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中京の雄がフライ級で初の指名戦 - 田中恒成 VS J・ゴンサレス戦 直前ショートプレビュー -

2019年08月24日 | Preview
■8月24日/武田テバオーシャンアリーナ,名古屋市/WBO世界フライ級タイトルマッチ12回戦
王者 田中恒成(畑中) VS WBO1位 ジョナサン・ゴンサレス(プエルトリコ)



中京の雄,田中が、フライ級で初の指名戦を迎えた。当日午後4時から生中継を行うCBCは、今時のTV局にしては珍しくボクシング中継に熱心で、田中の世界戦では、公開練習から予備検診,前日計量に至るまでカメラを入れて取材を行い、youtubeの公式チャンネルにアップしてくれる。

田中の状態はいつも通りで、減量も含めた調整は順調そう。対する小兵のチャレンジャーも、長旅の疲れを感じさせない精力的な動きで、実の父でもあるルイストレーナー(兼マネージャー)が構えるミットに、キレのいいパンチを打ち込んでいた。


「スピードとパワーは、これまで対戦した中ではおそらくNo.1.」

恒成自身のみならず、幼い頃からサポートを続けてきた父の斉(ひとし)トレーナーが、揃って好評価を口にして警戒感を露にするゴンサレスは、ブロンクス(ニューヨーク)出身のプエルトリカン。現在は一家の故郷カグアスに拠点を置き、米本土と行き来しながらキャリアを築く。

戦績は不明ながら豊富なアマ・キャリアを持ち、高校時代の田中が出場してベスト8止まりだったユースの世界選手権で、見事金メダルを獲得している(年度と階級は勿論違う)他、プエルトリコのナショナル・チームに常連として呼ばれ、国際大会の経験でも田中を上回る。

ロンドン五輪のメダル獲得を目指していたが、ハビエル・シントロン(先日江藤光喜との再戦で明白な判定勝ち/WBO J・バンタム級の指名挑戦権を得た)に代表の座を譲り、イヴァン・リベラ率いるPRベスト・ボクシング・プロモーションズ(Puerto Rico Best Boxing)の傘下に収まり、2011年4月にプロ・デビュー。父との二人三脚も、当然のように継続された。



当初からトップランクと共同プロモート契約を結び、大成への期待を寄せられていたが、世界戦線への進出を懸けたテストマッチ(2013年8月/WBOの下部タイトルマッチ)で、キャリア最終盤のジョヴァンニ・セグラ(メキシコ)とぶつかり、よもやの4回KO負け。

最軽量ゾーン(105~108ポンド)を席巻した同胞の大先達イヴァン・カルデロンを2度粉砕し、一時は108ポンド最強の評価を得たメキシコの強打者を空転させることが出来ず、カルデロンと同様キャンバスに沈んでしまう。


想定外のプロ初黒星により、トップランク,イヴァン・リベラとの契約は解消され、別のローカル・プロモーター(ハビエル・ブスティーリョ/ユニヴァーサル・プロモーションズ)に移ってカムバック・ロードを歩み、セグラ戦で獲り損ねたWBO直轄のローカル王座も獲得。

ようやく世界タイトル挑戦への道筋が見え始めた矢先、フィリピンの中堅ジョベルト・アルバレス(直前の試合でファン・F・エストラーダに完敗)とのチューンナップで、なんと6回KO負け(2016年3月)。セグラ戦以上の大番狂わせで、またもや急ブレーキ。

丸々1年休んで、2017年3月にメキシカンのアンダードッグを6回判定勝ち。無事に再起はしたものの、再び長期の戦線離脱。どうやら契約を巡って揉めていたらしく、同胞の中堅プロモーター,テュト・サバラのオールスター・ボクシング・プロモーションズ(All Star Boxing)に乗り換えて、昨年2月にリスタート。

J・バンタム級で連続防衛中だった井上尚弥に惨敗したリカルド・ロドリゲス(米),105ポンド時代の田中に大差の判定で敗れたフリアン・イエドラス(メキシコ)を連破し、108ポンドでアンヘル・アコスタに敗れたファン・アレホ(メキシコ)にも8回TKO勝ち。

ロドリゲス戦で獲得したNABO(WBO直轄の北米王座)のベルトを2度守り、指名挑戦の機会を得た訳だが、プエルトリコに本部があるWBO(パコ・バルカルセル会長もわざわざ来日)のプッシュがあったればこそ。


