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L・ヘビー再び /ベテルビエフとの4団体統一戦はありやなしや・・・ - カネロ VS ビヴォル 直前プレビュー -

2022年05月07日 | Preview

■5月7日/T-モバイル・アリーナ,ラスベガス/WBA世界L・ヘビー級タイトルマッチ12回戦
スーパー王者 ドミトリー・ビヴォル(ロシア) VS 4団体統一S・ミドル級王者 カネロ・アルバレス(メキシコ)


※キック・オフ・カンファレンス(2022年3月3日)


5月上旬のラスベガス(もしくは西海岸とテキサス州)で開催される大きなボクシング興行に、メキシコのトップ・スターは欠かせない。

ヒスパニック系コミュニティの力強い下支えなくして、王国アメリカのボクシング興行は存立し得なくなり、必ずと言っていいほどお呼びがかかる。

いわゆる「シンコ・デ・マヨ(19世紀半ばプエブラでの仏軍に対する奇跡的勝利を祝う戦勝記念日)」に合わせての開催で、ラスベガスの大会場にカネロが初めて登場したのは、2010年5月1日のMGMグランドだった。

ただしこの時はセミ格(150ポンド契約10回戦)で、ホセ・ミゲル・コット(ミゲル・コットの兄)に9回TKO勝を収めている。ちなみにメインはメイウェザー VS モズリー戦。


カネロ自身が初めてオオトリを仰せつかったのは、2012年5月5日。やはりMGMグランドのメイン・アリーナで、老いらくのシェーン・モズリーを迎えてのS・ウェルター級王座(WBC)防衛戦である。

そしてメイウェザー様の退場がいよいよ現実となる2015年以降、5月上旬は「カネロ様のお通り」が恒例行事化。メキシコの独立記念日(9月16日)に合わせた9月との「年2回」が、スケジューリングのベースという次第。

・2015年5月9日 J・カークランド戦(テキサス州ヒューストン)
・2016年5月7日 A・カーン戦(ラスベガス:T-モバイル・アリーナ)
・2017年5月6日 チャベス・Jr.戦/T-モバイル)
・2019年5月4日 D・ジェイコブス戦(T-モバイル)
・2021年5月8日 B・J・サンダース戦(テキサス州アーリントン)

※2018年5月:ドーピング違反の発覚でサスペンドを食らい、予定していたGGGとのリマッチが9月に延期。2020年は、言うまでもなく武漢ウィルス禍(3月11日にWHOがパンデミックに認定/無風状態だった米国内も2月~3月にかけて一気に蔓延が拡大)による休止。


束の間の引退から復帰した2009年9月のファン・M・マルケス戦以来、何故かメイウェザーも「毎年5月・9月」のスケジュールが定例化して、2015年5月のカークランド戦がテキサス(カリフォルニアに次いでメキシコ系移民の人口構成比が高い)になったのは、5月2日にMGMでパッキャオ戦(HBOとShowtimeの合同中継)が行われた為に他ならない。

2011年5月のMGMは、内縁の女性と実の子供に対する暴行恐喝の容疑で逮捕収監されたメイウェザー様の”お隠れ”により、パッキャオ VS モズリー戦(7日)が組まれ、人気者のホルヘ・アルセをアンダーに招聘(ウィルフレド・バスケス・Jr.とのWBO J・フェザー級王座戦)。

2013年5月はメイウェザー VS ロバート・ゲレロ(メキシコ系/暫定込みだが4階級制覇を達成)戦(4日)、2014年5月もメイウェザー VS マイダナ第1戦(3日)を挙行。マルコ・アントニオ・ペリバンとカルロス・モリナ(ゲレロと同じくカリフォルニア出身のメキシコ系移民)の中量級2選手が、アンダーカードに組み込まれている。

「メイウェザーの引退興行」をこれでもかと煽ったにも関わらず、肝心要のPPVセールスが50万件超に止まり、Showtimeの幹部連中が数字を聞かれて思わず苦笑いしたらしいが、2015年9月のアンドレ・ベルト戦が事実上のラスト・ファイトとなった。


