ネットオヤジのぼやき録

ボクシングとクラシック音楽を中心に

Battle of Brisbane - 7年半ぶりのKO勝ちか、歴史的アップセットか。 - パッキャオ VS ホーン 直前プレビュー -

2017年07月02日 | Preview
■7月2日/サンコープ・スタジアム,ブリスベーン(豪)/WBO世界ウェルター級タイトルマッチ12回戦
王者 マニー・パッキャオ(比) VS WBO4位 ジェフ・ホーン(豪)



8冠王パッキャオが、初のオーストラリア上陸。昨年11月5日、ラスベガスでジェシー・バルガスを大差の3-0判定に下して実戦復帰したパックマンに、御大ボブ・アラムが用意した次なる相手は、国際的には無名の豪州人だった。

パッキャオ自身はアミル・カーンとの対戦を臨み、ツィッターで直接交渉するなど、オセアニアへの遠征に前のめりになるアラムをけん制。中東の投資家グループが3800万ドル(!)を注ぎ込み、4月にUAEで開催するとの具体的な記事まで報じられたが、アラムは「(巨額のオイル・マネー提供は)正確な情報ではない。」と一蹴。

「そう慌てなさんな。じきにはっきりする。マニーはオーストラリアへ行く事になるよ。」


余裕綽々でインタビューに答えるアラムの言葉通り、3800万ドルのオイル・マネーは胡散霧消。無名選手の選択に批判的な専門メディアを尻目に、アラムは吼える。

「ジェフリー・ホーンが戦う姿を、君たちは真剣に見たことがあるかね?。確かにビッグネームではないが、非常に優れたボクサーだ。アミルには気の毒だが、私は(カネロにKOされた)彼より、若くて勢いのあるホーンを買っている。」


ロンドン五輪にL・ウェルター級代表として出場したホーンは、ベスト8で敗れはしたものの、予想を超える活躍を評価され、国内における一定の認知と人気を確保した。プロデビューは2013年3月。特定のプロモーターとは組まず、マネージャー兼トレーナーのグレン・ラシュトン(アマ時代=2006年からのコンビ)が直接ハンドリングしていたが、メルボルン近郊のセント・キルダ(美しいビーチで有名)にオフィスを構え、現WBOヘビー級王者ジョセフ・パーカーを傘下に収めるデュコ・イベンツ(Duco Events)と2014年に契約。

アラムの目に止まったのは、メキシコ系初のヘビー級王者を目指すアンディ・ルイス・Jr.が、パーカーに挑戦した昨年12月10日のニュージーランド興行だった。ヘビー級プロスペクトを連れ立って、人口150万の大都市オークランドに到着したアラムは、セミ格の10回戦に登場し、大ベテランの元ライト級コンテンダー,アリ・フネカ(南ア/39歳)を2度倒し、第6ラウンドでストップに追い込んだホーンを見逃さなかった。

デュコ・イベンツ(2004年設立)で実務を取り仕切るディーン・ローナガンは、ラグビーのプロ選手から身を興し、引退後チームの経営に携わる。その手腕をオーナーのデヴィッド・ヒギンズに見込まれ、同社にヘッドハントされた。



アラムはローナガンとヒギンズの人柄は勿論、合理的にオーガナイズされた実行部隊にも好感を持ち、ビジネス・パートナーとして信頼に足る相手だと判断したようである。そうと決まれば話は早い。パッキャオ VS ホーンの具体化へと、一気に突き進んだという次第。


「ジェフリー・ホーンは、間もなくトップスターの仲間入りを果たす。ウェルター級の第一人者になるだろう。」

右の1発のみならず、果敢に打ち合うホーンの積極性を、アラムは大いに気に入ったらしいが、プロボクシングの裏も表も知り尽くした古狸だけに、額面通りに受け取る訳にはいかない。

攻撃的な右の正統派で、スピードはまずまず。サイズにも不足はなく、肉体的なタフネスにも問題はなさそう。オリンピックに出ただけあって、基本はしっかり出来上がっている。40歳を超えたランドール・ベイリーと、39歳のフネカ以外に目ぼしい名前は見当たらず、プロの経験と実績は充分とまでは言い難い。

攻撃的であるが故に、攻防にキメの粗さが残るホーンなら、ミゲル・コット戦(2009年11月)を最後に途絶えて久しい、パッキャオのKO勝ちが期待できるのではないか。そうした皮算用をアラムが弾いたのは間違いのないところで、ローナガンとラシュトンもアンダードッグの役回りを重々理解している筈だ。


賭け率も正直である。

○○○○○○○○○○○○○○○○○○

□主要なスポーツ・ブックのオッズ

<1>5dimes
パッキャオ:-650(約1.15倍)
ホーン::+450(5.5倍)

<2>BOVADA
パッキャオ:-600(約1.16倍)
ホーン::+400(5倍)

<3>BETONLINE
パッキャオ:-530(1.18倍)
ホーン::+415(5.15倍)

<4>ウィリアム・ヒル
パッキャオ:1/7(約1.14倍)
ホーン:5(6倍)
ドロー:2.5(3.5倍)

<5>Sky Sports
パッキャオ:1/6(約1.16倍)
ホーン:5(倍)
ドロー:2.5(3.5倍)


メイウェザー戦当時のパックマンなら、数字はもっと極端に開いていただろう。東洋の超人も今年の暮れに39歳になる。政治家とボクサーの二束のワラジが本格化してから、既に7年以上が経過。ノックアウトできなくなった最大の原因は、マルケス戦の歴史的なKO負けや加齢がもたらす肉体的な衰えではなく、物理的経済的に満たされた事による飢餓感の欠如にあると、そんな見方をする人たちも少なくない。

