陶芸みち

陶芸のド素人が、その世界に足を踏み入れ、成長していく過程を描いた私小説です。

その57・ツカチン

2010-02-03 09:04:19 | 日記
 とにかくヤツに追いつき、追い越すことを目指すのだ。結果(好感度アップ)はあとからついてくる。こうしてオレは、ヒマさえあれば自分のすぐ後ろの席でろくろを挽くツカチンの手元に見入り、技術を盗みだそうと姑息に努力をはじめた。
「むむむ・・・」
 凝視。ろくろ挽きする指先を好敵手が修羅の形相で見つめるので、ヤツは困っていつも苦笑いした。
「・・・やりにくいな。見ないでくれよ・・・」
「いいから。つづけたまえ」
「こめかみに血管が浮いてるよ」
「うるさい。眼光で焼き切ってやらー」
 しかし気にするどころではない。オレがツカチンのかたわらに立って観察にはいると、たちまちヤジ馬が集まり、黒山の人だかりが築かれた。ここぞとばかりにトップランナーの技を真似ようという者や、アイドルロクラーの見目うるわしき姿カタチ自体を鑑賞しようというミーハー女などが、アリんこのように集まってくるのだ。
「しょうがないな・・・」
 ツカチンは面映そうにしながらもワンマンショーを開始し、特別な技をさりげなく披露したり、リクエストやアンコールに静かに応えたりした。ヤツはまぎれもなくスタープレイヤーだった。女子の熱視線の半分はいずれオレに向けられることになるはずのものなのだが、今はヤツの独り占めだ。それがまた、オレの燃えさかる闘争心に油を注いだ。憎しみさえわいてくる。ただ、ヤツのろくろの手際にはひたすら感服するしかないのも事実だった。
 ヤツの指は実にきめ細やかに動いた。先生のデモンストレーションを見たわずか翌日には、先生のそれと遜色のないものを挽いてしまう。イワトビ先生は「ここぞ」というときにしか手本を示してくれないため、くやしいが、オレにはツカチンの技術がたよりだ。それはみんなにとっても同じようで、たまに美しい女子や、そうでない女子がツカチンにコツを訊きにくる。するとヤツは魅惑的な笑みを目もとにたたえながら、ささやき声と優雅な指テクで彼女たちの疑問を解決してやるのだった。女子はほおを火照らせ、恋に落ちた処女のようになって席へともどっていく。その手際も、やはり熟達したものだった。

東京都練馬区・陶芸教室/森魚工房 in 大泉学園