閑話休題。


一昨(2020)年の暮れ、パンデミックによるレイ・オフを終えて、カラム・スミス(英)とのS・ミドル級タイトルマッチ(WBA・WBC統一/12回判定勝ち)でおよそ1年ぶりに実戦復帰したカネロは、昨(2021)年2月(A・イルディリウム/3回終了TKO)、上述した5月(ビリー・ジョー・サンダース/8回終了TKO=WBO吸収)と立て続けにリングに上がっている。

11月にはIBFのベルトを持つカレブ・プラント(どうしてなのか発音通りケイレブとは書きづらい/時期を見て記事の訂正を予定・それまでご容赦を)を11回TKOに屠り、168ポンドの4団体を統一。

オミクロン株の蔓延により、一旦は正式発表されたGGG VS 村田戦が延期になる間、あれほど避け続けてきたGGGとの決着(第3)戦に前向きになったかと思えば、L・ヘビー級への再チェレンジにも言及。

GGG VS 村田が陣営の意に反して破談にならず、4月日本開催が動かないと見極めるや否や、175ポンドで安定政権を維持するビヴォル(ビボル)とのマッチアップをまとめてしまった。


予定通りに事が運べば、不惑を迎えたGGGを未経験の168ポンドに呼び込み、独立記念日に日程を合わせて息の根を止める手筈。

ビヴォル戦の内容と結果如何によって、燻り続けるドーピング違反の問題が再炎上する恐れが無きにしも非ずだが、終の棲家となるであろう(?)S・ミドルで、GGGとの因縁に完全な決着を着けることで、PED使用への疑惑と批判にも幕引きを図りたい。


そんな思惑が見え隠れするカネロが、L・ヘビー級への参戦(対コヴァレフ)を発表した2019年9月以降、繰り返しプロポーザルを表明してきたビヴォルは、大方の見立て通りカネロがS・ミドルに引き返した後も、慌てず騒がず虎視眈々とチャンスを待ち続けた。


◎ファイナル・プレス・カンファレンス
CANELO vs. BIVOL PRESS CONFERENCE LIVESTREAM
2022年5月6日


2018年に本格的な米本土進出に打って出た当初、ビヴォルはコヴァレフを保有するメイン・イベンツと良好な関係を築く。

N.Y.の殿堂MSG(5千人収容のシアター)でサリヴァン・バレラ(キューバ)を12回TKOに屠り、2016年5月に獲得したWBA王座(暫定→正規昇格)のV4に成功すると、同年8月にアトランディックシティでアイザック・チレンバ(マラウィ)に12回判定勝ちでV5。

そして11月には、バーナード・ホプキンスと五分に近い勝負(2戦1敗1分け)を繰り広げ、コヴァレフとも2度拳を交えた大ベテランの元王者ジャン・パスカル(カナダ)を大差の判定に退ける(V6)。


こうしてエディ・ハーンのバックアップを取り付け、2019年の年明け早々、マッチルームUSAとの共同プロモート契約締結を公表。同年3月の移籍第1戦で、B-HOPに引導を渡したジョー・スミス・Jr.(現WBO王者)にワンサイドの判定勝ち(V7)。

プロ入り後のビヴォルが最大のウィークネスを曝け出す一幕もあり、エディ・ハーンとチームに冷や汗をたっぷりとかかせつつ、終盤に突如訪れた大ピンチを上手くしのいで見せた。

最終12ラウンド,文字通り試合終了間際に強烈な連打でスミスをコーナーに追い込み、マイナスを帳消しにしたのはお見事の一言。

ビヴォルの”ウィークネス”については、気になるサイズの問題とともに、カネロ陣営が対戦に前向きになった拠り所でもある筈なので後述する。


◎ビヴォルの公開練習<1>
2022年4月8日


◎ビヴォルの公開練習<2>
2022年3月11日


続く同年10月のV8戦は、ドミニカの元オリンピアン,レニン・カスティーリョ(190センチ近い長身)を挑戦者に迎えて、同じく大差の3-0判定をモノにする。

V8戦以降の3度の防衛戦は、V9のクレイグ・リチャーズ(H:185センチ)、V10のウマル・サラモフ(H:192センチ)と大型選手が続き、強引に倒しにかかる強気の虫を意識して抑えているように見えたのは、相手のフィジカル・タフネスだけが原因ではないと思う。