負担が増す一方の政治活動との両立も、年々歳々困難の度合いを深めているが、巨額の寄付活動を裏づけする資金を捻出する為には、心身が続く間はボクシングで稼ぐ必要がある。熱狂的な同胞の支持が、英雄パッキャオを闘いのリングから降ろそうとしないことも、事実には違いないけれど・・・。




冷静に両雄の現在地を比べて見れば、力の差ははっきりしている。フィリピンからセサール・アモンソット(S・ライト級に上げて現役を続けるベテラン・サウスポー)を招聘。仮想パッキャオに見立てた実戦スパーで汗を流し、スティックミットを使ったスピードトレーニングにも取り組んだ。しかし、手足&体全体の速さとスキルにはかなりの差がある。

「ファン・M・マルケスのカウンターも採り入れている。」と、トレーナーのラシュトンが挑発気味に語っているが、恵まれたフィジカルの強さを頼りに、プレッシャーをかけて強打するスタイルを、いきなり待機型のカウンター・パンチャーに変えるのは非現実的。

万全のパックマンなら、ハットン戦やコット戦の再現も充分にあり得ると思うけれど、7~8年前と同じ運動量と手数を求めるのは流石に酷だ。右の破壊力を警戒しながら、丁寧な出入りと的確な連打で、着実にポイントを引き寄せるボクサーファイトに徹するのがベター。

クロッティとマルガリートを完封した仕上がりまでは望まないが、ブランドン・リオスを寄せ付けなかった左右の動きは欲しい。成功に飢えた無名戦士の野望が、ハングリネスを喪失した熟練の業と経験を呑み込むアップセットは日常茶飯。いつでも起こり得る。最後の最後まで、油断は禁物・・・。


◎パッキャオ(38歳):前日計量145ポンド3/4
戦績:67戦59勝(38KO)6敗2分けNC
身長:166センチ,リーチ:170センチ
左ボクサーファイター

◎ホーン(29歳):前日計量146ポンド1/4
戦績:17戦16勝(11KO)1分け
アマ通算:40戦37勝3敗(?)
2012年ロンドン五輪L・ウェルター級代表(ベスト8敗退)
2011年世界選手権(バクー)L・ウェルター級代表(2回戦敗退)
身長:175センチ,リーチ:173センチ
右ボクサーファイター



いつも通りのウェイトで仕上げてきたパッキャオ。バギオでの一次キャンプで動き出すと、「こんなに体の重そうなマニーは見た事がない。」と、なかなか調子が上がらないヒーローを危ぶむ声が聞かれたが、二次キャンプに入って以降公開されたフレディ・ローチとのミット打ちやシャドウは、相変わらずの切れ味だった。

気になって仕方がないのは、パッキャオの表情。直近のバルガス戦と比較しても、今1つ精悍さが感じられない。と言うより、疲労が滲み出ているようにも見える。16歳の時から、20年以上もプロの世界で闘い続けてきたのだ。特に渡米して成功してからは、ハードなマッチメイクの連続。疲れが出ない筈がない。

本番のリングでは、野性味に溢れた鋭い視線が蘇ってくれるものと信じたい。オールドファンの杞憂に終わってくれれば、それが何より。


○○○○○○○○○○○○○○○○○○

□オフィシャル

主審:マーク・ネルソン(米/ミネソタ州)

副審:
ラモン・セルダン(亜)
クリス・フローレス(米/アリゾナ州)
ウォレスカ・ロルダン(米/ニューヨーク州)

立会人(スーパーバイザー):フランシスコ・パコ・バルカルセル(プエルトリコ/WBO会長)





●●●●●●●●●●●●●●●●●●

■会場はラグビーW杯の決勝が行われたスタジアム

試合会場のサンコープ・スタジアムは、1914年にオープンした由緒ある屋外競技場で、収容人員は52,500人。開場当時の名称は、ラング・パーク(Lang Park)と言った。90年代末から4~5年をかけて改修工事が行われ、2003年にリニューアルされている。

2005年以降、クイーンズランド・レッズ(スーパー・ラグビーに参戦するトップ・チームの1つ)が本拠地にしている他、オーストラリアの代表チームも準ホームとして使用するという。



5月末の段階で、4万枚超と伝えられた前売りチケットの売上は、その後4万7千枚まで数字を伸ばし、最終的な動員(招待客を含めて)は5万人を突破すると見られている。パッキャオは、2010年3月(ジョシュア・クロッティ戦)と11月(マルガリート戦)の2回、テキサス州アーリントンのカウボーイ・スタジアムを2度満員にした記録があり、オーストラリアでも同水準の集客を実現したのは流石。




記念碑的な大興行に、日本国内で活動するボクサーが世界戦の挑戦者として参加できるのは、素直に喜ばしい事だと思う。ゾラニ・テテを前に何もさせて貰えなかった屈辱を、大観衆の前で是非とも晴らして帰国して欲しい。

勝敗よりも大事なものが、プロのリングには確かに存在する。自らの精神と肉体の限界を乗り越え、ありったけの勇気を振り絞り、死力を尽くして最大の難局に立ち向かう。そのひたむきな姿に、人間は心からの感動を覚え、打ち震えるのである。


この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« パックマンの5万人興行に帝里... | トップ | ”ブラッドリー商法”再び・・... »