしたてのグリーンボーイに、4試合の経験の違いは大きい。7月に再起戦を行い判定勝ちを収めた後、丸々1年実戦から遠ざかり、翌2005年度の新人王戦に再び臨む。

デビューから6連勝中(1KO)のホープ,松下泰士(ヨシヤマ)を得意の右強打で2度倒し、不利の予想を覆す2回KO勝ち。これで波に乗るかと思いきや、次戦(西日本準決勝)でぶつかった相手が悪かった。

東西含めた参加選手の中でも高い評価を受け、優勝候補と目されていたグリーンツダの奈須勇樹と果敢に打ち合ったが、1ポイントも奪うことができずに判定負け(奈須は期待通り全日本を制した)。この後7戦目で6回戦に進むも、勝ち負けを繰り返してなかなか上に行くことができず、戦績が安定し出すのは、ようやく13戦目で10回戦に進んでから。


それでも容易にタイトルマッチの機会は訪れず、2011年(8年目)に出場した「最強後楽園(旧称:A級トーナメント)」では、初戦で田口良一(ワタナベ)に6回判定負け。直後の再起戦でも、堀川謙一(SFマキ)に勝ち切れず判定を失い2連敗。

1勝を挟んで久高寛之(グリーンツダ→仲里ATSUMI→仲里)に4回TKOで敗れ、2013年に再チャレンジしたA級トーナメント初戦で、堀川との再戦が実現するもまたもや判定負け。新人時代に一度勝っていた戎岡淳一(明石),村井貴裕(守口東郷)と引き分け、杦本健太(明石)には判定負け。

後が無くなった久田は、引退を賭けて真正ジムの小坂駿(2014年度の西日本新人王)と対決。劣勢のまま迎えた最終8ラウンド、起死回生のボディ(左フック=これ以降久田の代名詞となる)を決めて逆転KO勝ちを収め、ここから潮目が変わる。

油田京士(エディ・タウンゼント)や松井謙太(三河)を含む5連続KO勝ちをマークし、日本ランキング1位に進出すると、2016年度の「最強後楽園ミリオン・マッチ(旧A級トーナメント)」に出場。2位の山口隼人(TEAM 10COUNT)を7回TKOに退け、キャリア13年目にして、遂に日本タイトル挑戦(当時の王者は拳四朗)のチャンスを掴む。


そして2017年4月、世界タイトル挑戦の内定により拳四朗が返上したベルトを、過去に2度負けている堀川(ランク2位)と争い、明白な3-0判定で雪辱。15位の末席ながらも、念願の世界ランク入り(WBC)を果たす。

その後は、角谷淳志(金沢),板垣幸司(広島三栄)らを相手に、日本タイトルを5回連続防衛。世界ランクも上位に定着して、視野に捉えた世界戦に照準を定め、昨年12月5日付けで返上。今年4月のチューンナップでは、無名のインドネシア人に5回KO勝ち。WBAの指名挑戦者として、2階級制覇の京口に挑む。


デビュー間もない頃の久田は、右強打にすべてを託すパンチャータイプだった。ジャブもろとも、迷い無く真っ直ぐ前に出てワンツーを放ち、届かない距離からでも強引に右フックを振るう。

初陣はミニマム級に近いウェイトだったが、2戦目でフライ級に上げると、2015年までは大半の試合をフライ級のリミット内で戦っている。108ポンドに落ち着くのは2016年以降で、30歳を過ぎてからの実質的な階級ダウンは、小さからぬ負担になった筈だ。

キャリアを重ねる中で無駄な大振りは自ずと沈静化し、捨てパンチを含む細かいパンチが増え、ワンツー→左の上下,左ボディ→右ストレートを軸にしたコンビネーション主体の攻撃に収れんされて行く。

どんなボクサーでも、多かれ少なかれ似たような道を辿るものだが、久田もインサイドワークとペース配分を身に付けることで安定感を増し、プロとして成熟するに従い、上手さを強さに変えて日本チャンピオンの座に就いた。





ターニング・ポイントとなったのは、やはり2015年5月の小坂駿戦だろう。苦労の末に逆転のKOをモノにして、倒すコツというか、効かせるツボを会得したように思う。既にプロ生活は12年目に入り、年齢も31歳だから随分と時間はかかったけれど、円熟という小さからぬ奇跡が、とうとう久田にも訪れたのである。