開けつつあるビッグ・マネー・ファイトへの可能性をより確実にする為、取りこぼしは絶対に許されない。長い付き合いのチーフ・トレーナー,ゲンナジー・マシアノフとともに、ビヴォルはマイナー・チェンジに取り組んだ(これも後述)。


パンデミックによる1年半余りの活動停止は痛手だったが、エディ・ハーンとの提携により、リチャーズ戦とサラモフ戦の2試合で、それぞれキャリア・ハイとなる50万ドルづつの報酬を得たビヴォルは、今回のカネロ戦で200万ドルの最低保障を獲得。

初めてボクシング・グローブを握ってから25年。四半世紀に渡る鍛錬と節制の日々を経て、念願の渡米を果たして三十路に突入したキルギス人は、遂に”ミリオン・ダラー・ファイト”に辿り着いた。

PPVのインセンティブ(30%:DAZNとハーンの取り分が差し引かれた後)とスポンサーシップを含めると、最終的な実入りは350~400万ドルを見込んでいる。


メイウェザーから”PPVセールス・キング”の座を継承したカネロは、DAZNとエディ・ハーンから1,500万ドルの最低保障を勝ち取っており、PPVインセンティブ(70%)による上積みは、大苦戦と評判(?)のプラント戦、B・J・サンダース戦の3,500万ドルを超えて、4,000万ドルに迫るのではともっぱら。

何とも凄まじい金額で唖然とするばかりだが、168ポンドの完全制覇に成功して、史上6人目(女子選手も含めると10人目)となる4団体統一王者になったとは言え、試合内容と結果が釣り合っているのかと問われると・・・。

ファンに与える満足・不満足,ドーピング違反への批判も含めて、「とにもかくにもメイウェザーの後釜に居座った」と、そう捉えるのが筋なのだろう。


直前のオッズを見てみよう。「存外に開いたな・・・」というのが偽らざる実感。

□主要ブックメイカーのオッズ
<1>5dimes
カネロ:-500(1.2倍)
ビヴォル:+400(5倍)

<2>betway
カネロ:-549(約1.18倍)
ビヴォル:+375(4.75倍)

<3>Bet365
カネロ:-500(1.2倍)
ビヴォル:+333(4.33倍)

<4>ウィリアム・ヒル
カネロ:1/5(1.2倍)
ビヴォル:7/2(4.5倍)
ドロー:16/1(17倍)

<5>Sky Sports
カネロ:1/5(1.2倍)
ビヴォル:7/2(4.5倍)
ドロー:16/1(17倍)


ジェフ・メイウェザーが開設した公式チャンネルの名物コーナー(Prediction)でも、インタビューを受けた全員(時間が無く早回しで視聴したので記憶違いの場合はご容赦を)が「カネロ」と答えている。

◎メイウェザー・チャンネル恒例の予想動画
Canelo vs. Bivol: Pro fighters predict!


コメント欄を見ると思った以上にビヴォル押しのファンもいて、「カネロ優位」で完全に一致するメイウェザー・ジムの関係者と選手たちに対して、「プロの目はフシ穴だらけ」と辛らつなメッセージを叩きつける投稿もチラホラ。

メイウェザーと同様(試合内容に関する不満と表裏一体)、群を抜くカネロの安定感を振り返ると、それもまた致し方なしとは思う。

明らかに効かされてグラつき、自ら後退せざるを得なくなった場面を思い出そうとしても、メイウェザー,エリスランディ・ララ,GGGとの3試合を含めて、すぐには映像が浮かんで来ない。