タッチゲーム全盛のアマで結果を残していただけに、戦術の基本は、待機型(サウスポー)の当て逃げタッチスタイル。カルデロンほどのフットワーカーではないが、適時距離を取って間合いを外し、相手を引き出しては軽めの単発でヒット(タッチ)を繰り返し、安全確実にポイントをまとめる。

勝利を第一に考え、あくまでポイントメイクが主眼。基本的に無理をしてまでKOを狙うことはない。その一方で、強打を交換する接近戦も嫌いではなく、打ち合いになると簡単に退かない気性の荒さも。

2度の敗北は、いずれも体格差が顕著なサウスポーで、距離を潰され当たり負けする中、ムキになって打ち合いに応じて自滅する同じパターンにハマった。

ただし、強引な強振で対抗する時のゴンサレスは、想像以上に荒々しく危険だ。アマのフライ級(リミット上限:52キロ)はプロ以上に大きな選手が多く、170センチ超も珍しくない。157センチのゴンサレスは、そこでそれなりの結果を出してきた。

フィジカルは強く(顎は打たれ脆いが)、倒すことを最優先していないだけで、思い切り振るうパンチは侮れない。田中もスピードを前面に押し出してアウトボクシングしていればいいのに、わざわざ打ち合って深手を負う。ポカ(ケアレスミス)も目立ち、ゴンサレス陣営は田中の悪癖をしっかり研究している筈だ。


ある意味、似た者同士の激突とも言えるが、体が温まり切らない立ち上がりは、特に注意と警戒が必要になる。丁寧に距離を見極め、足をサボらず、丁寧にラウンドをまとめる慎重さが求められる。

一旦流れを掴んでしまえば、負ける心配までは要らないと思うが、勝負はゲタを履くまでわからない。最後まで気を緩めることなく、判定,KOにこだわり過ぎずに、自分の距離をキープし続ければ、自ずと倒すチャンスも訪れるだろう。




□参考映像
<1>【WBO世界フライ級タイトルマッチ】田中恒成×ジョナサン・ゴンサレス 調印式・前日計量(2019/08/23)
https://www.youtube.com/watch?v=h2Dhg2paVYY

<2>田中選手とゴンサレス選手が予備検診
https://www.youtube.com/watch?v=DSDPubfB52g

<3>8/24世界戦に向けて公開練習
https://www.youtube.com/watch?v=pGkS3sVnTxU

<4>防衛戦の相手が公開練習
https://www.youtube.com/watch?v=0o9keyei4kc

<5>ゴンサレス選手が来日
https://www.youtube.com/watch?v=Q2pL2Qm7yVo


◎王者 田中(24歳)/前日計量:112ポンド(50.8キロ)
WBOフライ級(V1),元WBO M・フライ級(V1/返上),前WBO J・フライ級(V2/返上)王者
戦績:13戦全勝(7KO)
アマ通算:51戦46勝(18RSC・KO)5敗
中京高(岐阜県)出身
2013年アジアユース選手権(スービック・ベイ/比国)準優勝
2012年ユース世界選手権(イェレバン/アルメニア)ベスト8
2012年岐阜国体,インターハイ,高校選抜優勝(ジュニア)
2011年山口国体優勝(ジュニア)
※階級:L・フライ級
身長:165センチ
リーチ:163センチ
首周:36.5センチ
胸囲:82センチ
視力:左1.2/右0.8
ナックル:左右とも25センチ
右ボクサーファイター

◎ゴンサレス(28歳)/前日計量:112ポンド(50.8キロ)
戦績:26戦22勝(13KO)2敗1分け1NC
アマ戦績:不明
2008年ユース世界選手権(グァダラハラ/メキシコ)金メダル
2010年パン・アメリカン選手権(キト/エクアドル)2回戦敗退
2010年中米・カリビアンゲームズ(マヤグエス/プエルトリコ)金メダル
2008~2010年プエルトリコ国内選手権優勝
※階級:フライ級
身長:157センチ
リーチ:159センチ
首周:36.5センチ
胸囲:80.8センチ
視力:左右とも0.6
ナックル:左右とも27センチ
左ボクサー




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■オフィシャル

主審:セレスティーノ・ルイス(米/イリノイ州)

副審:
ウィリアム・リーチ(米/イリノイ州)
マイク・フィッツジェラルド(米/ワシントン州)
エドワルド・リガス(比)

立会人(スーパーバイザー):安河内剛(日/JBC事務局長)