陶芸みち

陶芸のド素人が、その世界に足を踏み入れ、成長していく過程を描いた私小説です。

その192・仲間

2010-08-04 09:43:06 | 日記
 式の後、いったん全員で訓練棟にもどり、各々に荷物をまとめた。仲のいいクラスメイト同士の別れの挨拶があちこちではじまる。そんなものはバカバカしいし照れくさいし、そもそも嫌われ者のオレなので、ひとの輪から遠ざかっていた。手持ち無沙汰に、前夜の宴の残り物が入った段ボールから酒をあさる。そのさびしげな姿を見つけ、数少ない仲間たちが近寄ってくる。律儀に、さよならを言いにきてくれたのだ。
「これからもお互いがんばろうなっ、なっ」
 飯田さんは生き生きと笑った。
「いろいろありがとね・・・」
 あっこやんはビー玉のような涙をぽろりぽろりと落としてくれた。
 最後にヤジヤジに差し出された手のひらを握り返して、オレはびっくりした。胸が詰まって、なにも言えないのだ。声がつっかえて出てこない。
「あの・・・みんな・・・あの・・・その・・・」
 口元で無理矢理に笑顔をつくってごまかした。こんなはずじゃないのに。
「あの・・・あ・・・あの・・・」
 やっとの思いで言葉をしぼり出す。
「ありがと・・・」
 そそくさとその場を離れた。
 三人はかけがえのない仲間だった。この連中がいなかったら、ここまでがんばることはできなかった。気がつくと、心の中は感謝の気持ちでいっぱいになっていた。だけどまともに相手の目を見られない。言葉にならない。もっともっとこの気持ちを伝えなきゃいけないのに・・・
 そして、他のみんなにも。悪態ばっかついてごめんなさい。協調性がなくてご迷惑をおかけしました。出し抜いてやろう、飛び抜けた存在になってやろう、というケチな了見ばかりで動いて申し訳ないです。ただただがむしゃらだったのです。終始一貫、トップギアでした。そうしなければ、間に合わなかったのです。人生に尻をつつかれていたのです。そういう追いつめ方をしていたのです。許してね」
 ・・・というエクスキューズを考えたのだが、それもまた恥ずかしくて言いだせなかった。まあいいか、最後まで、変人で。

東京都練馬区・陶芸教室/森魚工房 in 大泉学園