それこそホセ・ミゲル・コットに左フックのカウンターを合わされて、あわやストップ(?)の危機感を抱いた時(2010年5月)以来、「これはまずい」と泡を食うようなシーンは、ひょっとしたら無かったのではないか。


実のところ、ビヴォルにも同じ事が言える。ジョー・スミス戦を例外として、ビヴォルが明らかに効かされた場面を即座に言い当てるのは容易ではない。

酷く顔を腫らしたり、カットで傷だらけになることがほとんど無いのも一緒。2人に共通する特徴(長所)である。

勿論、その為の方法は違う。

厳しいプレスと素速く重いショートのコンビネーションで波状攻撃を繰り返し、強烈な左ボディをアクセントにしつつ、時間をかけて崩す(距離を潰し相手の心身を摩滅させて行く)カネロのディフェンスは、日本のプロ関係者が評価したがるブロック&カバーではなく、実はボディワーク(主に上半身の動き)が主になる。

対するビヴォルは、長くて強い左ジャブと右ストレート(ワンツー)でロング・ディスタンスをキープしながら、細かく速い前後左右のステップワーク(出はいり)が中心。

ハイリスクな中間距離でパンチを応酬する際、ダッキングしながらサイドの死角(左右のどちらか一方)へスルリと身体を逃がすと同時に、反転攻勢の態勢を作るロマチェンコばりのムーヴもこなすが、”足と反応で外す”ディフェンスが基本。


20世紀のトップ・ボクサーたちと比較して、ボディワーク(ウィービング&ボビング,ローリング,スリッピング)のヴォリュームが減って、相対(全体)的に攻守の技術レベルが落ちている現代のトップ・ボクサーの中にあって、カネロの上体の動きは間違いなく最上級と表すべき水準。

ただし、ウィリー・ペップ,ニコリノ・ローチェ,ウィルフレド・ベニテス,ロベルト・デュラン,パーネル・ウィテカー,ジェームズ・トニー,ロナルド・W・ライト,マイク・マッカラムといった、20世紀を代表するディフェンスの名手・達人たちの域には及ばない。

”攻めながら守る”プロ本来の困難に敢然と挑み、長い時間をかけてレベルアップしてきた努力と精進は賞賛に値するし、同胞のアイドル,”J・C・スーパースター”ことフリオ・C・チャベスの全盛期に近いところまで来てはいるが、偉大なチャベスが辿り着いた高みに達したとまでは言えない。


ビヴォルの手足と体全体のスピードは、運動量(と手数)が格段に落ちた現代の重量級においては出色と表すべきもので、WBSSでクルーザー級を完全制覇した後、ヘビー級に上がってジョシュアを封じ込めたオレクサンドル・ウシクと双璧。

だがしかし、ビヴォルとウシクを持ってしても、モハメッド・アリを筆頭に、ジャージー・J・ウォルコット,ビリー・コン,ウィリー・パストラーノ,トミー・ローランら、20世紀のL・ヘビー~ヘビー級を代表するフットワーカーには太刀打ちできない。


バンタム~フライ級もかくやと思わせるほど目まぐるしく動き続ける意次元のフットワークに、驚異的なボディワークを兼ね備えたウィリー・ペップを、オスカー・デラ・ホーヤは「史上最高のディフェンス・マスター」と称してはばからなかった。

70年代半ば~後半のバンタム級を席巻した”Zボーイズ”の1人,アルフォンソ・サモラ(元WBAバンタム級王者)や、ファイティング原田の3階級制覇(軽量級がフライ・バンタム・フェザーの3つしか無かった時代)を阻んだ豪州の技巧派ジョニー・ファメション(元WBCフェザー級王者)、スペインに亡命したキューバのジャバー,ホセ・レグラ(元WBCフェザー級王者)らが本気になった時のフットワークも凄かったけれど、ペップ(フェザー級)の健脚は図抜けている。