どうということもない平凡なボクサーが、ある日を境に豹変。それまで勝てなかった国内トップクラスを打ち破り、始めはよくある番狂わせだと思っていると、あれよあれよという間にチャンピオンになるだけでなく、防衛を続けて国際的な水準にまで達してしまう。

久田のボクシングは、一見すると京口以上に分かり易い。右ストレート,フックと左ボディを生命線にした攻撃的なスタイル。フィジカルの強さに関する限り、木村翔(青木=移籍先が気になる)に次ぐ水準ではないか。

1発の破壊力はあと数歩木村に及ばないが、木村には無い上体の柔らかさが久田にはある。とりわけ日本王者になってからは、若い頃の無鉄砲な迫力は無くなった代わりに、無茶振りを抑えた分だけ、いい意味での脱力が出来るようになった。


実際の年齢に比して、肉体年齢は想像以上に若いという印象だ。膝と足首のクッションもまだまだ残っているし、出足の鋭さにも大きな不足は無し。ただし、ディフェンスはサターンムアンレックの域にはなく、京口は自慢のプレッシャー戦法で一気に詰めて来るに違いない。

若き王者のパワーに対抗して自分の展開に持ち込む為には、若かりし日の強引さもある程度必要になるだろうが、前がかりになった時の京口にはまだまだ隙が多く、久田にとってはカウンターのチャンスになる。京口の優位は動かし難いが、熟練の技と頭脳でどこまで食い下がれるか。

沼田義明 VS 小林弘(日本人同士による史上初の世界戦)の昔から、才気走った天才肌と努力型の凡才対決は数多あり、ステレオタイプの比較に余り意味はないけれど、見た目は地味で派手さとは無縁なベテランの凡人に、若くて昇り調子の異才が足元をすくわれるアップセットは、ボクシング界では洋の東西を問わず日常茶飯的に発生する。

真正面でまともに打ち合ったら、流石に久田は厳しいと思うが、サイドから揺さぶりをかけつつ、序盤から京口のボディを上手く攻めることができれば、後半まで粘って王者の焦りを誘うことも不可能ではない。


◎京口(25歳)/前日計量:108ポンド(48.9キロ)
WBA L・フライ級スーパー(V1),前IBF M・フライ級王者(V2)
戦績:13戦全勝(9KO)
アマ通算:66戦52勝(8RSC・KO)14敗
大阪府立伯太高校→大商大(ボクシング部主将)
2014年国体優勝
2014年台北カップ準優勝
※階級:L・フライ級
身長:162センチ
リーチ:162センチ
首周:37.8センチ
胸囲:92.5センチ
視力:左0.2/右0.3
ナックル:左26/右26.7センチ
右ボクサーファイター

◎久田(34歳)/前日計量:107ポンド1/2(48.8キロ)
元日本L・フライ級王者(V5/返上)
戦績:45戦34勝(20KO)9敗2分け
身長:162.8センチ
リーチ:162.5センチ
首周:35.6センチ
胸囲:87センチ
視力:左0.8/右0.6
ナックル:左27.7/右27.8センチ
右ボクサーファイター




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■オフィシャル

主審:浅尾和信(日/JBC)

副審:
シルヴェストレ・アバインサ(比)
セルヒオ・カイズ(米/カリフォルニア州)
池原信遂(日/JBC)

立会人(スーパーバイザー):レンツォ・バグナリオル(ニカラグァ/WBAインターナショナル・コーディネーター)


ジャッジに加わった池原は、大阪帝拳所属の元日本バンタム級王者。ウラディーミル・シドレンコ(ウクライナ)のWBA王座に挑戦した元コンテンダーでもある。2013年に公式審判員の資格を取り、今回が初の世界戦。


※左から:渡辺均会長(ワタナベジム),京口,久田,原田実雄会長(ハラダジム)



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■MBSがネットでライヴ配信

残念ながらTV中継は無し。厳しい現実だが、日本国内におけるボクシングのポジションと割り切るしかない。

そのかわり、MBSがyoutubeの公式チャンネルで配信を行う。

□WBA世界ライトフライ級タイトルマッチ 京口紘人 vs 久田哲也
※20辞20分以降配信開始
https://www.youtube.com/watch?v=B-fgpdWKNyY