ミニマム級で一時代を築いたイヴァン・カルデロンと一番良かった頃の高山勝成でも、独楽鼠のごとく走り回る豊富な運動量はともかく、”無駄と隙の無い合理的なムーヴ”、高過ぎる完成度には1歩も2歩も譲る。

こうした”本物のフットワーカー(長い距離を素早く休まず移動し続けジャブ&コンビを間断なく打ち続ける)”とまともに比較されると、ビヴォル(遠めのミドル・レンジをベースにショート・ディスタンスを細めにコントロールするステップワーカー)の健脚もいささか色褪せて見えてしまう。


カネロとビヴォルに「ディフェンス名人」の印象が薄いもう1つの理由は、「相手の正面に立ち過ぎる」こと。

一旦前がかりになって攻め出すと容易に退か(け)ないメンタリティと、攻撃力への自信故に致し方のない面はあるものの、20世紀の名手・達人たちなら貰わなかったであろう被弾を許す原因でもある。

何だかんだ意っても、結果的に致命的なダメージを回避できているのだから、「それで十分じゃないか」との見方も当然成り立つ。


◎両雄のトレーニング映像
2022年4月8日


そして上で触れたビヴォル最大のウィークネス。それは、ジョー・スミスが露にした意外なほどの打たれ脆さ。

スミス戦の第10ラウンド終了間際、クリンチで揉み合う最中にスミスが放った右フックがビヴォルのテンプル(丁度左耳の上付近)をヒット。

ラウンドの終了を知らせるベルを合図に離れた直後、ビヴォルの上半身がグラつき、表情は朦朧としている。紛れもなく「ゴングに救われた」状況。


1分間のインターバルではダメージから回復し切れず、一時はどうなることかと思ったが、ビヴォルのワンツーを警戒し過ぎたスミス陣営の判断ミス(?)に助けられる格好で第11ラウンドを生き延びる。

この3分間で息を吹き返し、最終ラウンドの反撃へとつなげた回復力は、たゆまぬ節制とトレーニングの賜物。ディシプリンに欠けるボクサーは、必ずどこかでボロを出す。12ラウンズをフルに戦い切ることは難しい。

しかしながら・・・。


ジェームズ・カークランドとアミル・カーンを失神させたメキシカン・スタイルの強振(ボラード)、コヴァレフに止めを刺した肩越しの強力なストレートに象徴される”カネロの右”は、ビヴォルにも大きな脅威となって迫る。

オースティン・トラウト(S・ウェルター級のA・C統一戦)を腰砕けにした一瞬のショート・ストレートも含めて、”カネロの右”は破壊力だけでなくタイミングも一級品。

なおかつ、”しつこくキツいプレス”がそこに加わる。

サイズのディス・アドバンテージを差し引く必要はあるにしても、カスティーリョ,リチャーズ,サラモフの3人に追い回されて四苦八苦するビヴォルの姿は、”圧力型ファイター”としてのカネロにとって「お得意様」と映り易い。


序盤~前半の数ラウンズはビヴォルの距離とロング・ジャブ,鋭いワンツーに前進を阻まれ、ポイントも持って行かれるかもしれないが、コヴァレフやプラントらのように徐々に削られて疲弊消耗し、最後は捕まってしまうだろう・・・。

カネロの絶え間ない圧力、スピード&重量感を兼ね備えた崩しのコンビネーションが、結局は勝敗の命運を分ける・・・という大方の筋読みが説得力を持つのも止む無し。


◎カネロの公開練習
2022年5月1日


◎カネロの公開スパー
2022年4月6日


ところが、「カネロの優位は動かない。でも・・・」と、在米識者と関係者,元王者や現役トップ選手の多くが「負けはしないだろうが、現在のP4Pキングも相応に苦しむ」との見解を示してもいる。

ビヴォルのロング・ジャブとステップが、カネロの接近をかなりの確率で阻む。とりわけ前半から中盤にかけて、プラント,コヴァレフ戦以上に手を焼く公算が大。

ビヴォルのボクシングを「ワンツー馬鹿(失礼)」と切って捨てる声も散見されるが、ガードの内・外を打ち分ける速くて強いジャブ以上に、右ストレートを決める為の伏線,ヴァリエーションが豊富なのだ。

単純なワンツーと見せかけて、ツーの右をボディへ伸ばす基本形の変化は勿論のこと、ツーの右を囮に使って左のトリプルに変えたり、ストレートと同じ距離からアッパーを飛ばす。


右を放つ際、頭と肩を左サイドへ若干倒し気味にしてカウンターを防ぐのは半ば当前にしても、アウトサイドから被せるように打つオーバーハンド、頭を下げて守ろうとする相手への打ち下ろし(肩越しに刺し込むパターンを含む)、力をセーブして速さとタイミングに注力してガードの内側を通す等々、よくよく観ると芸が細かい。

そしてディフェンス面での修正は、左ガードの位置。旧ソ連のステート・アマ体制から出てきたトップ・グループは、左腕を腰の辺りまで下げる”デトロイト・スタイル”を思いのほか好む。日本のファンには、”ヒットマン・スタイル”の方が通りがいいかもしれない。

いわゆるメイウェザー・スタイルの「L字ガード」と異なるのは、「L字」が主に相手の空振りを誘って打ち終わりを1発(か2発)タッチしてポイントを掠め取る省エネ・安全策なのに対して、”デトロイト(ヒットマン)・スタイル”はロングの右ストレート(あるいはチョッピング・ライト)を叩き込むことを終局の目的としている点に尽きる。

空振りも誘うし打ち終わりも狙う。クロス・カウンターを合わせにも行く。結果的にタッチに終ることもあるけれども、狙いはあくまで「ハードヒット」であり、その為の手段として使う。


ビヴォルもこのスタイルが好きで、頻繁に左のガードを下げる。その状態で圧力をかけたり、逆に隙を見せ付けて引き出そうとしたり、カウンターのチャンスメイクだけでなく、ごく当たり前に駆け引きのツールとして多用したがる。

問題なのは、ハイ・リスクな近距離でも左腕を上げない時間が多いこと。プレスが効いている間はまだしも、相手が反撃する気マンマンの状況なのに、委細構わずそのままの態勢で詰めて行くケースが目に付く。

ジョー・スミス戦を経験したビヴォルは、距離と状況を考えて左ガードを下ろすようになった。そしてスピードを武器に戦う姿勢が以前よりも増す。この修正は、スミス戦で冒した失敗からの学びと捉えるべきだと思う。

必要に応じたパワーセーブ,コントロールへの意識が、ややもすると過剰になり過ぎているとの感もあるけれど、スタートからビヴォルに気持ちよく動かれ(せ)ると、アップセットへの期待と予感がいや増すことに・・・。


◎王者 ビヴォル(31歳)/前日計量:174.6ポンド
現WBA L・ヘビー級スーパー王者(V10)
戦績:19戦全勝(11KO)
世界戦通算:11戦全勝(4KO)
アマ通算:268勝15敗
2013年ワールド・コンバット・ゲームズ(ペテルスブルグ/ロシア)金メダル(L・ヘビー級)
2008年ユース世界選手権(グァダラハラ/メキシコ)銅メダル(ミドル級)
2007年カデット世界選手権(バクー/アゼルバイジャン)金メダル(L・ヘビー級)
2006年カデット世界選手権(イスタンブール/トルコ)金メダル(ミドル級))
ロシア国内選手権
2014年,2012年優勝(L・ヘビー級)
2011年準優勝,2010年3位(ミドル級)
身長,リーチとも183センチ
右ボクサーファイター


◎挑戦者 カネロ(30歳)/前日計量:174.4ポンド
現WB(V3),現WBC(V2),現IBF級(V0),現WBO(V0)S・ミドル級王者
前WBO L・ヘビー級(V0/返上),前WBCミドル級(第2期:V1/返上),前IBFミドル級(V1/返上),WBAミドル級スーパー(V1/返上),元WBC S・ウェルター級(V6/WBA王座吸収V0),元WBCミドル級(第1期:V1/返上),元WBO J・ミドル級(V0/返上)王者
戦績:60戦57勝(39KO)1敗2分け
世界戦通算:20戦18勝(11KO)1敗1分け
アマ通算:不明
※20戦,44勝2敗など諸説有り
2005年ジュニア国内選手権優勝
2004年ジュニア国内選手権準優勝
身長:175センチ,リーチ:179センチ
右ボクサーファイター


◎前日(公開)計量
2022年5月6日


◎公開(前日計量):フルストリーム


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■オフィシャル

主審:ラッセル・モーラ(米/ネバダ州)

副審:
ティム・チーザム(米/ネバダ州)
デイヴ・モレッティ(米/州)
スティーブ・ウェイスフィールド(米/ニュージャージー州)

立会人(スーパーバイザー):未発表


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■L・ヘビー級の勢力図

<1>WBA:ビヴォル(スーパー王者/正規・暫定・ゴールド:無し)

<2>WBC:アルトゥール・ベテルビエフ(ロシア/37歳)
    17戦全勝(17KO)/H:182センチ,R:185センチ

<3>IBF:ベテルビエフ

<4>WBO:ジョー・スミス・Jr.(米/31歳)
    31戦28勝(22KO)3敗/H:183センチ,R:193センチ


175ポンドのトップ・ランナーを確実視されたビヴォルを抑えて、一足早く2団体を統一したベテルビエフは、来月18日に殿堂MSG(5千人収容のシアター)でWBO王者スミスとの3団体統一戦が決まっている。

コヴァレフと入れ替わるように現れた”ニュー・ロシアン・クラッシャー”が、タフなスミスを中盤から後半にかけて粉砕するとの見方が大勢。

カネロが首尾良くビヴォルを退けたあかつきに、ベテルビエフとの4団体統一(2階級を完全制覇した男子ボクサーはまだいない)へと進むのか否か。

ビヴォルが番狂わせをやってのけた場合、ベテルビエフとの覇権争いに臨むのは間違いない。


S・ミドルから上げたヒルベルト・ラミレス(H:189センチ/R:191センチ)は、WBA2位に付けてカネロへの指名挑戦が視野に入る。ただし、サリヴァン・バレラ,トミー・カーペンシーを含む4連続KO勝ちにもかかわらず、払拭し切れない”線の細さ”が気掛かり。

リオ五輪銅メダリストのジョシュア・ブァッツィ(英/29歳:15戦全勝13KO/H:188センチ,R:189センチ)、ロシアの国内選手権を制覇したアリ・イズマイロフ(ロシア/29歳:8戦全勝6KO/H:188センチ)も台頭の真っ最中。


そして、”打倒カネロの大本命”と目されるデヴィッド・ベナビデス(25歳:25戦全勝22KO/H:184センチ,R:189センチ)は、今月21日に168ポンドの暫定王座(WBC)をデヴィッド・レミューと争う予定。

ドーピング違反(コカインの主要成分を検出)だけでなく、体重超過による王座はく奪(WBC:ロアメル・アレクシス・アングロ戦)の前科があり、カネロと同じくWBC(とネバダ,カリフォルニア両州)から手厚いバックアップへの批判もどこ吹く風。

メンタルの図太さが自然と醸し出す「俺様キャラ」が、カネロに対しては「頼もしく」見えてしまうから困る。


ビヴォルの次は、村田を返り討ちにしたGGG。デレヴィヤンチェンコのボディアタックで散々痛めつけられ、村田にも前半は後退を余儀なくされた。

カネロ陣営はGGGのボディに狙いを定めて、集中的かつ徹底的に攻め続ける筈。コヴァレフと同じ末路へと追い込む算段。

大型の強打者がひしめく175ポンドへの定住は考えづらく、「168ポンドでやり残した唯一最大の仕事」に向かうのが、”真のスーパースター足る者の務め”だと、カネロ本人も周囲も嫌と言うほどわかってはいるのだろうけれども・・・。